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水面に生ずる波紋の如く その伍

 某遺跡内部―――颯達は、またも魔物の群れに遭遇してしまい戦闘を繰り広げていた。


「晶彦、そっちに行ったわよ!!」


「了、解!!」


 鈴蘭が追い立てたハエトリグサを巨大化させた様な植物型魔物を晶彦は、薙刀状態へと変えた影光を振り下ろし魔物を斬り伏せる。

 飛び散る血と肉片は、瞬く間に炭の様に黒くなり、霧散する。この時晶彦は、「植物なのに血が出るのは解せぬ」などとぼやいたが鈴蘭が放った「魔物だから常識と違うのは当然じゃない?」という言葉に今一つ納得できないが取り敢えずそういう事にしておき、一先ず、この新たに現れた魔物を一掃するのであった。

 そして数分後、魔物を全て倒し残ったのは手の平サイズの紫色に光る小石―――魔石が地面に転がるのみであった。


「ふぅ~。これでこのフロアの奴は粗方片付けたかな?」


「もう出て来ないと思うけど、長居してると又出てくるってこともあるからねぇ」


 影光を肩に担ぎ汗を拭う晶彦の問い掛けに魔石を拾いながら鈴蘭はさらりと答える。

 二人の居るところから少々離れた所で腰を下ろしている颯達は、各々水分補給を行いつつ暫し休憩中である。


「それにしてももう随分と奥まで来たと思うんだがなぁ。まだまだ先は長そうだな…」


「そうですね。今居る所は、凡そですが、距離にして地下十階と言ったところですね」


「そんなに深いんですか此処?」


「緩やかな傾斜で気付き難いけど入ってからずっと下っていたのよ」


 夏美の言葉に驚きの声を上げる颯に夏美はにこやかに答える。颯以外はこういう状況に慣れているので感覚で自分の現在位置を把握する事が出来るが颯は初めてで経験など皆無な為、その驚きは無理からぬことである。


「それにしても、此処に出る奴らは、虫型と植物型が多いな」


「そこが不思議なんですよね…」


「夏美さん、それは何でなん?」


「普通なら、洞窟内ではあまり植物が育ちにくいってのが一つの理由かしら。それと虫型が居るとしたらそれを捕食する別のタイプの…それこそ爬虫類や鳥類型のモンスターが必然的に居るものなのよ」


 魔物や魔獣にも食物連鎖が存在しており、その生態系は自然界のそれと略変わりは無い。

 小型のモンスターは、外敵から身を護る為、毒や酸といった能力を有している事が多く、それを捕食するモンスターには耐性が付いていてその能力を効率的にして進化した結果その姿形は一部例外は有るが、自然界の生き物に近くなっていくのだ。

