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先生って呼ばないでくださいっ!  作者: 矢崎慎也
第2章 ライバルは増える?
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Ep.4 心機一転?形勢逆転?②



 遡ること数時間前―



「だから、when節とif節の中の時制は現在形になることがあってだな……」

「……なるほどな。にしても皐月、お前すげぇな」

「あ? 何がだよ」

「ちょっと前まで俺とクラス最下位を争ってたのにさぁ。置いてかないでくれよ~」

「いいからさっさとメモをとれ。もう次の授業始まるぞ」



 はぁ、とため息をつく。休み時間にクラスメイトの広瀬ひろせから「皐月! お前この前の定期テスト点数良かったよな⁉」と迫られたので、俺は質問された英語の問題の解説をしてやっていた。



「(といっても、ほとんど瑠美の受け売りなんだけどな)」



 多少成績が上がってきたとはいえ、人に教えるなんてレベルには到底達していない。コイツが聞いてきたところが、たまたまつい先日俺が間違えて瑠美に説明してもらったところだったから対応することができただけだ。



「うっし、サンキュー皐月! よくわかったぜ」

「ちゃんと文法書の説明も読んどくんだぞ」

「分かってる分かってる!」



 自分の席に戻っていく広瀬を見送ってから、自分も席について次の授業の準備をする。次は確か……



「ね、ねぇ。ちょっといいかな?」

「…………」

「皐月くん、ちょっと今大丈夫?」

「うわっ、俺か⁉」



 まさか自分が呼ばれているとは思ってなかったので、驚いて声が裏返ってしまった。声のした方に顔を向けると、



「ごめんね、びっくりさせちゃって!」



 手の平を合わせて謝罪しているのは、隣の席の女子生徒だ。



「あぁ、飾森しきもりさんか。どうしたんだ?」

「えーっと、さっき広瀬くんに『when節とif節の中が現在形になることがある』って教えてたよね? 私もそこがよく分かってなくて……もしよければ、昼休みに教えてくれないかな?」



 上目遣いでお願いされて、断るのはちょっと忍びない。



 彼女の名前は飾森……確か、さくらだっただろうか。今は名簿順の座席配置になっているので、名前が近い俺とは席が隣同士だ。今年初めて同じクラスになったので、彼女のことを詳しく知っている訳ではないし、実は話したのも授業中のペアワークくらいでしかないんだが……



「(男子連中から恐ろしく人気があるんだよなぁ、飾森さんって)」



 つややかで思わずきたくほどに綺麗な黒髪は、腰のあたりまで伸びている。それでも野暮ったさなんか微塵も無く、見るものを虜にする高貴なオーラが醸し出されていた。だが、人気の理由はそれだけではない。



「(って、む、胸が……視界にっ)」



 女性にしては長身な方だが、俺より10cm以上は低いだろう。その位置から上目遣いで見られると、俺が視線を下ろすときに否が応でも彼女の自己主張の激しい双丘が強調されて見えるのだ。意識するなという方が無理な話である。



 美しさに加え、なんというか、エロさを兼ね備えた女の子を、飢えた男どもは放っておくと思いますか? そういうことだ。



 修学旅行のときも、「お嫁さんにしたい女子ランキング」と「○○○〇してほしい女子ランキング」で見事栄冠に輝いていたなぁと思いながら、若干の動揺と共に彼女に告げた。



「わ、分かった! 昼休みでいいか?」

「ほんとっ⁉ ありがとう! えへへ、何かこの前まで授業で指名されてタジタジになってた皐月くんに教えてもらうのって、なんか変な感じがするな♪」



 笑顔のまま嬉しそうに、しかし微妙に失礼なことを言ってくる。まぁ間違っていないんだけどさ。そういや確かに、4月の初めに英語の授業で小川先生から指名をされ続けたときは彼女に助けてもらったんだっけ、と朧気ながら思い出す。



「じゃあ、約束だよ! 昼休み、図書室に来てくれる?」

「図書室? 教室じゃダメなのか?」

「私ね、図書委員会に入ってるんだ。今日の昼休みはその当番で貸し出しの業務をしなきゃいけないんだけど……やっぱり、わざわざ来てもらうのはおかしいよね」



 しょぼん、という表情になった飾森さん。俺は、昨日図書館で瑠美とした会話を思い出した。どうせ放課後に立ち寄る予定はあったんだし、まあいいか。



「いや、大丈夫。ちょうど借りたい本があったんだ」

「え、ほんと⁉」

「ああ。昼休みに、図書室に行けばいいんだよな?」

「うん! 図書委員会の生徒と、用事のある生徒なら司書室に入ることができるの。そこで教えてくれると、嬉しいかな?」



 「当番って言っても、本を借りに来る人はほとんどいなくて暇なんだよね」と頬をかいて照れ笑いを浮かべる。



 ちょうどその時、廊下の方からカツカツと靴を鳴らしながら誰かが近づいてくる音が聞こえた。たぶん、次の授業の先生だろう。



「あ、もう授業始まるね。じゃあ皐月くん、不束ものですが昼休みはどうぞお願いします」

「え、ああ。こちらこそ?」



 「不束ものって、使いどころ間違ってね?」と思ったものの訂正する間もなく彼女は前を向いてしまった。周りも、すでに先生が来る気配を感じて静かになってきている。



「(なんか、俺が人に教えるって変な感じだよなぁ)」



 瑠美の説明をほとんどそっくりそのまま伝えているだけだから、別に苦労はないんだけど。俺なんかより英語ができる奴はクラスにも……たとえば、ハルトとかいるのにどうして俺何だろう。そう思った瞬間、「あぁ」と一人納得した。



「(そういや、この前の英語表現の中間テストはクラスで3番目だったんだっけ)」



 自分より得点が上の人は、話を聞く限りハルトといわゆるガリ勉タイプの男子生徒だけだったようだ。ガリ勉の奴(名前が分からない)は休み時間も一人勉強の世界に籠っていて、「話しかけるなオーラ」が凄いし、ハルトは変人で変態だから頼る相手としては論外。



「(まぁ、俺でも消去法で俺を選ぶよな、このメンツなら)」



 せっかく質問してくれたのに満足に答えられなければ瑠美に申し訳ない。



 そう考え、俺は先ほど広瀬にした説明の中で分かりづらかった部分は無かっただろうか、と脳内での反省会を授業が始めるまですることにした。


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