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第16話:独立宣言と、招かれざる「最強」の客

「……狭いわね。ここ、本当に会社なの?」


都心の一等地にあった煌びやかなタワーマンションを去り、あたしたちが新しく構えた拠点は、下町の古いビルの一室だった。


窓の外には隅田川が流れ、どこからかお惣菜のソースの匂いが漂ってくる。


「贅沢言うな。如月家からの支援を一切断ったんだ、これが俺たちの実力相応のスタートラインだ」


義之が、中古で揃えたデスクを組み立てながら笑う。


如月の名を捨て、ただの「如月義之」として生きることを決めた彼の顔は、以前よりもどこか晴れ晴れとしていた。


新会社の名前は、『ジャスティス・プロデュース』。


あたしの口癖から取ったその名前を冠し、あたしたちは二人三脚で歩み始めた。……はずだった。


「——相変わらずのセンスの無さね。これじゃ、仕事が来る前にゴキブリが来ちゃうわよ」


カツカツと、板張りの床を叩くヒールの音。


入り口に立っていたのは、サングラスを外して部屋を見渡す、扇山すずねだった。


「すずね!? あんた、異動したんじゃなかったの?」


「辞めてきたわよ、ハラグロ。あんな古い体質の会社にいても、私の才能が腐るだけだもの。……それより生稲さん。あなた、私を雇う度胸はある?」


すずねは、持ってきたエルメスのバッグから一通の履歴書と、法外な報酬が書かれた契約書を突きつけた。


「……|最強の敵が、最強の味方になる《アベンジャーズ》。物語としては出来すぎてると思わない?」


「……っ、上等よ! ちょうど、あんたの『毒』が必要だと思ってたところよ!」


こうして、あたしと義之、 shadow。そしてすずねという、一年前には考えられなかった「混ぜるな危険」なチームが誕生した。


新会社に舞い込んだ最初の依頼。それは、かつての恋敵である恵比寿さん……ではなく、彼が紹介してくれた「ある人物」からのものだった。


「……失礼いたします。如月さん、生稲さん」


現れたのは、質素な紺色のスーツに身を包んだ女性。


以前のような派手な美しさはない。けれど、その瞳には静かな覚悟を宿した、高橋美玲だった。


「美玲さん……!? なんでここに」


「……私は、家を出ました。……高橋家という名前ではなく、私自身の力で、新しいビジネスを始めたいのです。……そのプロデュースを、皆さんに……いえ、生稲さんにお願いしたくて」


美玲の言葉に、室内が静まり返る。


如月家への依存を捨て、自立の道を歩もうとする美玲。彼女が持ってきた企画書は、意外にも「古い家柄に縛られた女性たちのための、自立支援プラットフォーム」というものだった。


「……皮肉ね。かつてあんたを追い詰めようとした女が、今度はあんたに助けを求めるなんて」


すずねがワイングラスを回しながら呟く。


「……美玲さん。あんた、本気なの?」


あたしは、彼女の目を真っ直ぐに見つめた。


「……はい。……泥を被る覚悟はできていますわ。……生稲さんの言った、あの『虹色の幸せ』を、私も作ってみたいのです」


美玲が深々と頭を下げる。


かつての敵が、味方、あるいはクライアントとして集結する。


あたしたちの「正義」は、今、さらに大きな渦を作ろうとしていた。


その夜。


ビルの屋上で、あたしと義之は一本のコーラを分け合っていた。


「……賑やかになったわね。あたしたちの会社」


「ああ。……でも、これで如月家も黙っちゃいないだろうな。……美玲さんを匿ったとなれば、次は本格的な『()()』が来るぞ」


「……ふん。望むところよ。……義之、あんたの隣にいるのは、誰だと思ってるの?」


あたしは義之の肩に頭を乗せた。


「……世界一、往生際の良い、営業のエースだ」


「正解よ」


あたしたちは笑い合い、夜の空を見上げた。


新しい戦いのゴングが鳴る。


今度は、自分たちの足で、自分たちの正義(じゃすてぃす)を証明するために。


だが、その頃。


如月家の地下室では、義之の祖父が、漆黒の電話を手に取っていた。


「……例の男を呼べ。……『()()()』が必要だ」


背筋を凍らせるような暗い影が、新しい船出の足元に忍び寄っていた。

第16話をお読みいただきありがとうございました!

かつての宿敵すずね、そして美玲までもが合流し、最強のチームが誕生します。しかし、如月家の暗部である「掃除屋」が動き出し……!


【次回予告】

第17話:影の執行人と、泥に咲く白百合

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