 因みに、こうしたダンジョン内での食物連鎖の頂点に君臨しているのが階層主と呼ばれるボスモンスターである。

 なのでどんなに新しいダンジョンでも数種類から数十種類のモンスターが存在している

 だがしかし、この遺跡内には芋虫型のモンスターとトラバサミの様な葉が特徴の巨大なハエトリグサ型のモンスターしか現れていないのだ。


「可能性としてだが、この遺跡は、ダンジョンに成ってあまり時間がたっていない新しい奴なのかもしれないな…」


「新しいダンジョン…それなら、お宝が有るかもってことですか?」


 志渡の言葉に颯が目をキラキラさせながら訪ねるが志渡はにこやかに笑いながら首を横に振った。


「手付かずの遺跡なら有るかもしれないが此処には何度か調査が入っていた遺跡が何らかの要因でダンジョン化したようだから、お宝は無いかもな」


「それは残念です」


 志渡の言葉に颯は肩を竦めながら少々残念そうに答える。

 お宝を欲しいという欲が無いと言えば嘘だが、命あっての物種。欲に目が眩んだ者の末路は、古今東西碌なことに成らないと相場が決まっている。

 なので別にお宝が有ろうが無かろうが颯にとっては、有ればラッキー程度の些末な事なのだ。


「志渡先生!僕おなかすきました!!」


「お前は自由だな晶彦!」


「フリーダム晶彦やな」


「ブフッ!!」


 颯が咄嗟につけた晶彦のあだ名が笑いのツボに入ったのか夏美は思わず吹き出してしまう。

 そんな風に笑われている当の本人である晶彦は気にすることなく此処に来るまでに仕留めた猪型の魔獣のワイルドボアを取り出し皮と内臓を取り除き豪快に焼き始める。

 更にその隣では、鈴蘭が特製ソースを作成していた。

 二人が用意した調理器具や調味料に対し颯は何処から取り出したんだと苦笑いしながらツッコミを入れる。


「どこからってこのウエストポーチからだけど?」


 そう言いながら晶彦は腰に付けていたポーチを颯に見せる。

 一見、只のウエストポーチにしか見えないがこのポーチの中は25立方メートル程の亜空間が広がっているマジックバックなのだと颯は夏美に説明された。


「ところでこれ何処で売っとるん?」


「欲しいの?なら買うより素材を集めて作ってもらった方が安いよ」


「そうなん?うちこんな便利なもん初めて見たわ」


「素材が入手困難な事から、俺達みたいな魔導師か、もしくは金持ちの貴族しか持ってないからねぇ」


「そうね。素材を集めてお店に持って行って、作ってもらう方がお金は掛からないわね。それにデザインもオーダーメイドしてくれるし色々お得よ。」


「えっと、因みに値段は?」


「店で買うとするなら、この容量で大体…二千五百万円から5千万円だな」


「えっ!?そんなんするん!?」


「まぁな。それが素材を集めて持ってきゃ、4~50万円位で済むんだからな」


「それでもむっちゃ高いやん…」


 颯と志渡と夏美がマジックバックの値段について話しているうちに晶彦はワイルドボアを三頭程焼き上げる。


「…米が欲しいな」


「贅沢言わないで下さい」


 三頭の内、一番小さな一頭を志渡、颯、夏美、鈴蘭で分け、残り二頭は、晶彦の胃の中へ収まっていく。

 晶彦の食欲に颯は、未だ慣れておらず、驚きの表情を浮かべている。

 志渡は肉だけでなく御飯が欲しいと呟くと夏美に窘められる。


「というか志渡先生、そろそろ帰りません?この先からめっちゃ強い気配感じるんですけど」


「おい晶彦、俺達はそれを調査しに来てるんだぞ?」


「えぇ~。明らかにヤバそうな気配がするんすけど…この気配、確実にS級(エスクラス)以上か下手すると星持ちが居ますって」


「確かになぁ…S級はともかく、流石に星持ちが居ると、ちょっと面倒ではあるな」


 晶彦の言葉に志渡は肉を食べながら思考する。

 志渡自身は余裕で対処可能であり、夏美は勿論、晶彦と鈴蘭も対処できるであろう。しかし、実戦経験の乏しい颯が居ては正直に言って足手纏いになる可能性が極めて高くこのまま進むべきか否か悩みどころでもあるのだ。


「あのぉ、そのS級ってどのくらい強いん?」


「あぁ、まだその辺説明してなかったか」


 颯の質問に志渡は地面にE~A、Sと書き、その横に星と数字を用いた強さの基準表を書き出していく。


「まず初めにランクは、Eが最弱で、D、C、B、A、Sと上がっていき、その更に上のクラスで、一ツ星~十ツ星までの計16段階でクラス分けされている。

 その強さの基準は、E級は町のチンピラ(魔力や霊力を持たない者)一人分や刃物を持った一般人位。

 B級に成ると低級魔法が使える、又は魔法が使えない人でも拳銃を【使用できる】者。だから魔法が使えなかったり訓練してなくてもB級くらいには【努力しなくても誰でもなれる。】

 S級にもなると上級魔法を扱える人、及び戦車の砲撃や複数人からの銃撃を防御又は回避できる人や、身体能力のみで他を圧倒できる超人みたいな人達の事を指すようになるけど努力し続ければS級ぐらいには成れるものだ。

