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もしもクエストボードが生えたなら  作者: 和の恵
クエストボード爆誕

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神のアップデート機能

役所の人間に代わる代わる質問され、解放されたのはとっぷりと日も暮れた20時のことだった。


(つっっっっっかれたぁぁ…)


家に帰る気にもなれず、俺はそのまま牛丼屋に寄って行った。

いつも食べる牛丼とカレーのセットを頼むと、あっという間に井の中へ収めていく。

何とも言えない昼の後、飲み物もそこそこに軟禁されていた俺の胃袋の虫は、すべてを平らげた頃にやっと落ち着いてくれた。


(せっかくクエストボードが生えても、受注の仕方がわかんないんじゃなぁ…)


あの後誰でも受注ができるのか?

と疑問に思った俺たちは、クエストボードの前にしばらく居座ってみたが、依頼書が貼られることはなかった。

警察にも相談したため役所の業務もストップし、周りに誰もいなかったこともあったのだろうか。

何が条件になるのか、さっぱりわからなかったのだ。


(俺しか受注できなかったとして、これっぽっちの報酬しか払われないんじゃ、何の役にも立たないじゃないか。

これでバンバン依頼が貼られて、選り取り見取りになってくれればウハウハだってのに…)




思考の終着を感じてスマホを触り始める。


(なんかオイシイ話はないもんかなぁ)


『検索:水戸 副業』


副業の肩身の狭さを実感するだけだというのに、俺はその検索をぼーっと眺めていた。

今までに何度も見た会社の求人をすべて通り過ぎた頃、ピロンッと通知音が鳴る。

表示された文字に俺は、


「え?ありえないだろ…ってことはまさか…」


スマホが壊れたのかと思いながら、俺は表示された文字列を三度見する。


『クエストボードをインストールしました』




ありえないのだ。

だって俺はアプリをインストールするような操作は一切していない。

ましてやクエストボードを調べようともしなかった。

これで何かヒットしても、どうせ異世界物のマンガやアニメが出てくるだけだと思ったからだ。


(検索すらしていないクエストボードが俺のスマホにインストールされただと…?)


恐怖を感じる一方で、好奇心から俺は指を伸ばした。




ーーーインストールデータの確認中...


成功!


ーーーダウンロードデータの確認中...


成功!


ーーーバージョンの確認中...


成功!


□個人情報取扱い規約に同意する

□利用規約に同意する

送信




(やべぇ…思ったより普通にアプリじゃん…個人情報の話とかどんなだよ…)


規約を確認するも難しい文字の羅列を前に、疲れた俺の脳には何も入ってこなかった。

諦めてさっさと進めることにした俺は、「同意する」にチェックを入れて送信した。


ーーーようこそ!クエストボードへ!


ーーー最初にマイナカードの連携をします。


→ マイナアプリから設定する

  Webから設定する


(おっと?マイナカードと連携すんのか。まぁ誰のデータかわかんなかったらクエストボードみたいに口座情報とか読み取れないもんな。

そういや俺クエストボードに納品した時、なんもした覚えないけど…あれはどうやって認証してたんだ?)


沸き起こる疑問を抱きながらも、流れるようにアプリを起動してマイナカードと連携していく。




『それはね、ボクが勝手に作ったシステムだからだよ』


突然答えが返ってくる。


『いやぁ、思いついたから作ったけど、人間のシステムを使って介入しようとするとこうなるんだねぇ』


あははと笑いながら話す少年のような声に俺は、


「あー、まさか神様とかッスかね?」


『あたり~!』


パンパーンとクラッカーを鳴らしたような音を立てて肯定してきた自称神様に、俺は溜息を吐いた。




「あのー、多分それだいぶ介入してませんか?後で怒られません?」


『いや!ボクが神だから!ボクが正義だから!天使クンとか怒られても大丈夫だから!』


明らかに焦った声になった気がするが、冷静に話せている俺がいる。

なぜならクエストボードが出現した段階で、俺は神様の介入を考えていたのだ。


(だっておかしいだろ?こんな転生物みたいな、異世界みたいなことが起きたらさぁ。そりゃ神様の存在を考えるしかないし、俺のぼやきに反応してクエストボードが出てきたなら、俺の元を神様が訪れても不思議はないだろ)




