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先生って呼ばないでくださいっ!  作者: 矢崎慎也
第2章 ライバルは増える?
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Ep.4 心機一転?形勢逆転?①



「んんんんんんん」

「どうしたんですか、先輩」



 放課後。図書館で、いつものように俺と瑠美は勉強に励んでいた。



「いや、修学旅行の土産で買ったこの『おしるこ八つ橋』なんだけどさ」



 小豆味と大して変わんないだろ、と思いつつもチャレンジャー精神がうずいて買ってしまったこの一品。なんというか、甘さ控え目な割に歯を立てると中から汁(お汁粉か?)が出てきて……正直、あまり美味しくはない。



「あははは。私がいただいた『サイダー八つ橋』は、しゅわしゅわしていてとっても美味しかったんですけどね。先輩、なんでおしることかソーダとか……不思議な味ばっかり買ってくるんです?」



 言葉の選び方が巧い。素直に「変なの」と言ってくれても俺は全然構わないんだが。汐音には遠慮なく言われたし。



「いや、だって普通のもの買ってきても面白く無くないか? 中学校の時に一通り買ったことあるものばっかりだったし」

「あ、悠馬先輩は中学校のときも京都に行ったんですか?」

「え? ああ。もしかして瑠美は違うのか?」

「私は沖縄でしたよ! 初めて飛行機に乗ったので、大はしゃぎしちゃって……」



 懐かしそうに話し出す瑠美。ちょっと前までは、過去の話を自分からすることなんてほとんどなかったのに、随分と変わったものだ。また俺と話すときに極端にビクビクすることは無くなった。



(瑠美、変わったな。いい方向、だと思うけど)



 彼女の嬉しそうな顔を見ていると、学校一の美少女が俺と隣り合って会話をしているというこの状況を変に意識してしまった。少し不埒ふらちな方向に行きかけた思考を押しとどめ、手元の単語プリントに意識を切り替える。



 俺と瑠美は、ある程度の時間勉強するごとに10分ほどの休憩時間を設けている。人間の集中力なんてたかが知れてるし、5時間ぶっ続けで勉強するのは効率が悪い。それにずっと机に向かっているのは肩が凝ったり腰を痛めたりと、健康上あまりよろしくはないそうだ。



 つい先日修学旅行から帰ってきたばかりの俺は、そこで買ったお土産の余りをパクパクとつまみながら、肩をぐるんぐるんと回す。コキコキッという音がなり、自分の身体が相当固まっていたことに気づかされた。



「あ、そうだ瑠美。ちょっと見て欲しいものがあるんだけど」

「はい! えっと、なんでしょうか?」



 鞄をゴソゴソとまさぐり、お目当ての物、A3サイズの冊子を取り出す。



「6月の初めに受けたマーク模試の結果が返ってきたんだけどさ」

「あ、前に自己採点の結果を教えてくださったやつですね」

「そうそう」



 マーク型の試験は、問題用紙に自分の選択肢の番号をメモしているから、模範解答が配られれば自分でも丸付けができる。俺にとっての先せ……師匠?である瑠美には、試験の翌日に科目ごとの点数だけは伝えていたんだが、



「英語117点、国語112点、世界史74点……第一志望はE判定、ですか」



 瑠美は結果が書いてある表面だけではなく、俺がどの問題を間違えたのかや大問ごとの点数、さらには第2志望以下の大学の欄まで目を通していく。



(な、なんか恥ずかしいな……)



 点数は元から知られているし、今更知られて困るものはないのだが、後輩の女の子に模試の成績を凝視されるというのはどうも落ちつかない。



 一通り目を通したであろう頃合いを見計らって、俺は瑠美に本題をもちかけた。



「前に比べたらだいぶ点数は上がったんだが、判定は変わらずEのままでさ。もう少し点数を上げたいんだけど、何をすればいいか聞きたくって」

「んー……そうですね。第一志望の明央大は志望者も多いですし、浪人生の方も数多く受験しますからよい志望校判定を取るのはなかなか難しいんです」



 部活を引退して本格的に受験勉強を始める人もいますからね、と付け加える。そうだった。俺も瑠美も、なんならハルトも帰宅部だから忘れていたが、高校生のほとんどは部活動に入ってるんだった。引退の時期は様々だが、一番多いのは高校3年生の1学期だって、以前長谷さんも言ってた気がする。