 だが、一ツ星以上からは、個人で一国の軍隊を相手取る事が出来る事、又は保有霊力もしくは保有魔力又は霊力が最低でも数百万を超えている事や個人で竜種の討伐が可能な事が最低条件。しかし、星持ちになるには、生まれ持った素質が大きくかかわってくる。多少は修行を積んだりしてS級から上げれるが、星持ちになった後は、一生の内で三つ、多くて5つ程級を上げられるかといった程度が通例だ。まぁ中には例外も居るがな。それにSまでは人の領域で星持ちは、化け物とか人型災害とか人外の領域と言うのが世界共通の認識で最高級の十ツ星は、この国に12名しかいないし、全世界で百人にも満たない。」


「へぇ~因みに皆は、どのくらいなん?」


「私はギリギリSくらいかな?」


「僕と鈴蘭ちゃんは、Aだっけ?」


「いやいや、私はAだけど、晶彦はSでしょ!?」


「みんなやっぱり強いんやなぁ…」


「いやいや、志渡先生に比べれば」


「僕達なんて、弱い弱い。はっきり言って雑魚だよ」


「……………因みに志渡先生はどのくらい?」


「…………………肉うめぇな」


「露骨に話しそらされた!?」


等と和気藹々と談笑をしつつ腹を満たしていく颯達一同。

腹も膨れ十分に休息をとった後、颯達はより一層気を引き締めて先へ進む。

この時の颯は、まだS級と星持ちとの力の差を十分に理解していなかったがこの後、その違いを目の当たりにすることに成るのであった。



 ◆ ◆ ◆


慎重に奥へと続く通路を進んだその先に待っていたのは、遺跡の内部と思えない程の広い空間が広がっていた。

天井まで数十メートルあり颯達が居る場所から反対側の壁まで軽く見積もっても5km以上は在ろうかと言う広大な空間。

更に驚くべきことに、地下だというのに昼間の様に明るくなっているではないか。

その原因は、天井を埋め尽くす程の巨大な光輝く水晶の様な鉱石がある為だ。

更に天井だけで無く、よく見ると足元にもチラホラと人の頭程の大きさの物が淡く優しい光を放っている。


「奇麗……」


「うわぁ~……すっげぇ…」


「………」


その幻想的な光景に鈴蘭と晶彦は、感嘆の声を上げ颯は、声も出ない程の驚きに溜め息が漏れる。

そんな三人を微笑ましく思いつつ夏美は辺りを見回し危険が無いか警戒する。


「晶彦君、さっき言ってたヤバそうな気配っていうのは一つだけ?」


「ん~ん、一際ヤバそうなのが三つでその近くに大きいのが一つあって、問題なさそうなのがいっぱい?」


「正確なんか大雑把なのかわからん表現やな…」


「…………その気配のする方ってどっち?」


「あっち」


夏美の問いに晶彦が気配のする数を説明したが晶彦以外全員が苦笑いを浮かべ颯がついツッコミを入れてしまう。

そんな颯のツッコミに小首を傾げる晶彦であったが夏美が気配のする方向を問うと、右腕を2時の方向へと向ける。

全員が其方へ視線を向けるのとほぼ同時に、足元から振動が伝わってくる。

始めは、小さなものだったのが徐々に大きな地鳴りへと変わる頃には、颯達の視線の先に土煙が巻き起こっているのが見て取れた。

目を凝らしてみると、土煙を上げているのは数百体にも及ぶ魔物の群れであった。


「おぉ、団体さんだな」


「どうしましょうかコレ?」


「1逃げる、2逃げる、3戦う、4とりあえずデザートを食べる」


「晶彦君、逃げるの選択肢が二つあるで?」


「それと最後の選択肢は何?」


土煙を上げながら近づいて来ている魔物の群れを前に冗談めいた口調で話す志渡と鈴蘭、そんな二人の横で幾つかの方針を提示する晶彦であったが颯と夏美に即座にツッコまれる。


