水面に生ずる波紋の如く その参
此処ジパングには大小様々な遺跡が数多く発見されている。海の底から山の洞窟など場所やその規模はもちろんその遺跡が出来た理由も様々だ。
自然が作り出した偶然の産物だったり、人が暮らす街だったり、中には昔の人には手に負えない化け物や呪具等を封じるために造られた物だったりと多種多様なものがある。
そんな数多くの遺跡の中では最近発見された地上から数キロに亘り地下へと広がる大きな古代遺跡。
人間以外の気配が全く無いこの地下空洞に、プロメテ・マクスウェル、ギーメル・ウェルズと数人の男達が足を踏み入れていた。
「おい、見つかったか?」
「駄目だな。何処を堀返してもガラクタしかねぇ」
地面に埋もれていた陶器の欠片を拾いながらプロメテは近くに居たギーメルに問いを投げる。
しかし返って来たのは、目的の物が見つからなかったという彼等にとっては少々残念な答えにプロメテは盛大に舌打ちをする。
「チッ。外れだったか…?まぁいい他を当たるだけだ。おいお前等!ずらかるぞ、さっさと準備しろぉ!!」
地下空洞内にプロメテの怒声が響き渡る。
すると命令された男達の内一人が慌てたように抗議の声を上げる。
「ま、待ってくれよ!少し休ませてくれ!!」
詰め寄った男を鬱陶しい羽虫を見るような目で睨みながらプロメテは、盛大に溜息を吐く。
「あぁ?」
「お、俺達もう三日も飲まず食わずであんたらの探し物を手伝わされてるんだ!今にも倒れそうな奴等だっている。せめて水だけでも―――」
男が尚もプロメテに抗議していたがその声は途中で途切れてしまう。
その理由は、プロメテが一体何処から持ち出したんだ、と言いたくなる様な大鎌を振るい、男の首を斬り飛ばしたからだ。
噴水の様に盛大に血をぶちまけながら男の体はどしゃりと音を立てて自らの血で出来た血だまりに倒れ伏す。
二メートル弱もある長柄の先に死神が使うような大きな鎌とその反対側に斧を備えた少々歪な大鎌を振るい刃に付いた血を払い落した後、肩に担ぎながらプロメテは、他の男たちの方へ向き直る。
「あぁ、そうかそうか。お前らもう動けないかぁ。そんなに休憩が欲しいかぁ」
男達に向き直ったプロメテの顔は、とびっきりの笑顔を張り付けていたがプロメテの全身から禍々しくどす黒いオーラが立ち上っているのをその場に居た男達全員が目の当たりにした。
そんな様子を壁に寄りかかりながら楽しそうに眺めているギーメル。
プロメテを止める処か邪魔にならないよう少し離れ、くつくつと笑っている。
「わ、わかった!いい言う通りにする!!おお、お、お願いだから、命だけは!!」
プロメテから一番近くに居た男が両膝をついて地面に頭をぶつける勢いで下げ、涙ながらに懇願する。
それを合図に他の男達も同じ様に両手両膝を地面に付けて頭を地面に擦り付ける。
全身をがくがくと震えさせ目に涙を溜めながら必死に懇願をする男達。
しかし、そんないち彼等をプロメテは嘲笑うかのように一番近くに居た男の後頭部を踏みつけるとシャリと音が地下空洞内に響き渡る。
踏みつけられた男の頭部は生卵を叩き割ったように中身をぶちまけ、血溜まりを作り上げる。
「カス共が、誰に口答えしてやがるんだ?あぁ?」
怒りと増悪を滲ませた声音で問いかけるプロメテ。
頭を踏み潰した男の直ぐ傍に居た別の男の髪を鷲掴みにして
自分の目の前まで持ち上げた後数回その場で回転し遠心力をたっぷりと乗せて壁に叩き付ける。
「人間風情が!!口答えしないで黙って従ってりゃ良いものを、調子に乗ってんじゃねぇぞゴラァ!!」
壁に叩き付けられた男は真赤な血と臓物をぶちまけ息絶える。そこからはプロメテによる一方的な虐殺が始まった。
ある者は細切れにされ、又ある者は壁や天井や地面に赤い染みを作り、又ある者は隠し持っていた武器で抵抗するもそんな物は意に介さないとでも言う様に全く歯が立たず瞬く間に惨殺されてしまう。
五分も掛けずに男達を皆殺ししてしまったプロメテにギーメルは呆れ半分に声を掛ける。