「マジか。これ以上ライバルが増えるのはやめて欲しいんだが……」

「でもでも! 悠馬先輩だって成績は絶賛上昇中なのですよ! 世界史なんて、あと2問正解していれば8割を越えますし」



 陰鬱な気分になりかけた俺を励ましてくれる瑠美。まぁ、確かに成績は下がっては無いよな。判定こそ変わらないままだが、偏差値、順位、得点のすべてが2年生で受けた記述型の模試よりは上がっている。



「そうですね……そろそろ、先輩も過去問を始めてもいいかもしれません」

「過去問? 入試のか?」

「ええと、正確にはセンター試験と、その模試の過去問ですね。マーク型の試験では特に、「どれだけ問題傾向に慣れているか」が解くスピードに影響してきますから、同じ形式の問題を何度も解いてる人の方が優位に立てるんです」



 過去問はちょっと俺には早いんじゃないだろうか、と思ったが確かに慣れは大事かもしれない。この模試を受けたときも、英語は前半の文法問題で時間を使いすぎて後半の長文問題に満足な時間を割くことができなかった。大6問なんかほとんど全問カンで解いたし。



「英語の長文とか現代文を読むスピードは、経験と慣れで大きく短縮できます! 長文問題は配点の高い問題が多いですから、そこでしっかりと得点できれば……」

「全体の点数も上がるってことか。なるほどな」



瑠美の言う通りにしようと決めた俺は、そこである問題に気づく。



「その、過去問って高いのか?」



 学習参考書は、高校生からしたら値が張るものが多い。私立大学の過去問なんて、マイナーどころは2000円を優に超えていたものもあった。せっかく塾に行かずに頑張っているのに、ホイホイと高い参考書を買っていたら本末転倒だ。



 質問された瑠美は一度きょとんとした表情を浮かべた後、口元に笑みを浮かべてこう答えた。



「ふふ、いくらくらいだと思います?」



 口調が少し意地悪なものになっている。前から思っていたがこの子、見かけによらずSの要素が多分にある気がする。小悪魔っぽいというかなんというか。



「1000円くらい、か?」

「違いますよ!」

「1500円!」

「全然違います!」

「……ってことは、500円?」

「ふふ、もっと安いです!」



 500円より安い? そんな本はジャ〇プの単行本とN〇Kのラジオ教材しか心あたりがないぞ、と驚いていると彼女は答えを発表した。



「正解は……図書館で借りられるので0円です!」

「……」

「公立高校でも私立高校でも、センター試験の最新年度の過去問集を1冊は仕入れてます。過去のものは貸し出しが許可されている場合も多いですので、わざわざ買わなくても大丈夫なんです!」

「そっか、それは助かるな」



 してやったり、という表情を浮かべる瑠美のもちもちな頬を思わずぐにぃと軽く引っ張る。ほんとに軽く、つまむ程度の力だ。決して俺が楽しいからやっているんじゃないからな!



「ふいひゃふぇん、ひょうひうぃうぉうぃうぁうぃうぁ!(すみません、少し調子に乗りました!)」



 とペコペコしてる彼女の頬をひとしきり弄びながら、ほっと安堵した。早速明日にでも借りに行くことにしよう。



___________



 そして翌日の放課後。



「皐月くん、私に勉強を教えてちょうだい!」

「せ、先輩! 早く図書館に行きましょう!」



 ああ。どうしてこうなったんだろう。


ヒロインは増えるもの。ハーレムものじゃないです!

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