「ごめん、兄ちゃんがよく逃げるからそのノリでつい…。あと最後の選択肢は、食べながらなら良い案が思いつくかと思って」


などと悠長に会話して居る内に、魔物の群れはどんどん迫ってきている。


「とりあえず、アレを一掃するね」


「え?一掃ってどうやって?」


やれやれと首を竦めながら晶彦が言うときょとんとした顔になる颯。

颯以外は、晶彦が動いたことに盛大に溜息を吐き頭を抱え始める。


「ナウマクサンマンダボダナン・オン・インドラヤ・ソワカ!」


「またインドラかバカ野郎!!!」


晶彦が真言を唱え始めた瞬間、ツッコミを入れる志渡。

晶彦も兄の影響か術を放つ際に味方の事をあまり考えない傾向がある為、術を放った後に起こる閃光と轟音による味方への影響を少しは考えてもらいたいところである。


「天を覆いし黒雲よ、迸れ雷光よ。天より落ちるは、雷神の剣。我は請う、我は願う。幾百幾千の刃もて、我に降りかかる災いを振り払い、我が前に立ち憚る敵に等しく滅びを与えんことを!!」


詠唱を終える頃には既に志渡達は、物陰に隠れ終わり魔物達との距離は、300メートルを切ろうとしていた。


「雷術、天魔轟雷裂波斬(てんまごうらいれっぱざん)


両手で構えた薙刀の影光から稲光が迸る。

振り被った影光を気迫と共に振り払う。

振り払われた刃から幾千もの稲妻が轟音を轟かせ眼を覆いたくなる程の眩い閃光を迸らせ迫り来る魔物の群れを一掃する。その様は文字通り雷の雨の様だったと颯はこの後自身の日記に書き記すのであった。

爆発が幾重にも重なり爆音を轟かせ閃光と煙が視界を覆う。


「やったんか?」


「……………それを言った時って大概やって無いから言わないでよ」


爆音と閃光が収まると恐る恐る呟く颯に晶彦は、苦笑いを浮かべつつ苦言を呈する。

幸い、晶彦の言ったフラグ的な事は起きず迫り来る魔物の群れは全て消し飛ばすことに成功していた。


「よかった、フラグ回収に成らなくて」


「お前という奴は~!!少しは周りに配慮して術を使えバカ者がぁ!!」


怒声と共に志渡の鉄拳が晶彦の脳天に振り落とされる。

晶彦は涙目で両手で頭を押さえていると、ガシャン、ガシャンと言う金属音と共に濛々と立ち上る煙の中から颯達に接近してくる者達が現れた。

颯以外はすぐさま臨戦態勢をとり、颯もそれに倣ってガングニールを構える。


「おーおー、すげぇすげぇ。あれだけ居た魔物共があっと言う間に駆逐されちまったぜぇぃ。ギッシッシッシ」


下卑た笑い声を発しながら肩を竦めるのはギーメル・ウェルズ。肩や籠手などに鋭い突起が施された青い鎧を身に纏い一見すると騎士のような井出立ちだが騎士とは真逆の雰囲気を醸し出している。


