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いわくつき。  作者: 山手みなと
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「いわくつき。」 パーテーション

[第23話] パーテーション


私は最近、夢に見た美容サロンを開業することになった。

事務所、受付、ベッドなど設置作業の準備に追われていた。

開業は2ヶ月後で、まだ時間に余裕があるといえばあるかもしれない状況だ。

準備は8割型終わっているが、後は施術前に一旦着替えてもらうスペースを作るだけとなっていた。

パーテーションと着替えを置く棚を買い揃える必要があるということで、私はそれを買いに出掛けた。棚は安価で直ぐに買うことができたが、パーテーションだけは、思いの外、高価だったので今日は諦めた。

そんなある時、インターネットをいじっていると、50年前に廃墟になっていたホテルがついに解体されるという記事を目にした。

備品などレトロなものがそのまま置き去りにされているらしく、解体前に備品を近隣の皆様にお譲りしますというコメントが付け加えられていた。

どうやら、捨てるのにお金がかかるという理由で人に譲ることになったらしいのだ。

元々、レトロに興味があったせいか私はすぐに駆け付けた。

その日は解体の前日であり、人がわんさかいた。

ホテルの中は立ち入り禁止の為、駐輪場での開催となっていた。

レトロな花瓶や、ドアノブ、彫刻の置物などがある中、パーテンションがやけに気になった。

偶然にもパーテーションが欲しかった私にはグッドタイミングだった。

それは、上半分すりガラスになっている物で、事務所の応接を仕切る目的としてお馴染みの物だった。

ダダで譲り受けるなら得したなという気分で私は譲り受ける事にした。

その日の夕方、譲り受けたパーテーションをサロンに設置した。

これで準備万端!

開業まではまだ1か月。

あとは防犯カメラも設置しないとな...。

無事にカメラの設置が済み、事務所からモニターを確認するようになっているのだが、ある日、録画テストの確認をしていると、人影らしき姿が見える。

開業前でサロンの中は誰もいないはずなんだが........。

心配になり、ビルの管理人さんに防犯カメラ映像を見せた。

「この建物は過去に何も起きてないし、事件も聞いた事ないよ。幽霊は初めて見るねぇ」

その管理人の言葉に私は、原因は他にあるんじゃないかと思った。

開業3日前、仕事の無事を祈る為、祈祷師にお祓いの儀式をして頂いた。

これで幽霊は出ないだろうと、その時は安心していた。


ついに開店日を迎え、無事にサロンは大盛況で初日終えた...。かに見えた...。

閉店間際、少し暗い雰囲気の女性がやってきた...。

俯き加減で覇気がなく、少し違和感を覚えたが、受付を済ませると一旦着替え場に案内した。

私はもう着替え終わったかな?と思って声を掛けるが応答がない。

でも、すりガラス越しには彼女の姿が見えている...。

おかしいな?と、着替え場を覗くと誰もいなかった...。

だって、さっき受付で名前を書いてもらったし、サロンから出た様子はないし...。

トイレかな...?

だが、トイレに行くには受付前を通らないといけないから違うか...。

次の日も同じ時間に彼女は来店。受付をして着替えに向かうが、やはり姿が消えている。

すりガラス越しには確かに影が見えているのにな...。

また次の日も同じ現象が...。

私は気になってパーテーションの内と外を繰り返し見比べてみた。

何度も見てもすりガラス越しに彼女はいる...。

そして内側にはいない...。

防犯カメラには、これを繰り返す私の姿が録画されていた...。

同僚には、「あのお客さんいつもこの時間に来て不気味だよね」

と、私と同じ印象を抱いていた。

しかも、カメラには受付で名前を書いている彼女の姿がはっかり録画されているのに...。

何度も繰り返し録画を見ていると、移動する姿が一直線にスゥ〜っと動いているように見えた...。

これは幽霊だと確信した瞬間だった...。


私は帰宅して、彼女の名前をネット検索してみた。

どうやら、あのホテルの経営者だと分かった...。

更に調べると、あのホテルは50年前に火災で半分が消滅。

経営者の事務所も被害にあって彼女も巻き込まれてしまった。

その一件以来、ホテルはなぜか補修されることなく廃業となってしまった...。

そんな内容が書かれていた。

もしかして、あのパーテーションは彼女の持ち物で、彼女の念が憑いているのかもしれない...。

建物が解体されてしまったせいで彼女の居場所は、あのパーテーションしかないんだと思った。

そんな私の考えは予想通りであり、彼女の霊は必ずパーテーションに向かった後、しばらく居座ると消えるのだ...。

そして受付リストの最後は、いつしか彼女の名前で埋まっていた。

休日は分からないが、営業日には毎日現れるとあって段々嫌気がさしてきた。

ある日、たまたま閉店間際に来店されたお客さんと彼女が、鉢合わせてしまった...。

お客さんは、「お先にどうぞ」と、声を掛けると彼女の後ろに続いて着替え場に向かう。

しかし、彼女の姿は無い...。

すりガラス越しだと彼女はそこに佇んでいるのが目に映る...。

私が毎日のように目撃している光景はお客さんにも見えてしまったのだ...。

霊だとバレてしまった以上、世間に知られては営業に影響してしまう...。

だから、お客さんにはこの事は外に漏らさないように釘を打った。

その代わり、施術代はサービスすることで事なきを得た。

私にとっては、毎日受付をしてパーテーションに移動する動きは、

もう慣れてしまって恐さを感じなくなっていた...。

というより、彼女の目的は何なのか知りたい欲の方が優っていた。


ある日、私は彼女に尋ねてみた。

すると彼女は口を開いた...。

「私はこの時間に火災に遭ったのよ。それがまだ信じられないの」

「まだパーテーションの向こうでデスクワークしないといけないの........」

まだ彼女の思いは成仏できていないんだ確信した私は、パーテーションをダダで譲り受けたのも何かの縁。

しっかりお祓いをしてもらおうと霊媒師にお願いした。

その後は、彼女の霊は現れることはなくなった。

" 彼女が成仏できてよかった "

" これで安心して仕事ができる" と思った。

しかし、お盆と大晦日に彼女は私の部屋に現れるようになった。

実は、サロンでしばらく居座った時のお礼をしにやってくるのだ。

その時期は霊魂が一時帰ってくる時で、現世に挨拶や様子を伺うためにやってくるのだ。

私には50年先輩の友達ができたみたいな感覚で、お盆と大晦日が楽しみになっていた。


もしあの時、パーテーションを譲り受けていなかったら、建物の瓦礫となって彼女は成仏できずに悪い霊に化けていたかもしれない...。

偶然とうより必然だっかもしれないが、終わりよければ全てよし!(終わってはないけどね...。)

だから、友人がお盆休みに部屋に遊びにきた時も彼女を普通に紹介するまでになっていた。

これからも私と彼女の不思議な関係は続くのであった...。


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