第27章 幸せな 3
しばらくしてテミストは目元をぬぐい、ごめん、と呟いて続きを食べ始めた。ハルも自分で二つ目を取り出した。
言葉少なになったまま食事を終えて、十分、二十分も経った頃だろうか。
「……ハル? 寝ちゃった?」
「……寝てないよ。まだ」
テミストに覗き込まれたハルは、否定しながらも欠伸をした。
「眠くはなったみたい……満腹したからかな」
「珍しいな」
「寝てる? あたしとアキラがどけば横になれそうだけど、……あたしたちがどこか行っても大丈夫かな」
「ん、平気……ここ平和だし」
ハルは杖を抱いて丸くなった。場所を譲って立ち上がった二人は顔を見合わせた。
「……歩こっか」
「ん」
足音を忍ばせる必要もなかったかもしれないが、一応静かに丘を下る。
「……魔力の使いすぎ、とか、あるんじゃない? やっぱり」
「それで眠くなったなんてことはこれまでなかったけど」
テミストは気懸かりそうに見返った。けれども歩調は緩めずに、躊躇わず森へと向かっている。
「ちょうどいい、っていうか。アキラと二人で話したいことが、あったんだけど」
「俺?」
「うん。ちょうどいいから、今のうちに」
足早になった。困惑しつつも晶は従い、二人は森へ入っていった。
「アキラは、――いつまで、エルにいるの」
「……決めてないけど」
「ハルが〈鍵〉を持ってたから、そんなことだろうとは思ったけど」
歯切れ悪く、テミストの方も目を逸らす。
「……帰りたくないの?」
「正直な」
物騒な目にもたびたび遭ったけれども、逃げ帰りたくなったことはない。故郷に、我が家に対して、そういう印象がないのだ。そこにいれば安心できる場所として、自分に染みついていないのだ。
あちらでの日常に耐えかねて、呼ばれてもいないのについてきた。こちらで何があったところで、あちらに影響するわけではない。話し相手のいない日々は、思い出だけを支えに過ごすには――いや、思い出と比べてしまうだろうからこそ、きっと、一層。
「ていうか、結構あからさまだったと思うんだけどさ。……何も訊かねえのな、ハル」
「帰った方がいいよ」
顔を見ないままで、テミストは言った。
「故郷に帰れないあたしが言うの。手段があるなら、……許されるなら、帰るべき――」
ドン! と腹に響く轟音が背後で爆発した。木々が一斉にざわめいた。




