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日和見主義だった俺が揉めすぎる演劇部で全国大会を目指したら青春すぎた  作者: 溝野 重賀
第6章 張り切る部活と春大会

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第187話 リハーサル後 先輩の当然

『ありがとうございました!』


 俺たちは施設の人に感謝を述べて、ホールを後にした。

 駐車場で十分間の休憩をした後、再び円になって集合する。

 このまま学校に戻って部活を再開するのだろうと思っていた。

 しかし、轟先輩の口からは意外な言葉が出た。


「はーい皆さんお疲れ様です! それぞれ思うことや考えることあると思いますが、これで今日の部活は解散となります! 今から学校に戻って部活をしてもいいのですが……えーと、演出家とコバセンと話し合った結果、今日は早く帰ってしっかり休んで、明日明後日の春大会のために英気を養ってください!」


 みんなも解散するとは思っていなかったのか、一瞬呆気に取られていた。

 椎名がすぐに異議を申し立てる。


「待ってください轟先輩。その、確認とかしなくていいのでしょうか? それに、一年生たちはホールに入ったの初めてですし、今のうちに練習して――」


「うんうん。香奈んの言うことも一理あるとは思うんだけど、だけどね……コバセン!」


 轟先輩が困ったように、助けを求めるかのようにコバセンの名を呼んだ。

 面倒くさそうに頭を掻きながら、コバセンはゆっくりと話し出す。


「ったく。しっかりしろ部長。いいか、今から学校に行って練習しても無駄だ」


『!』


 はっきりと言うその言葉には、嫌な重みがあった。

 まるで心のどこかでそれを認めているような気がして、反論が出なかった。


「久々、もしくは初めてのホールで興奮しているにすぎない。そうだな、例えば今から学校に戻って一回通し稽古をして、何になる? 何かが変わるか? 否だな。むしろ変な自信やプライドを持ちかねない。『自分たちはこんなに一生懸命やっているんだ』『最後の最後まで練習したから良い劇が出来るはずだ』って。笑わせるなガキども」


 言っていることは理解できた。

 確かに今の俺たちは、どこか興奮気味だ。ホールで練習できたことに高揚感を覚えている。

 それが劇に必要かと問われれば、いらないことだ。


「いいか、それは勉強で言う一夜漬けだ。言い訳を探す怠惰の象徴だ。お前らは違うだろ? 今日までの間に練習はもう済んだはずだ。勘違いしているやつのために言葉にしてやる。春大会はもう始まっているんだぞ」


 コバセンの言葉に、はっとさせられた。

 そうだ。リハーサルだって春大会の一部だ。本番じゃないからってどこか心に余裕を持っていたんじゃないか? 俺は拳を強く握り、自分を恥じた。

 全員の顔を見渡したコバセンは轟先輩へ視線を送った。


「ということで今日は解散です。反論のある人はいませんね?」


『…………』


 誰も、何も言わなかった。

 それを見た轟先輩は、一瞬むすっとした顔になったあとに、腕を組んで胸を張った。


「皆さん! 反省するのも恥じるのも大いに結構! しかし! 春大会は楽しむものです! 演劇人たるもの劇を楽しむのも役割です! それを肝に銘じてください!」


 轟先輩の声はいつだって暗い雰囲気を壊す。

 みんなが注目する中で轟先輩は、にかっと笑って話を続ける。


「落ち込むのも不安なのも分かります! ですが! 明日明後日の春大会は一生に一回です! なら、楽しまないでどうするんですか! 返事は!?」


『は、はい!』


 部長の言葉に俺たちは本能的に返事をした。

 満足したのか、轟先輩は満面の笑みで樫田へと話を振った。


「なら良し! 樫田んは何かある?」


「そうですね、だいたいは先生と部長の言う通りなので…………一つだけ簡潔に」


 演出家として話を振られた樫田は真剣な表情で言う。


「皆さん。お疲れ様です。大切なことはお二人から聞いた通りです。ですが、じっとしてられないもの事実だと思います。今から家に帰っても明日まで時間あるし、かといってすることもないと思います。なので――」


 ちらっとコバセンを見る樫田。

 そして何故か両手で耳を塞ぐコバセン。


「今日は日曜日ということもあり、校則に引っかからない程度の寄り道は大丈夫です。練習はできないですが、話したいことや確認したいことをちゃんとそれぞれで向き合ってください」