「おいおい、せっかくの手駒を雑に扱うな。また用意しなきゃならねぇじゃねえか」
「ハッ。こんなカス共、幾らでも補充が利くだろが。つうか、こいつらお前が用意した奴じゃねえだろ?」
「まぁな。それに使い潰しても其処らへんに腐る程居るからな。それより、コレの後始末どうすんだよ」
「それなら心配無い。こいつを使う」
ギーメルの質問に対しプロメテは野球ボール程の大きさの黒い石を取り出し男達の死体に放り投げる。
すると、黒い石がドクンと脈打つように震え死体から流れ出る血を吸い込み始めてしまう。
更に黒い石は心臓の鼓動の様にドクン、ドクン、と一定の間隔で脈動する。
そして、脈動する黒い石からドロドロと濃い紫色の粘性の強い液状の物が流れ出し男達の最早残骸とも言うべき肉塊や肉片を飲み込んでいく。
「おいおい、それってまさかコアか?」
「ああそうだ。こんな小さいのじゃカスみたいな魔物しかできねぇがファティマのバカが陰陽寮の奴等に負けたせいで手駒が潰されちまったからな。その代わりを補充しなきゃならねぇから丁度良いだろ」
ギーメルとプロメテがそんな会話をしているとドロドロした紫色の液体が植物の根の様に地下空洞内に広がり始める。
とそこへ鎧兜を身に纏い背中に身の丈程も在る大剣を背負っ
た男、ザイン・ローウェンスが二人の前に姿を現した。
「プロメテ、ギーメル。そっちは見つかったか…って何だこの状況は?」
地下空洞に姿を現したザインは、空洞内の惨状を目の当たりにして怪訝そうに眉を寄せ状況を確認しようとギーメル達に視線を向けるもギーメルは両手を揚げ肩を竦ませながら溜息を吐き、プロメテは大鎌を肩に担ぎ鼻を鳴らす。
二人の様子を見たザインは、もう一度周りに目を向けると自分達が連れて来た男達の姿が無い事に気が付き右手で目元を覆いながら盛大に溜息を吐く。
「成る程。大体察しは付いたが…プロメテ、以前ファティマが街を襲った時、俺が迎えに行くついでにせっかく使えそうな奴を捕まえて来たってのに無駄遣いすんじゃねぇよ」
「んだよザイン。固ぇこと言うなよ。人間と言うカス共なんて幾らでもいるんだ。また補充すれば良いだろ?」
「はぁ……それで、目的のアヴェスターの紙片が見つからなかったからと言って八つ当たりで殺してしまったのか?全くお前と言うやつは。」
呆れついでにもう一度盛大に溜息を吐くザイン。
「ま、二~三日したら手駒に成りそうな奴を拾ってくれば何も問題ない。ダンジョンの魔物を欲しがる奴もいるしな」
「……そうだな。手札を増やして戦略の幅を広げるのは、吝かでは無い。だが、俺達の目的を忘れるなよ?」
「クックック。ザイン、貴様に言われるまでも無い。多少の違いは在れど行き付く処は同じだからなぁ。」
クツクツと笑うプロメテに同調する様にギーメルも笑みを浮かべる。そうこうして居る内にダンジョンコアから流れ出る紫の液体は植物の根となって遺跡を侵食していく。
「ところでザイン、オメェは目的の物は見つかったのか?」
「残念だが見つから無かった。だが代わりに良いものを見つけた」
「あぁん?良い物?」
「ファティマが手に入れ損ねた物の所有者が、この近くに向って来ている。等と言ったら?」
「クハハハハハ!!マジかよ!?探す手間が省けたぜ」
「まさか向こうから来るとはファティマの奴が知ったらどんな顔をするか…クククク!!」
遺跡の外の情報をザインが告げるとプロメテは手で目元を覆いながら盛大に歓喜の声を上げる。
ケタケタと嗤うプロメテと一緒にギーメルはファティマの悔しがる様子を想像しながらクツクツと嗤う。
「それで、如何する?俺が行っても良いが?」
「おいおい、ザイン。テメェは前回返り討ちに合ったんだろ?」
「前回は、ファティマを拾いに行っただけで奴らを始末する事が目的では無い。撤退を前提としているのに手の内を見せる愚は犯していないつもりだが?」
「手の内は見せていない、か。だが、今回お前の出番は無い。」
