第四章:時間差トリックと泥棒の正体
いよいよ、犯人ゲットしました。解決編です。
「そこまでよ!!!」
雰囲気をぶち壊す大声と共に、茂みから支配人をヘッドロックしたみのりが転がり出てきた。
驚異的な身体能力である。
「捕まえたわよ! 支配人、あなたが犯人ね!」
「くそっ、なぜバレたんだ……!」
支配人が地面に頽れる。
あいりはハッと我に返り、翔から一歩身を引いた。顔が火を噴きそうなほど熱い。
「支配人、あなたが『人魚の涙』を盗んだのね。
でも、午後8時30分の停電の時には、あなたは本当にロビーにいた。そうでしょう?」
あいりは呼吸を整え、推理を披露した。
『どういうことだ、あいり?』
スマホから涼介の声がする。
「時間差トリックです。支配人は、犯行時刻の前にあらかじめガラスケースに細工をして、宝石を回収していたんです。そして8時30分にリモコンで停電を起こし、その瞬間に盗まれたように見せかけた。
カメラマンは支配人に借金があり、偽の写真でアリバイ作りの手助けをさせられていた。
そして、仲居さんと若女将の不仲を利用して、お互いを疑い合わせるように仕向けたんです!」
「その通りだ……」支配人はガックリと膝をついた。
「借金でもうどうしようもなかったんだ。あの宝石を裏社会で売り捌ければ……」
「ほらね、やっぱり。私はわかっていたもん。やったわ! 事件解決ね!」
みのりが大喜びで万歳をする。
・・・なにがわかっていたのよ。まったく、調子いいんだから。
あいりはため息をつくと、呆れつつ笑顔になった。
「いや、まだ終わっていないよ。みのり、あいりお嬢さん」
翔がパチパチと不敵に拍手をしながら進み出た。
その手には、いつの間にか、眩いばかりに輝くブルーサファイア――『人魚の涙』が握られていた。
「え……? 翔さん、どうしてそれを持ってるの?」
みのりがポカンとする。
「支配人が事前に隠した場所なんて、僕にはお見通しさ。
彼が警察に捕まる前に、僕が本物を『先に』頂戴した。
……そう、僕の本当の職業は、『怪盗』なんだ」
「ええええええええーーーっ!?」
みのりの絶叫が夜の庭園に響き渡る。
「刑事じゃなくて、泥棒だったのーー!?」
翔は『人魚の涙』をポケットにしまうと、あいりの前に歩み寄った。
「本当は、誰にも気づかれずに盗むつもりだった。
だけど……君という最高の探偵に出会ってしまったのが、僕の計算違いだったよ」
翔の瞳が、月光に照らされて妖しく、そして優しく輝く。
あいりはギュッと拳を握りしめ、翔を真っ直ぐに見つめた。
「……泥棒なんて、最低です。でも」
「 confederate(共犯者)にでもなってくれるかい?」
「いいえ。ここであなたを逃がしたら、私の負けです。だから――」
あいりは翔の胸元に飛び込み、彼のジャケットのポケットに手を突っ込んだ。
「おっと、積極的だね」
翔がクスッと笑った瞬間、あいりはポケットから『人魚の涙』を鮮やかに抜き取った。
出版社で鍛えた、原稿を奪取するプロの指先が、怪盗の裏をかいたのだ。
「え……?」
今度は翔が目を見開く番だった。
あいりは宝石を掲げ、少し勝ち気な笑みを浮かべた。
「捕まえました。私の勝ちです、翔さん」
翔は一瞬、呆気に取られたが、すぐに降参するように両手を上げた。
そして、今までにないほど愛おしそうな目で、あいりを見つめた。
「参ったな。宝石を盗むつもりが、僕の心の方が盗まれてしまったようだ」
「な、何を言っているんですか!」
真っ赤になるあいり。
翔は彼女の額に、電撃のように軽いキスを落とした。
「その宝石は君にあげるよ。……またいつか、僕に盗まれに来ておくれ。僕の可愛い探偵さん」
「あ、待ちなさい!」
翔は華麗な身のこなしで塀を飛び越え、夜の闇へと消えていった。
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