「くれぐれも問題は起こさず、早く帰れよ―」


 耳に手を当てながら言うコバセン。いや、聞こえてんのかよ。

 ただ、樫田の言葉を聞いて俺は少し安堵した。

 このまま帰れと言われていたら、心にもやが残っただろう。


「では! 今日はこれで解散です! お疲れさまでした!」


『お疲れ様でした!』



  ――――――――――――――



 解散すると、それぞれ行動し始める。

 トイレに行く人や飲み物を買いに行った人がいる中で、彼女が俺に近づいてきた。


「あ、あの杉野先輩」


「ん? どうした池本」


 一直線に俺のもとに来ると、池本は言いにくそうにもじもじしていたが意を決したように口を開いた。


「その、リハーサルの時ありがとうございました……!」


「別に、俺は何もしてないよ」


「でもたぶん……いえ、きっと先輩が五場をやろうって言ってくれなかったら、私はまともに声も出せなかったと思います」


「まぁ、初めてのホールだし緊張するのは当然だよ」


「それは、そうかもしれませんが……」


 俺の言葉に、何かを飲み込んでいる池本。

 きっと自分の中で消化できていないのだろう。

 なら、先輩として俺はどうするべきか。

 慰めも励ましも簡単だ。けど、そうじゃない気がした。


「池本」


「は、はい……!」


「シビアなこと言うが、本番それが全てだ。例え今日声が出ようが、本番で声が出なかったら意味がない。だから、今日を引きずるな」


「杉野先輩……」


「一緒に最高の劇を創ろう」


 そう言って俺が笑うと、池本は真剣な表情になり静かに頭を下げた。

 きっと、伝わったのだろう。


「ありがとうございます」


「おう……あー、この後はどうするんだ?」


「真弓ちゃんと金子君と少し話す予定です」


 池本は顔を上げると、笑顔で答えた。

 なるほど。さしずめ一年生の決起会ってところか。


「そっか。遅くならないようにな」


「はい……失礼します」


 そう言って、池本は俺から離れて、田島たちの方へと歩いて行った。

 俺は黙ってそれを見ていた。だから気づかなかったのだろう背後の人物を。


「甘酸っぱいねぇ、杉野ん」


「うお! 轟先輩! 驚かさないでくださいよ」


 驚いて振り向くと、けらけらと笑う轟先輩が立っていた。

 気配消すのうますぎるだろ。この人は。


「ごめんごめん。相変わらず杉野んは良い反応をする」


「で? 何の用ですか」


「何って褒めに来たんだよ」


 ? いまいち言っている意味が分からなかった。

 ホメニキタ? 何それ美味しいの?

 分かっていない俺に轟先輩はため息をついた。


「はぁ、慣れてないから分かってないな? 杉野ん悲しすぎるよ」


「そんな憐れまないでも……」


「とにかく! 今日の役者への指示出しは良かったです! 先輩として安心しました!」


 びしっと俺を指さしながら、轟先輩は真っ直ぐに言った。

 言われてようやく自分が褒められたのだと自覚した。


「あ、ありがとうございます?」


「なぜに疑問形?」


「その、まさか褒められると思っていなかったもので……」


「はぁー、この子はまったく……」


 クソでかため息をつきながら、額に手を当てる轟先輩。

 えー、呆れられた。これってプラマイゼロじゃない?


「でも、指示出しって言っても樫田と事前に打ち合わせしたことがほとんどですよ?」


「甘いなぁ、糖度65度ぐらい甘いなぁ」


「ジャムじゃないんですから」


「いいかい杉野ん。確かにほとんどは事前に打ち合わせたことかもしれないけど、想定外のこと……特に池本後輩のことに対して無事にリハーサルを終えた。これは立派な事だよ」


 そう言われてなお俺はピンと来ていなかった。

 褒めるなら樫田ではないだろうか。そうとすら思ってしまう。


「杉野んってそういうところ捻くれているよね。信賞必罰は世の常だよ」


「そっすか」


「軽い!? 褒めがいのない子だ……」


 どこか残念そうに肩を落とす轟先輩。

 いや、だって。


「後輩の面倒を見るのは先輩として当然だって教えてくれたのは先輩たちじゃないですか」


「……」


 何故か轟先輩は沈黙した。あれ? 変なこと言った?

 そう。俺にとってアレは当然のことだ。

 何ら褒められることではない。


「ふ、ふん! 別に杉野んの評価が上がったりしないんだから!」


「なぜツンデレ?」


「まぁ、とにかく先輩として安心したのは事実だから。それを伝えに来ただけ」


 轟先輩はけろっと態度を変えた。

 いまいちよく分からなかったが、とりあえず納得しておくことにした。


「まぁ分かりました」


「じゃ、後がつかえているから、私はこれで」


「……後?」


 轟先輩の視線が俺の背後に向いていることに気づいた。

 振り向くと、そこには椎名と増倉が立っていた。

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