「ほぉ~。なら今回は貴様ら二人が奴等と対峙すると?」
「まぁ、それも良いが……せっかくコアまで使ってこの遺跡をダンジョン化しているんだ。奴等がどの程度の実力なのか試させて貰おうじゃねぇか!」
「…………先程、ダンジョンの魔物で此方の戦力を補充すると言っていた気がしたが?」
「細けぇ事気にすんなよ。てか戦力の補充なら他にも方法があるし、丁度テストをしてみたいと思って居た物も在るし都合が良いんだよ」
「そうか。なら今回は其方に譲ろう。俺は一足先に中華連に行って奴隷でも手に入れておくとしよう。一応言っておくが、深追いは禁物だ」
「ハンッ!誰に物言ってんだよ!俺様が人間に後れを取るなんてねぇよ!」
「………そうか。また後でな」
ザインは足元に転移する為の魔方陣を展開しプロメテとギーメルの前から姿を消す。
残されたギーメルとプロメテはコアにダンジョンを構築させながら獲物が来るのを待つのであった。
◆ ◆ ◆
「むぅ~・・・・・・・!!」
神無に頼まれた遺跡の調査の為現場へと晶彦の使役する式の妖牛車に乗って移動する晶彦、夏美、颯、鈴蘭。そして引率役をかって出てくれた陰陽博士の富士野志渡を加えた五名は、妖牛車に揺られながらあまり整備されておらず地面が剥き出しになっている道をガラガラと音を立てて進んでいた。
「ねぇ、晶彦。そろそろ機嫌直したら?」
晶彦の隣にちょこんと座った鈴蘭が晶彦にリンゴ飴を一本渡しながら訪ねる。
晶彦は、差し出されたリンゴ飴を奪い取るかのように乱雑に受け取りバリボリと豪快な音を響かせながら噛り付き「ふんっ!!」と、とても機嫌悪そうに鼻を鳴らす。
出かける前に夏美に大嫌いな風呂に強制的に連れられもみくちゃに洗われてしまった晶彦は、体は奇麗になったが気分はどす黒く染まってしまい、現在もどす黒いオーラが全身から立ち上り炎の様に揺らめいていた。
鈴蘭はバリボリと音を立てながらリンゴ飴を食べる晶彦に(リンゴ飴ってそんな風に食べない)等と心の中でツッコミを入れつつ盛大に溜息を吐いた。
そんな二人が座る真向かいで申し訳なさ半分折角洗ってあげたのに怒らなくても良いじゃ無いかという気持ちが入り混じったような笑みを浮かべる夏美は鈴蘭と同じようにお菓子をあげて機嫌を取ろうとするも、猛犬の様に威嚇された為、しぶしぶ引き下がり大人しくする事にした。
そんな険悪な空気の漂う中で颯は、志渡と再び会いまみえることに成った為、改めて挨拶と自己紹介を交わす。
「やぁ、まさかあの時の嬢ちゃんと一緒とはなぁ」
「いやいや、うちもびっくりですわ。あの時のゾンビさんがまさか陰陽寮の幹部さんだったとは。後で聞いた時そらもうたまげましたよ」
「まぁ、こんな姿だから初見の人は、大概気絶するか、悲鳴上げて逃げるか、武器を構えるかのどれかだからな。はっはっは」
「というか一番驚いたのは、腐敗臭どころかラベンダーみたいな香りがするってことですよ」
「はっはっは、そっちかよ。まぁ生前は匂いだけで無く、身だしなみには気を使ってたからな。」
「そうなんですか?」
「あぁ。実はこう見えて生前は学校の先生だったんだぞ」
「え!?ほんまですか!?」
「おうとも。だから学校の勉強で分からない事が有れば聞いてくれて構わないぞ。序でに陰陽術を始めとする魔術関連の事なんかも聞いてくれて構わないぞ」
「有り難うございます。ほなら、さっそく質問なんですけど陰陽師と魔術師の違いって何なんです?」
「おう、良い質問だね。基本的にはやっていることに関しては大した違いはないよ。魔物や妖怪などを退治、又は使役したり、傷を癒したり、吉凶や未来を占ったりとするのは古今東西の魔法技術には大きな差は無い。大きな違いが在るとすれば、術を行使するときのエネルギーが違うくらいかな?」
「エネルギー…ですか?」
「俺もそうだが陰陽師を含む霊能者っていうのは、術を行使するときに霊力というエネルギーを使う、対して魔女とか聖女とか魔法使いや魔術師っていうのは、魔力というエネルギーを使うんだ。」