「おいおいギーメル。いくら何でも雑魚すぎだろ。もう少しましな手駒用意しとけ、ボケ」


肩を竦めるギーメルに文句を言い放つのはプロメテ・マクスウェル。黒いマントに黒い鎧を身に纏い、肩に大鎌を担ぐその姿は死神の様にも見える。


「ギッシッシ。そいつはひでぇぜプロメテ。アレでもA級のを出したんだぜぃ?アレだけ集めるのにオレがどれだけ苦労したと思ってんだぁ?」


「二人共、その辺にしておけ。敵を前にしているんだぞ」


言い争いを始めようとするプロメテとギーメルを嗜めるのは色褪せた黄金のような色合いの鎧兜を身に纏い背に大剣を背負っている大男ザイン・ローウェンス。

ザインは二人を窘めつつもその視線は颯達を捉えており佇まいも含めて一切の隙が見受けられ無い。


「はッ。敵って腐れゾンビとガキじゃねぇか。こんな奴らに何を警戒しろっていうんだ?ザイン」


鼻で笑い飛ばすプロメテであったが次の瞬間、眩い閃光が迸りプロメテの真正面に晶彦が攻撃態勢で現れた。

両者の距離は100メートルは離れていた筈であったが目を離したほんの一瞬で間合いを詰められ懐への侵入をあっさりと許してしまった。


「雷術、雷槌(いかづち)!!」


懐に入った晶彦は、左拳に雷を纏わせ左足を踏み込むと同時に腰の捻りを加えた一撃をプロメテの腹部に放つ。

一拍遅れて爆発音が鳴り響きプロメテは、目にも止まらぬ速さで打っ飛ばされ壁に叩き付けられる。

更にプロメテを打っ飛ばした晶彦は、そのまま隣に居たギーメルへ影光を振るうが容易く躱されてしまいその隙をつくように背後からザインが背負っていた身の丈も在る大刀を抜きその凶刃を晶彦目掛けて振り下ろす。

振り下ろされた刃が晶彦を捉えようとしたその瞬間、再び閃光が迸ったかと思いきや晶彦の姿は其処には無く、初めに対峙していた場所へと戻っていた。


「すみません、仕留めそこないました」


「やるなら一声かけろ!バカ者!」


「隙だらけだったんで、つい」


「はぁ…で、お前の予想は?あいつらどれくらいあると思う?」


「恐らく、星持ちかと。けど星が幾つなのかまでは分かんない」


「そうか……………知らない事が良い事もある」


「同感です」


体勢を立て直し影光を構え直しながら相手の力量を志渡に報告する晶彦。

相手が力を押さえているので晶彦は判断しきれていなかったがザイン達三人は最低でも五ツ星級で最悪それ以上の実力を持っていると志渡は直感的に感じ取っていた。

 

「それで、この後どうします?」


「できれば捕縛と言いたいところだが星持ち三人相手では無理に等しい。だから全員、倒せなくても良いから死なないように当たれ!!」


敵から目を逸らさず指示を飛ばす志渡に颯を除く全員が各々の武器を構え戦闘態勢をとる。

颯も数秒遅れて戦闘態勢に入るも未だ戦闘馴れしていないので戦力としてはあまり期待できないのが本音である為、無理に相手を倒そうとはせず生き残ることを優先させるが相手がそれをやすやすと許容する筈も無い。


「ギッシッシ!おいおいプロメテ、何一撃でぶっ飛ばされてんだ?ギッシッシ!ダサすぎだろ!!」


「油断し過ぎだバカ者」


味方がやられたのに腹を抱えて高笑いをするギーメルと、大刀を肩に担いで溜息を漏らす。


「ギッシッシ!!さぁて、アイツらやる気だぜ?如何する?」


「俺一人で良い。ギーメル、お前はプロメテ連れて退却しろ」


「ギッシッシ!おいおい、お前一人で大丈夫か?」


「なに、お前達には、他にやって貰いたい事が有るからな。此処は俺が殿を、と思っただけだ」


「オイオイオイオイ、何かってな事ぬかしてやがんだ?アイツ等は俺の得物だぞ!!!」


雑談の様に会話するザインとギーメルに怒気を込めた声を発するのは先程打っ飛ばされて壁に埋まっていたプロメテだった。

距離が大分離れてい居たにもかかわらず一瞬のうちに二人の元へ舞い戻っているプロメテであったが、腹部に僅かばかり焦げ跡が有ることから先程の攻撃は余り効いていないようだ。


