十四章 旧世代からの悪臭 02
パサートヴァリアントとその娘が聞いている中、お話がはじまります。
題名を、雷の音、と言います。
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昔話でありますが、天を怒らせると雷が落ちるというお話があります。
悪いことをすると、正義の雷が悪者に落ちるのです。
それを聞いた大きな猫が、動物たちの悪さを知ると、雷のまねをして叱りました。
そして百獣の王になったその大きな猫は、ライオンと言う名前になりました。
いかづちのおと、は、別の読み方で「ライオン」と発音するからです。
今日もライオンは動物たちの平穏を守るために、どこかで吠えているかもしれませんね。
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お話が終わり、パサートヴァリアントが感動して言います。
「素晴らしい、歌を思いつきそうだよ」
その娘も、君も素晴らしい、と拍手をしました。
「ありがとう、ね」
どうもパサートヴァリアントが心配している事情に気づいたタカル。
多分ですが誰かが『鬼子』の話を出したのだと算段をつけました。
タカルは本題に入りましょう、とパサートヴァリアントに切り出します。
「先祖に、金髪がいたりしませんか?」
「先祖?たしか俺の父が、金髪を黒く染めていた」
「なるほど、きっと、それだ」
「バカを言うな、俺の父親はとっくにあの世だ」
「そういう意味じゃないよ」
「じゃあ、どういうことなんだい?」
「覚醒遺伝だよ」
「それは何?」
だんだんトマトから毒気が抜けて、甘くなって来た歴史的な感じだよ。
それは『掛け合わせの法則』と言って、『先祖返り』というものも証明している。
あなたの場合、親子で顔が似ている、について、毛色が先祖返りした、ってことだ。
そうじゃなければ、色素異常と言って、日の光をあまり浴びたらいけない遺伝子だ。
タカルはそう言って、色素異常ではなさそうだ、と幼子を見て言います。
「顔が似ていない、実の親子もいるでしょう?」
「なるほど、わけが分かったぞっ。この場合、毛色が似てない、ってだけかっ」
「そういうこと」
「シュガーホール、恩に着る」
「いいんだよ。それでこの子は、今からどうする気なの?」
「公式な娘として引き取るよ」
「うんうん」
「シュガーホール、ぜひ君に、彼女の名付け親になって欲しい」
「本当かいっ?なんて誉れだろうっ」
しばらく悩んで、タカルは「ブロンディカ」という名前を思いつきました。
「まるでブルネットみたいな印象だ、気に入った。娘の名はブロンディカだ」
「素晴らしいね」
君と話ができてよかった、実は鬼子の話をされて困っていた、と告白されます。
それは、お家騒動を隠すための幻想的発言だよ、とタカル。
「まったく、この出会いは素晴らしいっ」
パサートヴァリアントが、何かあったら俺の名前を出してもいい、と言いました。
そしてタカルが見聞のためホテルを出ると、忘れていた例の悪臭がしています。
「そうだ、関所に言いに行こう」
関所に設置された建白書に、タカルはシュガーホールとして意見を投稿します。
【カルミアシュロに貝殻が大量に必要です。
貝殻を輸入して粉にしてドブにまけば悪臭は消えると思います。
貝の粉なら、安全な水がすぐに戻ると思います。
貝殻を粉にするひとを、街か国が雇ってあげたらどうでしょうか?
ドブに粉をまく係も、街のひとを雇ってあげたらいいんです。
僕は歌手パサートヴァリアントの友人、シュガーホールです】
この意見は首都ハルシオンにまで届き、確かに解決前例があると確認されました。
王様はすぐにこの問題にとりかかろうと、各地に早馬とお金を出しました。
カルミアシュロの水路は綺麗になり、貧しかった街が少しだけ潤います。
悪臭の消えた街でパサートヴァリアントが歌った日、雨が降りました。
そしてその会場に招待されたタカルは、檀上で挨拶をします。
なにか小粋なことを言おうとしたその時、タカルは客のひとりを見て叫びます。
ナイフが光った、と言った同時に、変なヒゲ面が、前列の客の背中を傷つけました。
この顔、悪臭作った犯人じゃないかよ、っと会場がどよめきます。
野外の集まりをかきわけ、雨の中、かんだかい声が言います。
「ひとが倒れたそうだよっ、どいたどいた」
タカルがパサートヴァリアントと顔を見合わせます。
「私は歌手だから耳が利く、それから、しばらくあの声と対面してた」
「僕も一緒に証言するから、役人を呼ぼう」
翌日、眉を弓型に引いたかんだかい声の客室係ゴダが役人にとらわれました。
きっと化粧で変装していたんだ、とタカルが言っていたので、役人が調べます。
化粧を落とさせている間に持ち物を調べると、付けヒゲを発見。
そのヒゲを付けさせてタカルの似顔絵と照らし合わせると、絵にそっくりです。
そして会場での騒動の罪も重なり、犯人は見事に捕まり法で裁かれました。
正義のハンマーが雷のごとく鳴り響き、裁判所でゴダはおびえたそうです。
タカルはあの不愉快な客室係がいない間に俳句を詠んで、書き溜めをしておきました。
外出する旅に水路の件で、しばらく街のひとからお礼が続いていました。
パサートヴァリアントのファンが悪臭の消えたのを知って、集まりだしています。
タカルにパサートヴァリアントが提案します。
「そろそろ次の街に行くから、一緒に街を出るなら護衛を頼んであげるよ」
「ありがたい」
わざわざ豪華な馬車が街を走ります。
それをパサートヴァリアントの乗っているものだと思った街のひとたち。
馬車を追いかける街のひとたちの群れの中を、簡素な牛車が通ります。
その牛の引く車に、タカルとパサートヴァリアントが乗っているのでした。
無事に街を出たタカルは牛車を降り、そしてまたひとりで旅をすることにしました。




