二十一章 サプリスかの住処グラノノエール
一方、グラノノエールでタカルは掃除をしていました。
うずたかく積まれた分厚い本に、うずたかくほこりが溜まっています。
布を縛って口元を隠し、はたきでほこりを本棚の上からはたきおとしています。
フクロウのカーキが、「もはや煙みたいでけむたい」と言います。
「前々から思ってたけど、なんで話せるの?」
「ひーみつ」
「ああ、そう」
タカルは本の中から、珍しい文献を見つけました。
「海賊についての本っ・・・?すごいや、読んでみたいっ」
「そういえばぁー・・・」
「なんだい、カーキ?」
「ちゃんと掃除するなら、ここにある本を好きなだけ読んでもいいってさ」
「サプリスカが言ったの?」
「他に誰がいるってんだ」
「君」
「そんな気遣いみたいなこと、私、しそうだにゃー」
「サプリスカを師匠と呼ぶかもしれない」
「私のことは、師匠って呼ばなくいいぞ」
「分かったよ、カーキ」
そう言うとタカルは掃除に戻り、また珍しい文献を見つけ続けるのでした。
「食事でも作ってやろう」
カーキがそう言うと、「魔法使えるの?」とタカル。
「ひとの姿をとると、なかなか私はそれでも美しいぞ」
「ふぅん・・・まるで物語だ」
やがて一週間ほどかかって綺麗にした書室に、サプリスカが現れます。
「ほーう、ずいぶんと頑張ったなぁ。カーキからの伝言を聞いたか?」
「はい。好きに読書をしてもいいと。でも、いいんです」
「ん?」
「近々街で献血しないと気が済まないので、姫のためにここを出ます」
「なるほど、四日という時間と、私のモノクルを貸そう」
サプリスカの示したモノクルは魔法の片メガネで、実力分、早く本を読めたりします。
タカルはモノクルをかけ、緑色の魔法陣を思わせる表示がグラスに現れ驚きます。
「このモノクルには私個人用の設定がしてあって、
この書室の本はジーピーエスという機能で案内がされる。
まぁ、好きに使うがいいさ」
海賊についてや、昔の旅人の日記出版類、植物について、貴重な文献ばかりです。
特にタカルが興味を持ったのが王族に関する記述で、
その中に、キリシア姫の謎の貧血を治すかもしれない記載がありました。
「すごい。王宮に知らせにいかないとっ」
食事の準備をしていた人型をとったカーキが、ごはんだよ、と声を透します。
褐色の肌の美しい女性を前に、タカルが言いました。
「魔法で食事を作ってたんじゃないの?」
「多少」
「あなた、白魔女?」
「そうさ、肌は黒いが白魔女だよ」
「おかしなジョークを言わなくてよかったよ」
少しカーキが笑った時、サプリスカが「完成したっ」と別の部屋で叫びました。
「師匠って、何をしてるひと?」
「姫の夢見で現れた、マジックペンなるものを、開発中」
「・・・姫っ?」
カーキはそれに返事はせずに、あらぬ方向を向きます。
「誰か来たようだ。多分、ポコナミですね」
「ポコナミ・・・どこかで聞いたことがあるような・・・?」
「有名な占い師さ。少し魔法も使える。サプリスカの一番弟子だよ」
「じゃあ、僕の立場からなんて呼べば適切なんだろう?」
そこにやって来たポコナミとサプリスカが、食卓の席に座ります。
ポコナミが「期日中に完成してよかった」と言った時、タカルと目が合います。
ふたりは見つめ合い、首をかしげました。
「「どこかで会ったことがあるような・・・」」
サプリスカが勝手に食事を始めながら言います。
「二番弟子よ、マジックペンを夜会に届けておくれね」
「夜会・・・?」
「それなりの恰好をしないとねぇ」
「それで二番弟子よ、読書の方はどうだ?気はすんだか?」
「はい、充実しました」
「うんうん、ご褒美に魔法力を分けてやろう」
サプリスカが指を鳴らすと、タカルの船模型が金の砂をかけたように光ります。
瓶の中からすっと出てくると、空中に浮きだしました。
「大きくも小さくもできるし、海を渡り、空も飛べる、どうだ?」
「空を飛ぶっ?すごいやっ。ありがとう、師匠っ」
「船の名前を呼んでみなさい」
「たしか、『マリカローズ』だったような・・・」
そうなんですね。
瓶にそう書いてあるので、私の名前はマリカローズでいいでしょう。
「今の、誰?」
「船の意思さ」
「ほう・・・なんだ、本当に船って意思を持ってるんだ」
「不思議な子だ」
「時々、意外な知識を持っている。ポコナミ、料理の味はどうです?」
「うんうん、ほう、また腕があがったねぇ」
「そうですか、よかった」
「それで、そっちの坊やは名前をなんて?」
「あ・・・ああっ、思い出したっ。占い師っ」
「ん?」
「あなた、僕を占ってくれた占い師じゃないかっ。太陽花畑のきっかけのっ」
「タカル・・・?」
「え?名前、憶えていてくれたんですか?」
「ん?シュガー、どうした?」
「僕、本名をタカルって言うんです」
「フルネームは?」
「タカル・ファ・グライス」
ポコナミが席を立ち、グラスにそそがれた酒を飲みほして言いました。
「すぐに船を出そう」




