放課後屋上にて
ケルベロス事件から一夜明けた、月曜放課後。百合と雪は清峰学園生徒会室にいた。
「それじゃあ、私は生徒から投稿のあった校内危険箇所の見回り行ってくるから」
「私は活動日誌を見返しておけばいいのね。了解したわ」
「先ずは、活動内容知ってもらうのが先決だからね」
そう言い残し、ヒラヒラと手を振りながら百合は廊下へと消えていった。
それを確かめ、雪はふっと一息。
あの後、百合から発せられた光の泡は知らぬ存ぜぬで通したが、果たしてどこまで信じているか。
そんな事を思いながら、日誌を開こうとしたときだった。ドアが軽く二回ノックされた。
「空いているわ」
紙面から顔を上げることなく、入室を促す。するとドアが開き。
けれど、入室者は何も声を発さない。
視線だけ上げる。すると、その眼前に日本刀の切っ先が突きつけられていた。
「話がありますわ。屋上へ」
入室者、楓によって。
「あら、遅かったのね」
「ここなんだけどさ、会長」
促され入室した女子更衣室。とあるロッカーの前に立った百合は、取手に手をやり力強く引くが。
「ホントだ、全然ダメだね」
何度引いてもびくともしない。
鍵は刺さったままだから、錆か歪みといったところだろうか。
諦め、案内してもらった女子生徒から預けていたバインダーを受け取り、要改善と書いていく。
「ねー会長、この後みんなでカラオケ行くけど会長もどう?」
「カラオケかぁ~」
ペンを口元にやり、眉間にしわを寄せる。
「めっちゃ行きたいんだけど、でもゴメン! まだ仕事あるからさ」
パンッと手を合わせ頭を下げる。すると女子生徒は唇をとがらせ。
「ちぇ。でもしょうがないか、我らが会長だもんね。でも無理はしないでね」
「はーい。けど、みんなもあんまり遅くなっちゃダメだからね」
そうして更衣室を後にした百合は、ドアに背を預け深く一息。
目を閉じると、浮かび上がるのはあの夜の光景。
ケルベロスと、グラウンドに溢れる淡い光。
雪はあの光の泡に心当たりはないと言っていたけれど、あれは何だったのだろうか。
考えても答えは出てこない。
もう一度バインダーに視線を落とす。
次の目的地は、屋上のフェンスのグラつきか。
「とりあえず、仕事を片付けますか」
「話って何かしら? まさか愛の告白かしら」
屋上に移動した雪と楓の二人。道中からずっと殺意を隠さない楓が、雪に右手を向ける。するとその手の周りに淡い光の泡が溢れ出した。やがて、それは固まり形を成す。
一振りの日本刀に。
「あのケルベロスとの一戦は何なんですの。百合ちゃんを危険な目に合わせて」
「あぁ、やっぱり。あの日貴女いたのね」
「えぇ、全て見ていましたわ。――百合ちゃんが、無意識下に精気を放出したことも」
そう口にし、奥歯を噛む楓。そんな彼女に雪は微笑み。
「そう。それで、それが何か問題かしら?」
「ッ!!」
瞬間、何かが切れる音と共に、楓は刀を正眼に構えた。
「やはり、貴女はここで消えていただきます」
そんな楓の様子に、雪は髪をかきあげ嘆息し。
「まぁ、いいわ。いずれ孫が噛みつきに行くだろうから揉んでくれって、凛に頼まれていたしね」
「お祖母様が!?」
予想外な人物の名前に、楓の中に一瞬戸惑いが生まれる。そしてそれは、戦場においては、致命的な隙。
「遅いわよ」
肉薄した雪が、楓の頭部に向けて右足を蹴り上げる。
慌てて後退、距離を取る。
お祖母様がなぜ、この女と? どんな関係が?
頭に浮かぶいくつもの疑問。
「戦闘中に考え事なんて余裕ね」
嘲笑と共に迫る追撃。雪の上段への蹴りが、楓の額に直撃した。
――けれど。
「確かに、そんな事些事でしたわね」
口にし、ふーっと気を静めるように息を吐く楓。
ほぼ本能。雪は慌て飛び退いた。すると、半拍遅れて一閃の煌めきがその場を凪いだ。
「話していただきますわよ。百合ちゃんを、どうするつもりか」
驚き、目を見開く雪。その眼前で、自身の髪が一本ゆらゆらと空を舞い地に落ちた。
油断はなかった。けれど、想定以上の速さ。
その事実に、雪はほほ笑みを浮かべ。
「昔なじみの頼みで面倒だと思っていたけれど、気が変わったわ」
自身の周りに、炎花を展開する。
「死なない程度に遊んであげる」




