狂化
「はぁ、はぁ、やはり時間というのは人を蝕む。」
テンプスがエスパスのもとを離れて数分した時の出来事だった。
(心臓が、痛む。自分の速度を上げたが故に鼓動まで速度が上がるか。)
「ゲホッ、ゲホッ、血、だと?」
と、テンプスは咳をした際に吐いた血を見て呟いた。
「汝は心臓を無理やり早く動かした。その代償として吐血した。そうであろう?」
「君は、富士見。どうしてここに。」
「汝の体の使い方が実に滑稽なものでな。血を吐くような使い方なのだろう。使い方を改めろと言いに来ただけだ。」
富士見には殺意がなく、言葉通りのことをするために近づいたとテンプスは理解した。
「殺す気は、無いのか。今ここで殺せば君は帰れる確率が上がる。なぜ殺さない。」
「我が家に代々続く武士道、とでも言おう。我は正々堂々と真正面からと散々言われておってな、汝のような死にかけの人を襲う気持ちがわからなくなった。汝は運が良いのだな。」
武士道、それは富士見に取っては命より守らなければいけないもの。それを破ったら富士見は富士見として生きられなくなる。そしてその武士道の道を歩むことが富士見の生きる理由なのだ。
「武士道、か。あまり理想を追いすぎるな、失明する。」
「失明、か。失明する事の何が悪い。我は目がなくなろうと、死を迎えようと武士道を貫く。優斗という男のように。武士道を貫く事が我の存在意義だからな。それに、我が再生力なら失明したところでどうってことない。」
「そうか、確かに君は不死身な兵士だったな。」
テンプスはそう言って時間に壊された体を持ち上げ、体を引きずりながら歩いていた。その刹那、後ろから槍が飛んできた。それは富士見の胸を貫き、体は10メートル離れたテンプスのほうまで勢いよく飛んだ。
「よぉ、分家。本家に恥かかせてくれたな!」
「汝は、瑛斗!なぜここに。」
「死んだんだ。汝を殺そうとしていたらな。だが、汝がこの異世界にいるのなら殺してやる。」
富士見は刺さった槍を引き抜き、立ち上がった。胸からは血が滴る。しかし、倒れる事なく何事もなかったように再生を始めた。
「汝の能力は調査済みだ。分家、やろうぜ。あの頃みたいに殺し合おうぜ。」
「テンプス、だったか。逃げろ、ここからは我の戦いだ。」
「それだと君は死ぬ。」
「不死身だ。忘れておるのか?」
「…わかった。」
「本家、何がしたいのだ。我が一族に恥じる行為など一度もしておらぬ。」
「忘れたとは言わせない。歴史の恥だ。汝の一族は今川義元についていた。拙者もだ。だが、桶狭間の戦い前に汝らは織田信長についた。そのときから本家、分家に分かれた。それから汝ら分家は本家の人間を何度も何度も討った。本家は汝らの先祖により衰退、さらに参勤交代による経済衰退。それもあり本家が分家に劣った。その時に汝らはどうした。土地を無理やり奪い、本家を奴隷のように扱っていた。その関係は武士の世が終わるまで続いたが名残はまだ残っている。その復讐だ。汝で、分家を終わらせ、本家の勢力を取り戻す。それが目的だ。」
「一族の、復讐か。仕方あるまい。汝が我を殺せたら分家は本家に吸収されてもよい。だが、汝が殺せなかった場合、二度と分家に関わるでない。」
言い切ったと同時に瑛斗は狂気をまとった。狂気をまとった体から放たれた拳は協力で富士見を突き飛ばした。富士見は殴られた箇所から吹き出た血を剣に変え、瑛斗に走り距離を詰める。しかし、剣の間合いに入った頃には瑛人の間合いにも入っていた。
「そのコア、貰い受ける!」
瑛斗の手は胸に入り、心臓に触れた。しかし、胸に入った手は抜けなかった。富士見は胸から出る血を小さな無数の刃にし、腕を刺して封じ込めていたからだ。
「汝はつくづく運が悪い。これで終わりだ。」
パキンッ
富士見が振り下ろした剣は瑛斗の拳で壊れた。
「汝は単純なバフ能力か。それも強力だ。しかし、我には勝てぬ!」
そう言って瑛斗の顔を見たとき、瑛斗の顔は充血していた。目の焦点は定まっておらず、呼吸は荒い。まるで理性を失った怪物のようにただ刺さった腕を引き抜こうとしているだけだった。
「Auuuuuuッ」
(こやつ、狂気に堕ちている。救いはもう無いのか。)
富士見の胸にある腕の反対の腕で瑛斗は富士見を殴り続けた。我慢の限界になった富士見は瑛斗の腕を封じていた血を解放した。
「Urrrrrッ」
瑛斗は唸り続けている。その姿は噛んだものを殺すまで噛み続ける狂犬そのものだ。
(剣を作らねば。剣製、開始。)
血が凝固し始め、剣の形を創り始めたときには瑛斗が間合いに入り、蹴りが腹に入っていた。蹴りにより富士見の体は遠くの岩に叩きつけられた。体勢を戻そうとしたときにはすでには瑛斗の拳が目の前にあった。
(まずい、再生が追いつかん。このままじゃ、)
そう考えたとき、富士見の腹を拳が貫いた。そして、膝から崩れ落ちた。
「Arrrrrrッ」
瑛斗は背中から富士見の心臓を掴み取ろうとし、背中に手を近づけた。
「一度、死んだか。汝もなかなかやるのだな、本家。」
そう言い富士見は立ち上がった。
「2本目と行こうではないか。」
「Arrrrrrッ」
(先ほどで癖は読めておる。蹴りは右しか来ない。なら右を守れば)
「なッ、」
(あえて右の防御を成功させ、左の意識を削いでいたのか。)
富士見は殺された。しかし、また起き上がった。
「よっぽど殺したいのだな。」
「Ahrrrrrッ」
三度目、死亡。四度目、死亡。五度目、死亡。
十度目、死亡。十三度目、死亡。二十八度目、死亡。四十四度目、死亡。五十三度目、死亡。
百回目、死亡。
「完了。汝の攻撃を全て理解した。」
「Arrrrrrッ」
「百一回目の勝負といこうではないか。」
瑛斗の攻撃はすべて守られていた。体力が減っているのもあるだろうが一番は百の死で相手の動きを理解した事だろう。
「本家、すまないが、死んでもらうぞ。」
瑛斗の攻撃を全て受け流したあと、富士見のターンが回ってきた。瑛斗は攻撃を守るが無限に増えていく血による剣をすべてさばくのは不可能だった。
「血剣乱舞!」
中に舞った血をすべて剣にし、すべて瑛斗に振り注ぐ。瑛斗の体は剣で固められ、動けなくなった。
「本家、汝は中々の力を持っている。だが、相手が悪かったな。」
「百の死を越え、導き出した究極の一太刀。食らって貰おう。」
グサッ
富士見の手に謎の投げナイフが刺さった。
「余計なことをするな。計画の邪魔になる。」
「テンプス、汝がやったのか。」
富士見がそう問いかけた時にはテンプスと瑛斗の姿はなくなっていた。




