表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/24

優しい選択

 時は少し戻り、百合と守はグラウンドへと向かうべく廊下を走っていた。

「あの、私達が行っても邪魔になるんじゃないでしょうか」

 後ろを走る守が、ふと漏らした。

 それに百合はピタリと足を止め。

「雪には怒られると思います。邪魔だって。けど」

 百合の中に湧き上がる言いようのない不安。

 確かに、ケルベロスを観た瞬間その姿に恐怖を感じた。けれど、保健室で遭遇したイタチのイビルみたいな、背中から震えるような、本能的な畏怖は受けなかった。

 もちろん、自殺した生徒の話を聞いた故の感情移入かもしれない。けれど、このまま二人を戦わせるのは。

「駄目な気がするんです。上手く言えないけど……あの子は」

 そこまで口にし、ブンブンと頭を振り。

「もしいざとなったら怒られる準備はできてますから。だから行きましょう」

 そうしてまた走り出した二人は、一階に降りて昇降口へ。

 昇降口から飛び出すのと同時。

「バカッ! どうして降りて」

 耳に届いたのは、珍しく声を荒げた雪の怒声。

 やっぱり怒られたと思いながら、声のした方へと視線を向ける。

「――え?」

 こぼれた声。

 その目に飛び込んできたのは、轟々と燃え盛りながら目前まで飛来する火球だった。

 火球と、その奥、駆け出す雪。その全てが百合の目にスローモーションに映る。

 あぁ、ダメだ。

 思わず目をつぶる。

 火球が何かに当たった爆音と熱風が百合を襲う。けれど、不思議と痛みはない。

 ――なぜ?

 恐る恐る目を開ける。

 立ち込める煙。その中で、まるで百合たちを守るようにケルベロスが横たわっていた。

「セン……セイ。ダイ、ジョウブ?」

 横たわったまま、顔だけ上げ百合の背後にいる守を見やり、確かにそう口にする。

「――佐藤!?」

 その言葉を耳にした瞬間、足をもつれさせながらもケルベロスへ向けて守は駆け出した。

「佐藤! やっぱり佐藤なんだな!」

 傍らに膝をつき、顔を覗き込みながら呼びかける。

「ヨカッタ。センセ、イ、ケガ、ナイ」

「あぁ……あぁ! お前のおかげだ。ダメだな、俺は先生なのに、お前に守られて」

「コン……ドハ、セン、セイ……キズツ、ケナイデ、スン――ッ!?」

 突如、言葉に詰まるケルベロス。

「佐藤!? どうした、佐藤!」

「センセイ……キズツケ、ダレガ、ボク、ガ」

 苦しみだし、口の隙間から涎が垂れる。

「ソウ、ダ、アノ、ヒト、ノイウ、トオリダ。ボク、ノ、セイデ、セン、セイハ」

 うわ言のように口にしたケルベロスの双眸が怪しく光り、突如として、真ん中の顔が大きく顎を開いた。自らの名前を呼びかけている守に向けて。

「――え?」

 固まる守。

 ケルベロスが僅かに上体を起こした刹那、そんな彼の首根っこを雪が掴み、引きずり倒した。そして、一拍遅れて守の頭部があったその空間を、ケルベロスの顎が噛み砕いた。

「さ、とう?」

 信じられないといった様子のケルベロス。そして、それはケルベロスも同じで。

「ボク、イマ、ナニヲ」

 空を見上げ、咆哮を上げる。やがて、その叫びが響き渡るとケルベロスはその双眸から涙を流し、雪を見やった。

「オ、ネエサン。ボクヲ、コロシテ」

 その言葉に、全員が息を呑む。

「コノママ、ダト、ボクワマタ」

「本気、なの?」

 雪の言葉に、どこか穏やかに頷くケルベロス。しかし、誰もが受け入れられる訳がない。

「待ってください! この子は」

「えぇ、今となっては分かるわ。なぜか元の人格が残ってる。けどね、その人格が訴えてるのよ。大切な先生を傷つける前に、殺してくれと。なら――」

 奥歯を強く噛みながら、雪はケルベロスに向けて右手を向ける。その先には、火炎球が。

「ここで、救ってあげるしかないじゃない」

 雪のその言葉に、抵抗していた守も地について手で地面のコンクリートを握り、強く目をつぶる。

「アリガ、トウ、オネエサン。イマ、マデ、アリガトウ。セン、セイ」

 その姿は確かに禍々しいケルベロスだ。けれど、確かにそれは微笑み――

「ダメー!」

 誰もが受け入れかけたその時、夜のグラウンドに、一人の少女の叫びが木霊した。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