第25話:希望の瓦礫と、海風のメッセージ
「……信じられない。本当に、終わったのね」
ダイコク商事の解体と、恵比寿の逮捕から一週間。
ひとみは、かつて義之と出会い、何度も涙を拭ったあの公園のベンチに座っていた。
ニュースでは連日、如月・高橋・ダイコクという三つの巨頭が去った後の「新しい経済の形」について議論されている。その中心にいるのは、紛れもなく『ジャスティス・プロデュース』の四人だった。
「ひとみ。ここにいたのか」
スーツを脱ぎ捨て、ラフな格好に戻った義之が、温かいイチゴオレを持って現れた。
「……義之。あたしたち、本当に勝ったんだよね?」
「ああ。……でも、街の傷跡は深い。これからが本当の意味での『プロデュース』の始まりだ」
二人が静かに並んで座っていると、カツカツと小気味よい足音が近づいてきた。
「ちょっと! 感傷に浸ってる暇なんてないわよ。次から次へと再建プロジェクトの依頼が来てるんだから」
すずねが、最新のタブレットを片手に現れる。
その後ろには、以前よりもずっと穏やかな、けれど芯の強さを感じさせる瞳をした美玲の姿もあった。
「……ひとみさん。私、決めましたわ」
美玲が、澄み渡る空を見上げて言った。
「私、高橋の名前を捨て、九条さんが守ろうとした『如月の誇り』を、慈善団体として再建します。……名誉も富もいりません。ただ、あの方が命を懸けて繋いだ未来を、守りたいのです」
美玲の言葉に、ひとみは胸が熱くなった。
かつては愛を奪い合った敵。けれど今、彼女たちは固い絆で結ばれた戦友になっていた。
その日の午後。
すずねが、震える手であるデータを解析していた。
「……信じられない。これ、見て」
三人がモニターを覗き込む。それは、豪華客船が沈没した海域を調査していたサルベージ船が、偶然捉えたソナーの映像だった。
「……生存者……?」
ひとみの声が震える。
映像には、沈没地点から数キロ離れた無人島の入り江に、手作りの「SOS」の文字と、九条が常に身につけていたあの『如月家の黒い腕章』が木に結びつけられているのが映っていた。
「九条さん……生きてるの!?」
「確証はないわ。でも、あの掃除屋がそう簡単にくたばるはずないって、あたしも思ってた」
すずねが不敵に笑う。
「美玲さん! 今すぐヘリを出しましょう!」
「ええ、もちろんですわ! 彼は私の……私たちの、大切な家族ですもの!」
美玲はすぐに手配に走り、ひとみたちは希望という名の光を全身に浴びた。
泥の中に沈んだはずの正義が、また一つ、《《奇跡》》を起こそうとしていた。
そしてその夜。
騒がしい仲間たちが去り、再び静かになった公園。
東京の夜景が、かつての権力の象徴としてではなく、ただの人々の営みの光として美しく輝いている。
「……ひとみ」
義之が、ふいに立ち止まってひとみの正面に立った。
「なに? 改まって」
「……俺は、ずっとお前の背中を追いかけてきた。お前の『正義』に救われ、お前の『情熱』に火をつけられた。……如月でも生稲でもない、ただの如月義之として、言いたいことがある」
義之がポケットから取り出したのは、安価な、けれど今の二人には何よりも価値のある、手作りのリングケースだった。
「……半年待たせたな。……いや、幼馴染みから数えたら、二十年か」
義之はゆっくりと、膝をついた。
「ひとみ。……俺と、一生一緒に戦ってくれないか。……俺の『正義』は、お前と一緒にいることだ」
ひとみの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。
これまで、どんな厳しい交渉でも、どんな絶体絶命のピンチでも泣かなかった「営業のエース」が、子供のように泣きじゃくった。
「……バカ。……遅すぎるわよ、バカ義之……!」
ひとみは義之の胸に飛び込んだ。
「……よっしゃ! あたしのこれからの人生、あんたに全部プロデュースさせてあげるわよ!」
二人のキスを、冬の星座たちが祝福するように輝き、遠くでかすかに、海風が「おめでとう」と囁いた気がした。
第25話をお読みいただきありがとうございました!
九条の生存の報、そして義之からの二十年越しのプロポーズ……! 泥だらけの正義が駆け抜けた物語は、次がいよいよ最終回です。最高の未来を、ぜひ見届けてください!
【次回予告】
第26話(最終話):ジャスティス・フォーエバー!〜泥だらけの虹を渡って〜