「あぁそれなら前に夏美さんに聴いたかもです。というか、その霊力と魔力って何が違うんです?」
「魔力は大気や大地などに含まれている魔素を体内に取り込むことによって生み出される。それに対し霊力は魔素では無く、霊子を取り込む事によって生み出されたエネルギーを指すんだ。因みに、霊力を自身の肉体に蓄えて置けるエネルギー量を霊力量と言って此れの限界値は修行次第で底上げする事が可能だ。」
「ほぉ~成る程…」
志渡の説明に颯が理解を示した丁度その時、乗っていた妖牛車が突然停止したのだった。
「ん?どうしたんだ?」
「この先に複数の魔獣の反応が在るらしいんですけどどうします?」
志渡の問いかけに鈴蘭が状況を報告するもその声音には、まったく緊張感が無く、それどころか笑みを浮かべて何やら楽しい事が待っているかのようにワクワクしていた。
何故そんなに楽しそうなのかと疑問に思っている颯とは対照的に夏美は、右手で頭を抱えて深々と溜息をついていた。
「志渡先生!行って来て良い?良いですよね!?」
「わかったわかった。でも今回は討伐が目的じゃ無いから逃げた奴を追って遠くに行くんじゃねぇぞ」
「はぁ~い!」
嬉しそうに燥ぐ子供の如く志渡に問いかける鈴蘭に志渡は手のひらをひらひらと降って許可を出す。
すると、待ってましたと言わんばかりに鈴蘭は晶彦の腕を引っ掴み、撃ち出された弾丸の如く飛び出していくのであった。
「………良いんですかアレ?」
「鈴蘭は、彼奴の兄や姉程では無いが、ああ見えて戦闘好きでな。ああなったら下手に止めない方が良いんだ」
「そ、そうなんですか……」
「それに、上手く行けば晶彦のストレス発散にもなるし魔物の間引きにもなる。一石二鳥ってやつだ」
「あの子達だけで危なくないですか?」
「その辺は心配しなくても大丈夫だ。それより、巻き込まれないように守護の結界を張っておかねば」
そう言いながら志渡は、妖牛車を囲む様に防御用の結界を張る。
結界を張り終えると数キロ離れた遠くの方でドーンと轟音が鳴り響き真っ黒な煙が立ち上る。
外が気になる颯であったがどんなに目を凝らしても遠すぎて影も形も見えはしない。
そんな颯に志渡は何処から取り出したかは定かでは無いが何故か持っていた双眼鏡を颯に差し出す。
色々とツッコミたい気持ちをこらえつつ双眼鏡を受け取った颯は、それを使い飛び出していった晶彦と鈴蘭の闘いぶりを除くのであった。
◆ ◆ ◆
「……………」
鉄砲玉の様に飛び出していった鈴蘭に引き摺られる晶彦は、先程よりも二割増しに不機嫌になっていく。
「晶彦~そろそろ機嫌直しなよ~」
「…………」
鈴蘭が声を掛けるも遠くを睨むだけで返事は無くそんな晶彦に鈴蘭は、そっと溜息を吐く。
鈴蘭の実の兄である一真程では無いが晶彦は一度拗ねたり機嫌を悪くするとその状態が長期化してしまう事が有る。
一真や彼の兄である隆浩の様にキレて暴れて色々な物を破壊しないだけマシではあるので被害は無いに等しいが、さて如何したものかと思ったところでちょうど視界に魔獣を視認するのであった。
現れたのは、体長3メートル、体高1.7メートル程の大きな猪型の魔獣――《魔獣界、脊椎魔獣門、哺乳獣綱、鯨偶蹄目、魔獣科、猪亜族、種名・ワイルドボア》――が30頭程の群れを成して何かを食べている最中だった。
二人は、近くに在った大きな岩の陰に隠れ様子を覗う事にした。
懐に忍ばせていた双眼鏡で様子を覗うと、猪型の魔物が食べているのは如何やら鹿のようだ。
「ねぇ、晶彦。猪って肉食だったっけ?」
「ゴーグル先生によると……基本的に木の実とか畑の作物を食べるけどミミズや沢蟹や蛇なんかも食べるから雑食なんじゃない?あ、小鳥や鹿の死骸も食べるって」
「マジで!?死骸食うんだ。知らなかったぁ………」
携帯端末で猪の生体について検索した晶彦が鈴蘭の質問に不機嫌ながらも淡々と答えると鈴蘭は驚愕の色を浮かべ思わず大きな声をあげてしまったが、幸いな事にワイルドボア達は死骸を食べるのに夢中であった為二人には気が付いていないようだ。
