第18話 天宮ミサキ(4)
む、胸を触られた……っ!
大和君の手が私の胸を……!
ど、どうしよう……恥ずかしくて死にそうだよ~!
もちろん、わざとじゃないって分かってる。
大和君はそんな人じゃないもん。
それは分かってるけどぉ~……っ!
う~……もう大和君の顔をまともに見れないよ~……
なんか大和君が飛んで行っちゃったから助かったけど、あのままでいたら間違いなく心臓が破裂しちゃってたよ……
「なっ……なんだこいつ!?」
ベルさんの叫び声が聞こえて、私ははっと我に返った。
ベルさんの後ろから拝殿の中を見ると、イッチャン(何故か水着)の姿があった。
とりあえず無事そうで安心したのも束の間、部屋の中央付近に立つ黒い影に、私は血の気が一気に引いていくのを感じた……
「来ちゃ駄目! ミサキ!!」
イッチャンが叫ぶように私を制止する。
だけどもう、私は見てしまった。
この世のものとは思えない、禍々しい黒い化け物の姿を――
「イッチャン……!? これは一体……」
「いいから! 今すぐここから逃げなさい!」
こんなに焦ったイッチャン、初めて見る。
それだけ危険な状況なんだ。
だったらなおさらイッチャンを置いて逃げるなんてできないよ!
「げっげっげ。わざわざ結界を解いてくれたのか。礼を言うぞ、人間。やはり喰らうなら干乾びたジジイよりも若い娘に限る」
ぞっとするような恐ろしい声を響かせて、黒い化け物がゆっくりとこちらに向かってくる。
どうしよう、怖くて動けない……
「ミサキちゃん!」
ドン、という何かがぶつかったような音がして、私達の目前までやって来た化け物が小さく揺れた気がした。
その直後、化け物が身体を反転させて何かを振り払うように腕を振る。
「うわぁ!」
さらにその直後に見えたのは、横に弾き飛ばされる大和君の姿。
もしかして、私を助けようとして化け物に体当たりでもしたの……?
「ふん、今はこの娘らを喰らおうとしておるのだ。邪魔するでないわ」
吹っ飛ばされた大和君の無事を確認することもできなかった。
化け物の妖しく光る赤い眼に射竦められて、私は指一本動かすこともできず、ぎゅっと眼を閉じて死を覚悟した。
「待ちなさい!」
すぐにでも殺されるんだと思っていたけど、その瞬間はなかなか訪れない。
恐る恐る眼を開けると、化け物は後ろを向いていた。
その先には注連縄の囲いを乗り越えて立つイッチャンの姿がある。
「アンタが本当に食べたいのは私でしょ? こっちに来なさいよ」
イッチャンが両手を広げて化け物を誘う。
化け物も唸るような笑い声を上げてゆっくりとそちらへ歩き出した。
駄目……っ!
イッチャンが食べられちゃう!
助けて……誰か……っ!