涙の理由
知られた、知られた、知られた!
屋上から校舎裏へ降り立った楓は、上履きのまま校門を後にして校舎外へ飛び出した。
脳裏に浮かぶのは、驚きと戸惑いに満ちた百合の顔。もし今回のことで、思い出してしまったら……。
そんな不安と焦燥が入り混じったまま、いつの間にか自宅に着いていた。
「あら、お嬢様。お早いお帰りで……って、お嬢様?」
廊下ですれ違う家政婦が声をかけるが、楓の耳には届かない。そのまま廊下を進み、二階にある自室へ。
背中からベッドに倒れ込み、見慣れた天井を見上げて目を瞑る。
思い返すのは、そう。二人が出会った頃のこと。
「泣いてた、楓。だから教えて、私の知らない楓のこと」
距離を詰め、真っすぐ見返してくる百合。
その姿が、一人の少女と重なる。
見た目だけじゃなく、真っすぐなところまで瓜二つ。
本当、嫌になるほどに。
「あらかじめ言っておくと、あの子の力と家系は説明できるけど、何を考えてるかまでは分からないわよ?」
「いいよ、それで。少しでも知らないと踏み込めないから」
何ら臆することない返答。それに雪は嘆息し。
「いいわ、じゃあ話してあげる。私の知っている、楓の――龍宮寺、退魔一族について」
まだ寒い日の早朝。
道場に裸足で踏み入ると、足の裏がひんやりと冷たいのを今でも覚えている。
「いいですか、楓。体内に巡る血を感じ取り、精気の流れを掴みなさい。そしてその精気を体外へ放ち、形を成す。それが龍宮寺家に伝わる戦闘技法――気刃顕現」
小学生の楓の前に立つ道着姿の凛はそう告げ、静かに目を閉じる。すると全身から光の泡があふれ、それはすぐさま一振りの日本刀となった。
宙に現れたそれを手に取り、目を開く凛。
「さぁ、やってみなさい。楓」
「はい、おばあ様」
抑揚のない声色で応え、楓は右手を前に突き出す。
「気刃――顕現」
すると、急速に光の泡が溢れ出し日本刀……気刃となった。何の感慨もなくそれを手に取り、目の前の空を試しに薙ぐ。
「出来ました、おばあ様」
その光景を前に、凛は目を見開いた。
初めての訓練で、こうも容易く気刃顕現を行えるのかと。それと同時に、胸の奥にずしりと重いものも。
まだ幼い孫娘に、悪なるもの――イビルを滅する龍宮寺家、退魔一族の重荷を背負わせていいのかと。
「おばあ様、次は何をすれば」
これは、龍宮寺楓が上石百合と出会う前のはなし。




