第21話:潜入のドレスコードと、影の共犯者
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【次回予告】
第22話:深海への招待状と、嵐の洋上会談
「……嘘でしょ。あたしが、これに?」
下町のボロアパートの一室。鏡の前に立つあたしは、自分の姿に絶句していた。
トレードマークの明るい髪は落ち着いた黒に染め直され、縁なしの眼鏡に、地味なグレーの事務服。どこにでもいる「目立たない派遣秘書」——それが今のあたしの変装だった。
「文句を言わない。美玲の『リバイバル・ルーツ』のセキュリティを抜けるには、この『完璧な没個性』が必要なのよ」
すずねがノートパソコンを叩きながら、冷淡に言い放つ。
「義之さんは外部から物流ルートを攪乱。あたしはシステムのバックドアを叩く。そしてひとみ、あんたは物理的に『女王の執室』に入って、隠し資産の鍵を奪うの」
「ひとみ……無理はするな。危なくなったらすぐに逃げろ」
義之が心配そうにあたしの肩を抱く。
あたしは彼の手をギュッと握り返した。
「大丈夫。……あの女に、泥を飲まされたままで終わるあたしじゃないわよ。正義、行ってくるわ!」
翌朝。あたしは『リバイバル・ルーツ』の本社ビルにいた。
かつての如月本社をさらに冷徹に、 shadow。そして白一色に塗り替えたような空間。美玲の徹底した「純潔主義」が建物全体を支配している。
あたしは派遣秘書「田中」として、美玲のフロアに配属された。
「新しい秘書ね。……私の邪魔だけはしないでちょうだい」
執務室の奥から聞こえる美玲の声は、以前よりもずっと尖り、疲れ切っているように聞こえた。
美玲は、不眠不休でモニターに向かい、街の企業を次々と飲み込むコマンドを打ち続けている。その姿は、かつての儚げなお嬢様ではなく、自ら作り上げた数字の檻に囚われた、孤独な囚人のようだった。
「田中さん。……お茶を。……それと、この書類のシュレッダーをお願い」
「はい、失礼します」
あたしは恭しく頭を下げながら、デスクの引き出しに目を走らせる。
チャンスは一度。美玲が午後の重役会議に出席する、わずか十五分間。
会議が始まり、フロアが静まり返った。
あたしは震える指で美玲のデスクに忍び寄る。
(……どこ? 義之たちの会社を潰したあの不渡り指示の原本、そして如月家から奪った隠し口座の暗号キー……)
その時だった。
「——それは、右から二番目の引き出しの、二重底の中ですよ」
冷たい声が背後で響いた。
心臓が口から飛び出しそうになりながら振り返ると、そこには無表情で立つ「掃除屋」九条の姿があった。
「……九条!? なんで……」
「叫ばないでください。警備が来ます」
九条は音もなく近づくと、自ら美玲のデスクの隠し場所を開け、一冊の黒い手帳をあたしに差し出した。
「これを持って、すぐに去りなさい。……今、義之様が裏で動かしているルートに、この情報を流せば、美玲様の帝国は内部から崩壊します」
あたしは呆然として、手帳と九条の顔を交互に見た。
「……なんで、あんたがあたしを助けるの? あんたは会長の、今は美玲さんの味方でしょ?」
九条は一瞬だけ、 shadow。悲しげな……いいえ、慈しむような目で窓の外を眺めた。
「……私は『如月家』に仕えているのではありません。……如月家が守るべきだった『誇り』に仕えているのです。……今の美玲様は、かつての会長以上にその誇りを汚している。……彼女を止められるのは、彼女の正義を真っ向から否定した、あなたしかいない」
「……九条さん……」
「行きなさい。……美玲様が戻られます。……生稲ひとみ、あなたの『泥だらけの正義』が、どれほどの光を放つのか……最後に見せていただきましょう」
九条はあたしを非常階段へと促すと、再び影の中に消えていった。
オフィスを飛び出し、全力で下町の拠点へと走る。
タクシーを拾う暇さえ惜しくて、あたしは黒染めの髪を振り乱して走った。
「義之! すずね! 取ったわよ、これ!!」
ボロアパートに飛び込むと、そこには既に戦闘態勢の二人がいた。
「やったわね、ひとみ! これで美玲の資金洗浄ルートが全部割れるわ!」
すずねが手帳を奪い取り、データをスキャンする。
「……よし。……これで、反撃の準備はすべて整った」
義之が、窓から見える『リバイバル・ルーツ』のビルを見据えた。
「ひとみ。……明日、美玲の『帝国建国記念式典』がある。……そこで、すべてを公表する。……いいか?」
「ええ。……美玲さん、あんたの孤独な独走は、あたし達が止めてあげるわ。……最高の『引導』を用意してね!」
あたしは眼鏡を外し、元の営業エースの顔に戻った。
クライマックスへの加速。
戦いの舞台は豪華客船の洋上パーティへ——。




