第16話 大和タケル(7)
拝殿を囲む注連縄の一か所を掴み、力任せに引っ張ってみる。
あと少しでどうにかなりそうだけど、俺1人の力じゃちょっと足りない。
「頑張れタケル!」
「頑張ってください、タケル様!」
いや、応援はいいから手伝ってよ!
って、ああそうか、2人は手伝えないよな。
くそ、こんな時にケンジは何やってんだよ!
まさか本当に来ないつもりじゃないだろうな!?
「大和君……私も!」
なかなか外れない注連縄に苦戦していると、ミサキちゃんがすぐ隣に来て手伝ってくれた。
って、近っ!
さっきよりも遥かに近い……っていうか、もう肩が完全に触れ合っている!
そりゃ、同じところを引っ張らないと意味ないんだけど、いくらなんでもこれは……!
「ん……く……っ!」
顔を少し赤くしながら必死に力を込めるミサキちゃん。
そんな顔もやっぱり可愛い!
そしてこれだけ密着しているからミサキちゃんのいい匂いが……
「タケル! もっと力を入れろよ!」
はっ!
そうだった!
あまりにも幸せ過ぎる状況に、つい身体中の力が抜けてしまっていた。
「うっ、おおぉりゃあ……って、うわぁ!」
これが幸せパワーというやつだろうか。
さっきまでの2倍(当社比)ほどの力が沸き起こり、俺は一気に注連縄を引き剥がした。
けど、あまりに力を入れ過ぎたために、勢い余ってそのまま後ろへ倒れこんでしまった。
「う……痛てて……ん?」
何だ?
地面にうつ伏せに倒れこんだはずの俺の身体の下に、何かあるぞ。
引き剥がした注連縄だろうか。
いや、それにしては温かいし柔らかい。
特に、左手の下にあるものは……
「や、大和君……っ!」
ミサキちゃんの声が耳元で聞こえる。
いや、地面に倒れているはずの俺の耳元で声がするということは……まさか!
「あ、あああ天宮っ!?」
なんてことだ!
ミサキちゃんを下敷きにしてしまった!
しかも、俺の左手はミサキちゃんの左胸を――
「うわぁ! ご、ごめん!」
慌てて飛び退いた俺の左手には、ミサキちゃんの柔らかな胸の感触が残っていた。
ミカエラに比べれば随分とサイズは控えめだが、ふわふわとした極上のマシュマロのような感触だった。
「だ……大丈……夫……」
顔を真っ赤にしながら、胸を隠すように押さえて立ち上がるミサキちゃん。
絶対大丈夫じゃないよ。
あぁ、俺はなんてことを……!
今ので完全に嫌われた!
「お前はこの非常時にぃ……」
眼に涙を浮かべたミサキちゃんから距離を取るように後退りした俺の、後ろ襟を誰かががしっと掴んだ。
「何をやってんだーーーー!!」
次の瞬間、拝殿に向かって俺の身体がもの凄い勢いで飛んでいった。
ベルが俺を思いっきりぶん投げたのだ。
確かに今のは俺が悪いのかもしれないけど……人を軽々と投げんじゃねーよ!
「うわぁ!」
宙を舞った俺の身体は拝殿の木戸に思いっきり叩き付けられ、そのままぶち破って室内へと転がり込んだ。
「痛って~……って、巫……?」
頭を押さえながら上体を起こした俺が最初に見たのは、注連縄に囲まれた狭い空間に座る巫の姿だった。
「……なんで水着?」
巫の無事な姿に一応安心した俺は、思わずその姿に眼が釘付けになってしまった。
巫って思ったよりスタイルいいんだなぁ、とか考えてしまう。
「そうね。その質問に答える義理はないし、とりあえず死んでくれる?」
巫が虫ケラを見るような眼で俺を睨み付ける。
いや、なんでそこまで言われなきゃならんのだ……!?
っていうか、他に言うことあるだろ。
「なっ……なんだこいつ!?」
俺がぶち破った木戸の辺りで、ベルが叫び声を上げる。
その声に振り向いた俺は、そのあり得ない光景に声を失ってしまった。