「それじゃあ行くわよ、晶彦」
「ヤダ」
「じゃぁ先ずは私から…って、嫌だ!?I・YA・DA!?」
「断固ヤダ」
「断固ヤダ!?何故に!?」
「今そんな気分じゃない」
「気分!?気持ちの問題なの!?今朝の事まだ根に持ってたの!?どれだけ風呂に入れられるの嫌いなのよ!!と言うか何時まで拗ねてるのよ!!」
「ふん!めんどくさいからどうぞ一人で勝手にやって来てください」
そう言って晶彦は鈴蘭に背中を向けるようにしてその場でふて寝を決め込んでしまう。
そんな晶彦の態度に鈴蘭は動揺しまくりつつも何とか機嫌を直してもらおうと説得を試みることにした。
「確かに嫌がってたのを無理やりやったのは夏美さんが100%悪いけど、出発の時に夏美さんも謝ってくれてたでしょ?」
「……………」
「だいたいさぁ、女子風呂に入ったって隆浩さんが聞いたら血涙流して羨ましがると思うのに」
「男湯だろうが女湯だろうが僕にとっては同じ風呂でありそれ以上でも以下でも無いし、嫌いなものは嫌いなの!」
「嫌いって…そんな、お兄ちゃんが茸嫌いなのと同じ感じで言わないでよ」
「人間誰しも苦手な物の一つや二つは在るって兄ちゃんと一真兄ちゃんも言ってたもん」
「それはそうだけどさぁ…でも良いの?私がアレを一人で退治したら素材も核も肉も私のになっちゃうけど?」
「(ピク)…………………」
「アレ、魔獣だけど食べられる奴だし、結構美味しいらしいけど……要らないなら寝てて良いけど?」
「あぁもお!!やれば良いんでしょやれば!!その代り、肉は全部貰うからね!!影光、起動!」
鈴蘭の言葉に苛立たし気に起き上がり、吐き捨てるように言葉を紡ぐ晶彦は、自身の首から下げている白い勾玉状態の影光に霊力を込め薙刀へと変貌させ岩陰から飛び出しワイルドボアの群れへと向かうのであった。
「ちょろいなぁ晶彦も。さてと、私もいっきますかぁ♪ぶっ飛ばせ!ディアプトラ!!」
鈴蘭も懐からオレンジ色の宝石の付いたネックレスを取り出し宝石に霊力を込める。
すると宝石は、眩い光を放ち瞬く間に籠手へと変わり鈴蘭の両手に装着される。
ガントレットを装着した鈴蘭は懐から式神を呼ぶ為の呪符を取り出し自身の使役している鉄砲魚の精霊を召喚する。
「おいで、ラピス!そして霊装憑依!!」
鈴蘭は召喚した鉄砲魚の精霊・ラピスを自身の右腕に装着したディアプトラへと憑依させ6mm口径の銃口が二門備わった変則的な籠手を新たに作り出す。
「ターゲット、ロックオン!!いっけぇ!!」
二門の銃口から断続的に撃ち出された銃弾は突撃していった晶彦に気が付いた魔獣達の内、一頭の脳天を撃ち抜きその息の根を止める。
それを合図に戦いの火蓋が切って落とされたのだった。
◆ ◆ ◆
晶彦と鈴蘭の繰り広げる戦闘を双眼鏡で眺めていた颯は、若干引き攣った笑みを浮かべていた。
まだ十歳に成ったばかりの少年少女が自分よりも遥かに大きい猪の魔獣・ワイルドボアの群れを苦も無く次々に倒しているその光景が現実として未だ信じられないのだ。
「うっわぁ~…………あの子らってホンマに人間なんか?」
「体の構造も遺伝子も分類学的に人間である事は間違いないな」
颯がドン引きしながら思わず漏れ出た言葉に丁寧にも答えてくれる志渡は持ってきていた水筒からお茶を注いで呑気にくつろいでいた。
そんなこんなで10分少々の時間が経過した頃に漸く戦闘が終わりワイルドボアの群れは一匹残らず狩りつくされたのだった。
因みに爆音を轟かせるほどの戦闘を行っていたのに晶彦と鈴蘭は掠り傷一つ付いていない事に颯は再度驚かされることに成った。
さて、少々寄り道をしつつ、一行は目的の遺跡入口に到着した。
「そういえば、すんごい今更やけど、遺跡の調査って何するん?」
「そうだな…取り敢えず中に入って地図を作ったりお宝なんかの出土品を持ち帰ったり遺跡内の魔獣や魔物の退治なんかだな」
「え?魔物出るん?」