『えー?キミ、リアクションつまんなーい。もっと驚いてほしかったのに』


「そりゃこんだけ派手にやったらいくら神様だって怒られるだろうし、何かしら取引を持ち掛けられるんじゃないかと思うじゃないですか」


かわいくなーい!と叫ぶ神様を尻目に、サクサクと進めていた連携が完了した俺はアプリ内を探索することにした。


『あっ、人間はチュートリアルってのがほしいんだっけ?アプリを作るコードとかは全部この世界のAIにお願いしたから大丈夫だと思うけど、キミの方でデバッグしてくれると助かるよ~♪』


(神がAI使うんだ…むしろ反対しないんだ…

つーかデバッグとかこの神よく知ってんな)


「とにかく俺はクエストを受けたいんです。どうやったら依頼を受けられるんですか?」


『それはね、役所に来て悩んでる人が、「こんなことしてくれる人がいればいいのに」と願えばいいんだよ』


「それって夜の内に願ったことは依頼にならないってことですよね?役所は夕方に閉まるから」


『あっ、そっか。じゃあどんな風にしたらいいと思う~?』


「このアプリを使って依頼も出せるようにしちゃえばいいんじゃないですかね?依頼する側も口座から報酬払ったりしなきゃいけないんだし、住んでる地区で負担するべきものもこっから飛べばいいんじゃないかと…」


『なるほどね!キミ、飲み込み早いね~!』


「いや、副業でデータ入力とかやってたことあって、こんな感じで一本化されてるデータは入力しやすかったんですよね。

それと、個人用と法人とか事業用で分けようとした時に困るんで、マイナンバーだけじゃなく事業番号とか、インボイスの個人番号とかで発注できるようにしたら会社の経理も楽になりそうッスね」


『すごい!確かにキミが考えたシステムだけど、ここまで使えるものだなんてね…!キミの世界のお偉いさん方はなんで実装しなかったんだろう?』


「金がかかりますから。開発するにも国の事業じゃセキュリティも普通のアプリみたいに承認できないし、制作側も買い叩かれることだけは阻止したい。またそれらを管理する人材も必要になる。それから告知。マイナンバーも作った時に何年掛けて実装したか、考えたら仕方ないんですよね。口座情報も紐づいてるから、ハッカーに公開されたら危ないじゃないですか」


『はぁー…そういうの、もしかして好き…?』


「好きっつーか、タラレバで考えるのが楽しくて構築だけはしてた、みたいな」


『ならやっぱりこのアプリのデバッグをキミにお願いしたのは当たりだったんだね~♪これならボクはしばらくサボれるっと~♪』


(ん?今この神、聞き捨てならない言葉を言ったような…)


『キミが言う内容をAIに反映させておいたから!あとは何かあればそこの「改善要望」から送って~♪ボクはこの後「温泉」ってのに入ってくるんだ~♪じゃあね!』


「あっ、おい!…クソ」


念のため周りに神様の声が聞こえていなくても変に思われないように着けていたイヤホンに向かって吐き捨てる。

用を終えたイヤホンを外しながら、『更新中』と書かれた画面を見て退店することにした。

そういや、牛丼食ってから居座ってたから睨まれてもしょうがないよなと思いながら、「ありがとうございやした~」と元気に返してくれる店員さんに感謝しつつ帰宅の途につく。




ーーー帰宅後


家に帰って先にやることはゲーム。何よりも休む時間に自分がやりたいことをやる。それがいつもの俺だった。

そう、今日はクエストボードをいじり倒せるところまでいじり倒してやろうと思ってしまったのだ。


(俺、実はエンジニア気質なところでもあったのか…開発すんの楽しい~!)


と思っていた矢先、先ほどまでと同じところで詰まる。

依頼がないのだ。

そりゃあ誰もクエストボードをインストールしなかったら依頼が出てくるわけがない。

かといって俺が発注する側になるにも、口座残高は5円だ。




(仕方ない、風呂に入って頭さっぱりさせてくるかぁ…)


『それなら他の人間にも強制インストールさせちゃえばいいんだよね?』




神様ってやつは何の改善要望の機能を付けたのかというくらい勝手にアップデートしてくれる。

そんな神の暴君ぶりを尻目に溜息をひとつ吐いた俺は、また更新が入るならと先ほど決めたスケジュールを履行したこと後悔する。


とはいえこんなん、誰も予想できるわけないだろ!


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