「なんだ、生きてたのかよ?くたばったのかと思ったぜ!ギッシッシッシ!!!」


「煩えぞギーメル!テメェから刻んでやろうか!!」


高笑いを続けるギーメルの首に大鎌を当て睨みつけるプロメテ。首筋に刃を当てられても高笑いを続けるギーメル。

そんな二人のやり取りを見ていたザインは溜息を一つ漏らす。

プロメテがこの状態になってしまうと、言うこと等聞かず手が付けられなくなるからだ。

先程まで、自分が足止めをする積もりでいたザインだったが他にもやる事が有りその為の手伝いとしてプロメテ達を呼びに来たので、さっさとプロメテ達を連れてこの場を離れたい気持ちが湧き上がってくる。


「……こうなっては仕方が無い。アレを使うか」


「アレを使うだと?何ふざけた事抜かしてやがる!!あいつらは俺の獲物だ!!」


「ギッシッシッシ!アレを使っちまうのか?折角良い感じのが出来たってのによぉ」


「なに、所詮使い捨ての物。また新たに造れば良いだけだ。それにやるべき事が有るから俺はお前達を呼びに来たんだ。こんな処で油を売っている暇は無い。」


ザインの言葉に異を唱えるプロメテとギーメルであったがザインの鋭い眼光に一瞬怯み口を噤む。

三人の中では、最もランクが上のザインに手を出せば自分達も只では済まないと解っているが故、この場は大人しく従うしかない為プロメテは(はらわた)が煮えくり返る程の怒りが込み上げて来るのを感じた。


「なら、一撃だ!!この一撃で始末する!!」


「仕方が無い、一撃だけだぞ?」



怒りが頂点に達したプロメテは、手に持つ大鎌をぐるりと回しエネルギーを注いでいく。

そのエネルギーの名は魔力、全世界では当たり前に存在しているエネルギー体。

この魔力が結晶化した物質が魔石であり魔物は魔石を核として体内に宿し魔獣は魔力を体内に保有している。

人間種にも魔力を保有する種族は存在するが何故か此処ジパングでは、魔力を保有している人間は少数であり霊力を保有している者が多い。

と言っても、どちらも保有していない一般人の方が大多数を占めているので普段魔力を保有する者との接触が少ない晶彦、鈴蘭、夏美の三名は普段余り馴染みが無いエネルギーに驚きを露にし颯に至っては、プロメテから放たれる殺気に恐怖し全身に鳥肌が浮かび、背中に氷を入れられたような寒気を感じ取る。

