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きよみ、お前が持ってきたのか。久しぶりじゃのう」


 雑貨店に入ると、はたきを手にした店主が顔を綻ばせた。


「じーさま、ひ、久しぶり。ぬいぐるみの、納品に来たよ」


 ずっと緊張してきた澄の強ばりは、人のいない店内の少し黴臭い空気が解していく。幼い頃から知る翁は気安く、身内のようなものだった。

 早速ぬいぐるみ三体を入れた紙袋ごと差し出すと、満足気にうなずいた店主はすぐさま入口正面の棚に並べていく。


「そ、そんなすぐ、並べるんだ?」

「そろそろ客が来るからの。これ目当てなんじゃから、出さん訳にはいかん」

「い、いくらなんでも、そんなすぐ、う、売れないよ」

「ふふん、見とけ見とけ。ついでに茶を出してやるから、ゆっくりしていくといい」

「う、うん」


 出来れば暗くなってから帰りたい。そんな澄の考えを見透かしたように、店主はレジカウンターの奥に戻るとパイプ椅子を一つ出した。


 まだ引きこもってるのか、とか、本業の調子はどうか、なんて話をしていると、入口扉の向こうから若い女性の声が聞こえてきた。


 入ってきたのは制服姿の女子高生が四人。

 入ってすぐに、澄が納品したばかりのぬいぐるみを見つけると、きゃいきゃいと手に取っていく。

 手にできない一名は残念そうに肩を落としていたけれど、彼女達の間で事前に購入順を決めていたらしい。特に揉めることもなく会計を済ませ、あっという間に店を出て行った。


「ほ、ほんとに、売れた……」

「な? ばずってるんじゃよ、お前のクマが」

「信じ、られない……」


 店主が言うには、女子高生達は毎日のように店を訪れるらしい。会話から推察するに、学校でぬいぐるみのおまじない効果が話題になっているようだった。


「お前が作ったんだから、ナリはああでもれっきとした呪具じゃろ?」

「そりゃまぁ……。で、でも、あ、相手と引き合うとかそんな程度だ、けど」

「あのくらいの年頃じゃ、それが嬉しいんじゃろ」


 偶然何度も遭遇したら、意識にも残りやすい。そこからどう発展するかは当人次第とはいえ、きっかけ作りとして望まれているのだろう。


「そ、そうなんだ……?」


 澄は翁の言葉に首を傾げる。しかし『人の為になる仕事がしたい』と作り始めた呪具が見ず知らずの女子高生達に喜ばれているという事実に、口の端がもにょもにょと緩むのを止められなかった。




 店を出ると日はすっかり落ちていた。

 見上げるとビルの合間に濃藍色の空がのぞく。薄らと雲が広がっていて、星どころか月さえ見えなかった。


 人気の無い道を選べば徒歩でも帰れそうだ、と澄は足を踏み出す。

 選んだ道にあった小さな公園で、ベンチに腰掛けた少女が目に止まったのは、つい先程見た女子高生と同じ制服だったからだろう。


「あ、あれ……さっきの……」


 よく見ると、制服どころか先程雑貨店で見かけた女子高生だった。一人だけぬいぐるみを買いそびれた少女だ。

 少女も澄の視線に気づいたのか俯いていた視線を上げると、「あっ!」と澄を指さし立ち上がった。


「さっきのお店で、レジのとこにいた人ですよね!?」


 友人たちが会計をする間、この少女は手持ち無沙汰そうに店内を見回していた。澄といえば、女子高生をジロジロ見る訳にもいかず、居心地の悪い思いをしていたのだが。その時に少女にはしっかり顔を覚えられていたらしい。


「…………ぅ、えっと」


 話しかけられるとは。

 普段からひきこもり、話す相手といえばさとしくらい。そんな澄にとって女子高生は完全に未知の生き物だった。

 しかしそんなことはお構いなしに少女は近付いてくる。


 澄は後ずさり逃げそうになるけれど、どうにか耐えることができたのは、明かりの少ない場所だったからだ。昼間だったら一目散に逃げただろうし、もっと明るい街灯があっても逃げたかもしれない。


「お兄さん、あのお店の関係者なんですよね? あのおまじないクマさん、次の入荷日とか教えてもらえませんか?」


 自分を見上げる少女の眼差しがあまりにも真剣で、澄はやっぱり逃げれば良かったかも、と少しだけ後悔した。


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