救出
あんなこと言われて何時間経っただろうか。俺はこの戦いで誰も死なせたくない。もともと現実で幸せに生きてた人間だ。けど、理想を掲げたままじゃだめだって愛理は言った。本当にそれは正しいのか。理想は人を動かすためのもの。それを捨てたら俺は俺じゃないんじゃないか。そう考えてる間も部屋の外では戦いが絶えずに続いてる。
「行かなきゃな。こんな考えてたって誰も死なせないことなんて出来ない。死なせたくないなら、行動しなきゃ。」
他の参加者を探すこと一時間、愛理を見つけた。愛理は謎の男と戦っていた。いや、一方的に攻撃を受けているのほうが正しいだろう。
「愛理大丈夫か!」
「優斗、なんでここにいるの。」
「なぜって、そりゃ誰も殺さないって言っただろ?誰も、死なせたくねぇんだよ。」
足が震えてた。理想を口にするのは簡単だ。誰でも簡単にできる。けど、それを果たすのは怖いし、難しい。だからといってそれを諦めるなんて事はしたくない。
「俺は、やりきりてぇんだよ。遠くて届かない理想だろうと、手を伸ばして掴みたいんだ。」
そんなことを口にしたとき、目の前の男は言った。
「さっきから汝らは何をしている。我が肉体の再生力に怖じ気付いたか。」
その一言の威圧感は半端じゃねぇ。言葉だけでわかる、こいつは只者じゃねぇんだってことが。
「愛理、お前はワープを使って逃げろ。」
「使ったところであの男の血を洗い流すまではどこに逃げても無駄。だからここでコアを奪うしかないのよ!」
そう告げた刹那、愛理の服に付着していた血が刃になり、愛理に刺さった。
「汝には教えておこう。我が能力、不死身。そして、我が秘伝技、血剣刃。」
「てめぇ、ふざけんじゃねぇよ。自分の手札見せるなんて舐めプか?」
「汝は我に勝つ事など不可能。」
「攻撃がこの世界にある魔法だけのやつに言われたくねぇよ!その魔法、魔物が使う血魔法だろ?」
その系統の魔法相手はしたことがない。けど、チート能力じゃない限り魔力上限の中でやりくりしなきゃいけない。なら耐えれば相手は不死身なだけの兵士になる。
「てめぇの攻撃手段を消してお前の能力コアを奪ってやるよ!」
ブォンッ
首に何かが近づいた。気づいたときには遅い。交わせないし、受け流すのも無理。
「ぐぁっ、てめぇ何しやがった。」
「手札を見せるな。と言ってたもんなのでな。我は明かさん。」
「っち、てめぇ…」
「優斗、私を置いて逃げて。このままじゃ共倒れよ。」
「愛理、何回言わせるんだ。誰も死なせない。お前も守るって決めてんだ。」
「まったく、せっかく貸し返せたと思ったのにまた借り作っちゃったじゃない。いいわ、好きにしなさい。けど、死にかけたときはテレポートで飛ばすわ。」
愛理はそう言うとテレポートで遠くに逃げた。きっとさっきの刃の攻撃で血は不死身のやつの血は消えたんだろう。
「守るもんが無ぇってなると戦いやすいな。さて、お前のそのコア、貰い受けよう。安心しろ、殺すつもりなんてない。誰も殺したくないからな。」
「その割には汝の足は震えているな。」
「震えじゃねぇ。準備運動だよ。」
こいつ相手には直接殴るのは弱い。血が出ない元素、闇で行くか。
「元素セット、闇。」
「何をブツブツ言っておる。」
「ぐあっ、」
血の剣を咄嗟に作っただと、どうやって。
「ここで引いたら、愛理に見せる顔がねぇよ。てめぇのコアを貰っててめぇを敗走させる。それが目的なんだ。」
「なるほど、殺す気など無い。とでも言いたいのか。だが汝のその理想のせいで火力が落ちている。それはどうするつもりなんだ!」
まずい、血が当たりに飛び散った。
「ッッ」
言葉を出す前に血が刃になって降り注いだ。
「はぁ、はぁ、」
「汝のその体じゃただの不死身なだけの兵士すらにも勝てないだろうな。」
「て、めッ、コッ、ゲホッ」
「終わりだ。汝らが使う外国語風に言うなら、チェックメイトだ。」
そう言った富士見は自分の腕を斬り、あたりに血を充満させた。
パチンッ
その指の音で血は剣に変わり、俺に向けて全て襲いかかった。
「ッ」
声が思うように出ない。体も動かない。けど今俺が生きているならまだ勝算はある!