そんな若手達とは違って古参の志渡は、驚きつつも頭の中で冷静に分析を開始する。



「ちょっ!?何このエネルギー!」


「アレは…なんつう魔力だ!!桁がちげぇ!!」


「ヤバそうに感じるけど、志渡先生は笑うだけの余裕が有るんですね!!」


「んなわけあるか!!」


危機的状況にも関わらず軽口を叩く晶彦に対し手短に反論する志渡は両手で素早く印を結び術を発動させる。


「秘術!!多重羅生門(たじゅうらしょうもん)!!」


志渡が発動した術によって敵との間に巨大な鋼鉄の鬼の顔をモチーフにした門が複数出現し、壁となって立ち塞がる。


「そんな壁で、防げると思うなぁ!切刻め!大地斬り裂く凶刃(イガリマ)!」


莫大なエネルギーを自身が持つ得物に凝縮したプロメテは、颯達に向けそのその凶刃を振るいエネルギーを一気に放出

する。

放たれたエネルギーは三日月の様な刃へとなり、轟音を響かせ志渡が張った羅生門を紙きれの様に次々と木端微塵に粉砕していく。


轟音と爆音を響かせ土煙が視界を覆ったため、プロメテは、大鎌を振るい風を起こして煙を払っていく。

それに伴い視界が晴れ先程まで颯達が居た所には、志渡が展開した羅生門が瓦礫と化しており、颯達の姿は何処にも見当たらなかった。


「ケッ!他愛もねェ!」


「オイオイ、跡形も無く消し飛ばすのはやり過ぎじゃねぇのか?ギッシッシッシ!」


「はッ!この程度でくたばるなら所詮その程度だったって事だろう!陰陽寮も全然大した事ねぇしよ!!これなら俺一人で潰せるぜ?ハッハッハッハッハッ!!」


「………気は済んだか?なら行くぞ」


「へいへい」


「ギッシッシッシ!次は歯応えの有る獲物が居ると良いなぁ!!」


「……………!?二人共跳べ!」


プロメテが放った攻撃によって颯達を跡形も無く消し飛ばしたと思って居たギーメルとプロメテの二人であったがザインが発した言葉に反応するのとほぼ同時に三人の足元から

巨大な骨の手が現れ三人を捉えようと掴みかかって来たのだ。


「なっ、何だコイツ!!」


「ギシャァアア!!一体全体如何なってやがる!!」


三人の中で逸早く察知していたザインは突然襲ってきた巨大な骨の手から難無く逃げ遂せる事が出来たものの、相手を屠ったと思い込んで油断しきっていたプロメテとギーメルはいとも容易く捕まり身動きが取れなくなってしまった。


「チッ!油断し過ぎだ馬鹿者共!」


予想が的中し拘束されたプロメテとギーメルに毒ずくザイン。その背後の地面から飛び出してくる志渡は隠し持っていた軍人が使うようなナイフで急所である首を狙い奇襲をかける。

だが、その奇襲も予想の範囲内と言わんばかりにザインは担いでいた大刀で志渡の攻撃を難無く防ぎ体を捻って回し蹴りを放つが、志渡はそれを腕を曲げて防御し反撃を繰り出すもザインに躱されたり防がれた上に反撃して来た攻撃を志渡も見事な体捌きで対応していく。

アクション映画さながらの攻防が繰り広げられていたがものの1~2分程経過した頃、ザインと志渡は鍔迫り合いの状態へ縺れ込み二人の動きがそこで止まることとなった。


「やはり生きていたか……まぁ当然だ。貴様以外の連中なら兎も角、あんな単調な攻撃でやられる様なら、とうの昔に死滅している筈だからな!」


「いやいや、間一髪だったぜ?」


「星持ち、それも【八星級】の奴が何を言っている」 


「あれま、あの打ち合いでそこまで分かったのか?それとも初めから知っていたのか?まぁそんな事は如何でも良い。お前達は何者だ?此処で何をしていた?」


「答えるとでも思って居るのか?」


「全くもってこれっぽっちも思っては居ねぇよ!!」


どちらとも無く鍔迫り合いから飛退くように離れ間合いを取るザインと志渡。

志渡は両腕を軽く突き出すようにして構えているのに対し、ザインは大刀を肩に担いだ一見隙だらけのような体制をとっている。

だが、志渡はその様を見て攻めあぐねて居た。

一見隙だらけの様に見えるが隙が全く無いのだ。


「このままでは埒が明かない、時間の無駄だ。」


「そう思うなら大人しく捕まってくれねぇか?」


「そんな事言われて大人しく捕まる奴がいるのか?」


「聞いてみただけだ」


そこから二人は、再び激しい攻防戦へと突入していく。

その様子を、夏美と彦と鈴蘭は瓦礫の下に開いた穴から顔を出して眺めており、その隣では颯が諤々と震えながら頭を抱えていた。


「いや~死ぬかと思ったよね」


「うんうん、志渡先生が羅生門で壁を作って直ぐに足元を陥没させてくれていなかったら今頃どうなっていた事やら」


目を丸くし半笑いで呟く晶彦に頭を大きく上下に振りながら同意を示す鈴蘭。

そんな二人を苦笑いを浮かべながら夏美は「この子達は、さっきのアレをちょっと驚いた程度で流せるなんて…随分肝が据わってるわね…」

等と心の中でそっと呟きつつも志渡の闘いに意識を向けながら怯えている颯に声を掛ける。


「大丈夫?颯さん」


「な、な、何なんですか!あのでっかい骸骨!相手が攻撃してきてやられる思うたら行き成り足元が崩れて頭の上を敵の放った攻撃がと通り過ぎたかと思えば今度はでっかい骸骨が出てきて!!しかもあの骸骨!よく見たらごっつ沢山の骨が集まって形を形成しとるしもう分け分からんわ!!!」


