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「あのクマさん、お兄さんが作ってるんですか!?」


 少女に手を引かれ公園のベンチに腰掛けたきよみは、顔にこそ出していないけれど、軽いパニック状態だった。

 さすがに本業は言わなかったけれど、呪具を作っているのが自分だと漏らしてしまうだなんて。

 さとしが聞いたら鼻で笑うに違いない。


「う、うん。一応」

「じゃあ、次に納品する日を教えてください! あたし絶対あのおまじないやりたくて!」

「ま、待って。ちか、近い……」


 ぐいぐいと迫る少女に押され、澄はまたしても思わず返答をしてしまう。問題は次の納品日など澄自身もまだわからないということだった。


「し、仕事の合間に、作ってるものだから、いつ出来るかはまだわから、なくて」

「じゃあわかったら連絡ください。あたしの連絡先教えるので」

「え、いや……」


 返事をする間もなく少女がスマートフォンを取り出して、見せつけるように差し出してくる。こうなってしまっては、澄は首を縦に振る以外出来なかった。

 半ば強引に連絡先を押し付けた少女は、美緒みおと名乗った。


「電車で見かけるだけの人だったんですけどぉ。制服から学校わかって、中学時代の友達に名前聞いてぇ」

「へ、へぇ……」

「めーっちゃカッコイイんですよ。でも最近彼女と別れたらしくて」

「く、詳しいね」


 そんなことまで調べられるなら、おまじないなんて要らないのでは? と思うものの、口には出せない。澄にはわからない、彼女なりの事情があるのだと思うことにする。


「高校生にもなって、おまじないを信じてるとかバカだなって思います?」

「そ、そんなこと、は、ないよ。そもそもオレが、作ってるん、だし」


 世間一般、おまじないは迷信だというのは常識だ。だがその常識の裏で動く、澄のような人間もいる。

 澄の返答に安堵したのか、美緒はほっと笑みを浮かべた。


「勇気がもらえるだけでいいんです。おまじないの効果かもって思ったら、ちょっとのきっかけでも頑張れる気がして」


 そう言ってはにかんだ美緒は、照れくさそうに立ち上がると「連絡待ってます!」と走り去ってしまった。


 ベンチに取り残された澄は、呆然と美緒の背を見送る。美緒の言葉が少し遅れて身体の中に染み込んで、じわじわと理解できてくる。


「ちょっとは……人の為に、なれてる、かな」


 スマートフォンの連絡先に追加された美緒の名前をながめ、澄は喜びの余韻に浸りながら家路についた。




 その日から澄は張り切ってぬいぐるみの制作に取り掛かった。


 張り切っている自覚は無いけれど、ちょっとまじないの効果を強めにしちゃおうかな、なんて考えているあたり、常になく浮かれていると言ってもいい。

 曲がりなりにも呪具であるため、裁縫を急げば出来るものでもないのだが。


 そうして出来た一体のぬいぐるみは、美緒に直接渡すことにした。ひきこもりの澄が自発的に人と会おうとするなんて、と唯一突っ込める幼なじみが不在だったから、澄は自分がどれだけ浮かれているのか自覚しないままだった。


「わー! ありがとう、お兄さん!」

「う、うん。うまくいくと、いい、ね?」

「絶対上手くいくって! 怖いものなしだよー!」

「じゃあ、がんばって」

「うん! 告白したらお兄さんにも報告するね!」

「え、あぁ、はい」


 告白の結果を聞かされても反応に困るのだが。思っていた以上に喜ばれ、澄の心は満足感で満たされていった。



***



 ちらり、とスマートフォンを見る。

 美緒にぬいぐるみを渡してから数日。呪具の効果を強めたおかげで、おまじないが実行されたような気配を感じた。

 そろそろ、何かしら動きがあっても良い頃なのだが。

 メッセージも着信もない。


「き、気にし過ぎ……」


 報告されても困ると思っていたのに、いざ呪具の発動を感知してしまうと結果が気になり、澄は数分おきにスマートフォンを確認していた。

 しかし、結局美緒からの連絡はなく、なんとなく気落ちしているところへ、出張から戻ったらしい聡が現れた。


「お、意外と平気そうだな。もっとビビってるかと思ったんだが」

「? な、なんの、こと?」

「殺人事件があっただろ。女子高生が殺されたって――なんだ、もしかして知らなかったか?」

「し、知らない。こ、この辺で?」

「爺さんの店の近くにある高校の生徒だってよ。探ってみた感じだと、隣の県の殺人事件と同一犯らしいって……澄、大丈夫か?」

「殺された、女子高生って……」


 澄の様子を訝しみながらも、聡はスマートフォンを操作してとあるニュースを表示させた。恐る恐るそのニュースに目をやった澄の目に飛び込んできたのは、つい数日前に自身の連絡先に登録されたのと同じ名前だった。


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