「まだ生きておるか。汝はしぶといのだな。」
グサッ
外側からの攻撃は無い。なのに体には痛みが走る。なら、どこから。
「先ほどの傷口から我が血を注いだ。その刃は汝の体から出ているものだぞ。では、コアを貰い受ける。」
その言葉を聞いているうちに俺は意識が飛んだ。そして、目覚めたら愛理が目の前にいた。また、助けて貰っちまったんだ。
「あ、起きたんだ。あんた無茶しすぎよ。あんなのに勝てないんだから逃げるくらいしなさいよ。」
「ッでもっ、ゲホッ」
声が思うように出ない。何かを発そうとすると何かが喉に引っかかって発するのを拒否する。
「無理に話さないでいいわ。今から言うことを黙って聞いてればいい。突然だけど、あんたと私で同盟を組みましょ。さっき見たあの不死身のバケモンを殺すまでだけどね。あんたと私、同じ敵を持ってる同士で協力すれば勝てるんじゃないかってのが私の考え。ま、あんたの貸しを返すついでだと思って気楽にどうぞー。」
貸しだなんて、俺のほうが今まで借りてきたくらいなのに。
「とりあえずあんたは今ここで治癒魔法を永続的に浴びせるからさっさとそれで治しなさい。私はそれまで横にいるから。」
何分か経った頃、俺はどうやら息を出来るようになったらしい。さっきまでずっと人工呼吸器を付けてなんとか酸素供給をしていたらしい。
「これでひとまずは安心。あと数分ここで寝てれば戦闘前ほどとは言わないけどある程度は戦闘可能になるわ。」
「サンキュ。俺なんかを助けてくれて。」
「あんたが死んだら貸し、返せないからね。まったくあの時返せたと思ったのにまた作りやがって。まぁいいわ、私外回り行ってくる。」
なんで愛理は貸しを作ってる俺に借りを返すためとか言って助けたんだ。俺をあそこで殺しておけば厄介な奴が一人減って帰るための時間が短縮される。それなのにわざわざ俺を助けた。何か裏があるのか?でも、昔から世話になってる人を疑えだなんて出来たもんじゃない。確信を持つまでは協力するしかないないな。
それから俺は体が回復したので外に出た。戦闘は極力避けろと言われたんで俺がすることは街で飯買う事だ。そんなつもりで出たのに、目の前にまた新たな被害者が飛び込んできた。けど、さっきの愛理の一方的な蹂躙とは違うようだった。俺くらいの身長の男性が少し小柄な女性の胸ぐらをつかんで叫んで殴っていた。
「なんでだ!なんで僕の能力を消した!お前、どうやったんだ!」
「封印、だからすぐ戻る。だから我慢して。」
「そんなの嘘なんだろ!こうやってお前は裏切って、能力を封印して、殺すんだろ!」
「そんなことしない。お前が先に、裏切った。」
淡々と言い続ける相手に嫌気が差したのか男はナイフを取り出して刺そうとした。そんな光景を黙って見てられず、俺は体が痛むのを我慢して走り出した。
「辞めろ。わざわざ殺す必要なんてないだろ!」
「部外者が僕とコイツとのやり取りに口出しするなよ!」
「なら尚更だ。殺して何になるんだ?」
「帰るためのコアが手にはいる!それだけだ!」
話が通じねぇ。なら俺がおとりになって逃がすしかない。
「君、逃げて。」
「あ、うん。」
よし、あとはこいつのヘイトを買うだけだ。
「っち、てめぇ僕の獲物を逃がしたな。能力が復活した時にお前のことを殺してやる!その時に泣いても許さないからな!」
な、なんだったんだあいつ。小物みてぇに逃げやがって。けどあいつもチート能力を持ってると考えると油断してはいけないな。ま、とりあえずあの子を追わなきゃ。
「待ってたよ優斗。」
「なんで君が僕の名前を知ってるの。まさか君が壁画の封印の!ごめん、名前なんだっけ。」
「花里渚。忘れないで」
同じ高校の人まで巻き込まれてる、か。やたらと俺の周りのやつが死んでる。もしかしたらこの世界には他にもいるかもしれない。
「とりあえず俺の拠点来るか?その傷、治した方がいいだろ?」
聞くべきこともあるし、運ばないとな。
「ここに来てもらったんだが今から言う質問に答えてもらう。安心しろ、殺しはしない。」
「…わかった。」
「お前はこの世界で人を殺そうと思ってるか?」
「思ってない。けど、やれって言うならやる。」
「君、渚だよね。」
渚、自分の意思がないのか。じゃあここに来たのも神に来いって言われたからなのか。それとも、現実には何かあるのか。
「現実に未練ってあるのか?」
「ある。けどわざわざこの世界から帰るほどのものでもない。」
なるほど。渚の行動心理を大体は理解できたな。
「じゃ、次の質問。さっき一緒にいた人は誰?」
大体予想は出来てるが、
「目覚めて最初に会った人。助けてやるからついてこいって言われた。まったくそんなこと無かった。だから逃げてきた。」
やっぱり。渚は自分の意思が無いのだろう。
「優斗ー帰ったわー。ゲッ」
まずい!愛理にこんなところ見られたら……
「愛理、これは誤解だ。別に」
「別にいいわ。にしても、優斗らしいわね。困ってる人を見逃せない。昔から変わんないね。けどこの世界ではそれが牙を向くことあるから気をつけなさいね。」
わかってる、そんなこと。けど、やらなきゃ俺が俺でいられない。そんな気がして怖い。だから、助けることは自分のためなのかもしれない。
「ま、良いわ。その子貸して。私が治すわ。その後は同盟関係のこととかを聞く。」
「サンキュ、俺やることあるか?」
「部屋から出なさい。今から女子会なんだから。あんたいると話しづらいことあるかもだし」
そんな事を言う愛理の顔はすごいニヤけていた。
「はいはい、わかりました。出ますよ。隣の部屋で飯食ってるから終わったら教えてくれよな。」
「んじゃよろしくー。じゃ、渚ちゃんでいいんだよね。治療開始するね。痛いときは手挙げてね。」
その頃、遠くの塔では
「本来流れるべきではない時が、君には流れている。」
「キサマノアイテ、ソイツジャナイ」
「おっと、悪いね。今は魔王である君が相手か。時間制御、倍速!」
一瞬だった。魔王の体は力が抜けたように膝から崩れ落ち、体には斜めに入った一筋の斬撃のみが残っていた。
「案外弱いな。まぁ、これが本当のゴールではない。終着点は新たに拓く道だ」
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