眼から滝の様に涙を流し夏美に縋りつく颯。

こう見えて颯は幽霊や妖怪といった類いのモノが少々苦手であり陰陽寮に入ってからそう言うモノと触れ合う機会が増えたし毎日死にそうになる位の厳しい訓練も受けている為、苦手意識は薄らいできたのだが、ザインと志渡の戦闘によって発せられる膨大な霊力の波動を諸に受けてしまい、実のところ正気を保っているのがやっとな状況である。


(常人なら気を失ったり発狂したりする程の霊力の波動をこれだけ受けてこの程度で済んでるって颯ちゃん肝が据わってるわね……やっぱり聖遺物の適合者ってだけの事はあるのかしら?それとも、ただ鈍いだけ?ちょっと判断が付きにくい怯え方なのよねえ)


颯に縋りつかれた夏美は、心の中で颯の評価を改めていた丁度その時、志渡と戦闘を繰り広げていたザインが攻防の間の僅かな隙をついて巨大な骸骨の手に攻撃を加え拘束されたプロメテとギーメルを開放したのだった。


「ギッシッシ、恩に着るぜ」


「全く…手間を掛けさせる奴らだ」


「余計な真似を…!あんな拘束、如何とでもできたんだ!」


「五分以上拘束されて吠えるな、戯けが」


「んだとテメェ!もう一度言ってみろ!!」


「貴様と口論している時間は無い。そう言うわけで、一度引かせてもらうとしよう」


「逃がすと思ってんのか?」


「思って居ないさ」


プロメテ達の拘束を解いたザインは、怒り心頭のプロメテをよそに志渡に対し撤退の意思を示す。

しかし、当然の事ながら志渡は逃がすつもりは無い。

けれども戦力差を鑑みると捕縛するのは難しい所である。

その事を口には出さないが見透かして居る様な眼差しを向けるザインに志渡は、奥歯をぐっと噛み締めナイフを握る手に力を籠める。


「だから此奴は置き土産だ…召喚!!ヴェルデヴィオランテ」


ザインは何処からとも無く取り出した拳大の黒い結晶体を志渡達に向け投げつける。

空中に投げ出された結晶物は禍々しい光を放ち、次の瞬間には

(ワニ)のような大口を備えた大木の様な本体の周りに触手のようなツタが無数に伸び、その先端には、ハエトリ草と同じ形をした物が備えられた禍々しいオーラを放つ植物型の怪物が颯達の眼前に姿を現すのであった。


「GAAAAAAAAAA!!!!」


「今日の所は、これにて失礼する。次に会う機会があればその時に決着でもつけるとしよう。まぁ、此奴に殺されなければの話だがな」


そう捨て台詞を残し、ザイン達三名は足元に展開した転移用魔法陣によって何処かへ姿をくらませるのであった。

志渡はザイン達を追うとするも、ハエトリソウの様な触手が行く手を阻み、ザイン達を取り逃がしてしまう。


「くそっ!逃げられたか」


「志渡先生、これ如何します?」


「如何するも何も無いだろ晶彦。こんなのが地上に出て人を襲う様になったら手が付けられなくなっちまうだろ!!」


「という事は、つまり」


「此処で駆逐するって事だ!!」


「ですよねぇ!」


期待半分、諦め半分で志渡に聴いた晶彦だったが返ってきたのは予想通りの答えで半分やけくそ気味にテンションが上がっていく晶彦。

そんな晶彦を少し落ち着かせようと鈴蘭は、晶彦の肩にそっと手を乗せドードーと興奮している馬を宥める様に低い声を出す。

颯も晶彦に負けず劣らずといった感じでやけくそ気味になって半ベソを掻きながらキレるという妙なテンションにまで登り始めている。


「もうここまで来たら化け物退治でも何でもやってやるわぼけぇ!!」


眼から涙を流して切れる颯の叫び声が遺跡内部に響き渡り、その叫びを合図に戦いの火蓋が切って落とされるのであった。


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