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日和見主義だった俺が揉めすぎる演劇部で全国大会を目指したら青春すぎた  作者: 溝野 重賀
第6章 張り切る部活と春大会

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EX26 心の奥で思うこと

 水を飲んで、ようやく私は疲労感を自覚した。

 それ同時に、至らなさを実感した。

 無意識に右手に持ったペットボトルを強く握っていた。ペコっていう音が鳴って私は現実へと戻る。

 増倉先輩と目が合う。穏やかな笑顔で私を見てきた。


「あと五分ぐらいしたら、戻ろっか」


「はい……あの」


「ん?」


 先輩の笑顔が私の胸を締め付ける。

 どうしようもない無力感が溢れてくる気がした。


「五分もいなくて、大丈夫でしょうか?」


「大丈夫大丈夫。私たちは序盤の出番少ないし、音響と照明がきっかけ確認している間なら、しばらくは問題ないよ。それに必要なら呼ばれるし」


「そう、ですか……」


 軽く言う増倉先輩。きっとその通りなのだろう。

 きっとそれは単なる事実で、何も気にすることじゃないはずなのに私は。


「……池本。悔しい?」


「!」


 驚く私を当然のように増倉先輩は落ち着いていた。

 ああ、見透かされているんだな。

 私降参するように、小さく頷いた。


「そっか……それは辛いし苦しいのかもしれない。けど池本、初めてなんてそんなもんだよ」


「そんなもん?」


「去年の私たちなんて、もっと酷かったんだから」


「え……嘘ですよね……?」


 信じられない。私を慰めるための冗談だと、そう思った。

 けど増倉先輩の懐かしむような表情から本当のことだと悟った。


「本当だよ。知識はないし、経験もない。それになりよりチームワークがなかったし……でも、あの時の失敗があったから、今こうしている」


「増倉先輩……」


「だからね。池本は初めてだから緊張するのも当然だし、失敗してもいいんだよ」


 その言葉は私の心を暖かくしてくれた。

 杉野先輩が体の震えを取り除いてくれたのなら、増倉先輩は私の心の震えを取っ払ってくれた。

 ――でも、それでも私は。


「私は、失敗したくないです」


 思わずそんな言葉が口から出ていた。

 言っておきながら自分の言葉に驚いた。それと同時に納得もした。

 そうか、私は失敗したくなんだ。


「あはは、良いハングリー精神だ。その通りだね池本。誰だって失敗なんて嫌だ」


「いえ、あの、すみません」


「いいよ。本当のことだし。こっちこそごめん。いらない言葉だったね」


「いいえ! そんな!」


 私は首を横に振った。増倉先輩の言葉は確かに私の心を穏やかにしてくれた。

 その言葉自体はとても嬉しかったのだ。

 けど、なんていうか、その。


「大丈夫。分かってるよ。うーん、杉野みたいにはいかないか」


 増倉先輩は笑いながらそう言った。

 なんだか私は申し訳なくなった。

 委縮していると、増倉先輩が「さてと」と前置きながら背伸びをした。


「よし! そろそろ戻ろっか」


「はい!」


 私たちは舞台へと歩き出した。



 ふと。

 歩きながら思う。

 私はあの時――先輩たちの朗読劇を観た時――から宿った情熱は今も持っている。

 持っているはずなのに、私自身は成長しているのだろうか。

 セリフは覚えた。体は自然と動く。集中力も増したと思う。


 けど。

 憧れた、求めた、渇望した場所に今いるはずなのに、満たされない私がいる。

 何が満たされない? と問われても、きっと言葉に出来ない。

 分かっていないのではない。言葉にしないのは心のどこかで拒んでいるから。

 私の欠けた何かを。認めたくないのだ。


 ただ。

 心の奥に焼き付いているのは、杉野先輩と真弓ちゃんがしたあのアドリブだ。

 何かに、どこかに引っかかっている。

 そして、あれを見てから心の奥で叫んでいる。

 私の本当。どうしようもない本音を。


 まだ。

 口に出せば間に合うかもしれない。

 演劇部(ここ)は優しいから。それが我儘(わがまま)でも許してくれるかもしれない。

 そう思う私の弱さが私は嫌いだ。

 ちゃんと向き合わないといけないのに、乗り越えないといけないのに。

 私の弱さが、臆病さが私の歩みを止め、口を閉ざし置物にさせる。


 ――未だに私は観客なんだ。

 否応なくそう自覚させられる。

 例え舞台上にいても私だけが観客だった。

 一番近くて、最も遠い観客。

 いつ私は演劇部の一部になれたと自覚できるのだろうか。

 それともこのまま、観客として終わるのだろうか。


 誰も答えない。

 誰も知らない。

 そんな疑問を胸に、私は静かに舞台へ上がった。


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