「稀に出るぞ。遺跡内に住み着いた魔獣を駆除しないで放っておくと魔獣が発する魔力の影響を受け遺跡がダンジョン化する事もある。ダンジョン化すると元々いた魔物はダンジョンコアと呼ばれる核となり、遺跡そのものが魔物を生み出すようになってしまう。すると遺跡から魔物がわんさか溢れ出て遺跡周辺の生物を食らいダンジョンへエネルギーを供給し始める。そして、最終的に生態系を壊し近隣の村や町を襲うようになる」
「そうなってしまったらどうするんですか?」
「ダンジョン化した遺跡内のダンジョンコアを破壊すれば元の遺跡に戻ったりするが、まぁそんな事めったにないから心配すんな!アッハッハッハ」
からからと笑う志渡を筆頭に遺跡内へと進んでいく颯達一行。
しかしこの時、颯はほんの僅かであるが言葉では言い表せない不安を抱いていた。
けれども自分一人では無いしワイルドボアを狩りつくした晶彦と鈴蘭もいるし志渡と夏美も側にいる。
きっと何があっても大丈夫であろうと不安を振り払う様に颯は心の中で自身にそう言い聞かせるのであった。
「因みに、魔物はダンジョンで生み出されたモノや異界から召喚されたモノを言いこれらは繁殖能力は無く、死ぬと魔石と呼ばれる物と稀に角や骨や皮といった物、これらを総じて【落とし物】呼ばれる物を残し灰に成る。対して魔獣は、野生動物の中で何らかの方法で魔石を大量に体内に取り込んだり魔力溜まりや霊脈の影響を受けてしまった為に突然変異した生き物を言う。魔物と違い繁殖能力を持ち死んでも灰には成らない為多くの素材を手に入れられる事が出来る」
「へぇーそうなんかぁ…。あ、そうだ。二人が使ってたのは使い魔?」
「そうですね。厳密には式って言いますが使い魔で間違ってないですね。さっきの戦闘で私が使ってたのは鉄砲魚の精霊で名前がラピスって言います。あと、さっきの戦闘では使いませんでしたけど火猫精霊のスピネルって子もいます」
志渡の丁寧な説明にとても感心する颯だったが先の戦闘で鈴蘭が使用していた魔獣とも魔物とも違うモノに興味がわいて鈴蘭に尋ねる。
鈴蘭が答えると肩に火が灯りとても可愛らしい子猫が現れた。
夕陽のような真っ赤な毛並みに首と足回り、そして尻尾に炎を纏ったそれは小さいながらも頼もしさを感じさせてくれる。
「みゃぁ?みゃぁ♪」
鈴蘭の肩で「呼んだ?」とでも言う様に小首を傾げる火猫の精霊ことスピネルは、鈴蘭に撫でなれ可愛らしい声を発する。
炎さえ纏っていなければ何処から如何見ても只の赤毛の子猫である。
「わぁ可愛い!!なぁ、ちょこっとだけ撫でて良い?」
「良いですけど、この子ちょっと人見知りするんで気を付けてくださいね」
鈴蘭の忠告とは裏腹に颯が差し出した手の匂いを嗅いだスピネルはちろっと颯の指先を舐める。
その様は可愛い以外の言葉など不要とでも言わんばかりに颯は大喜びし、頭や首回りなどをやさしく撫でまわすのであった。
そんな感じにわいわいきゃっきゃしつつ遺跡内部を進む一行は、微かに聞こえた物音に警戒態勢をとる。
「今、何か聞こえたか?」
「気のせいであって欲しいですね」
反響しているせいか何処から聞こえてくるのか正確な距離は分からないまでも志渡が大まかな方角は把握する事が出来た為、志渡を先頭に慎重に進んでいく。
しかし、進めど進めど其れらしき物は発見出来ず、そのまま奥へ奥へ進んで行くと天井が高く反対側の壁まで数百メートルは在ろうかという広い空間に辿り着いた。
「………何も、居ない?」
「さっき聞こえたのは、空耳だったってこと?」
「…………………………………」
何も起こらないことに徐々に警戒を解いていく一行であったが、晶彦だけは手に持つ得物である薙刀、影光を握る手に力が入っていく。
晶彦の額から頬へと大粒の冷や汗が滑り落ち、首筋を氷塊が触れたような悪寒を感じ取った正にその時であった。
「………………来る!」
晶彦が普段は発しない程のどすの効いた声音で呟いた瞬間、遺跡の壁から、天井から、地面からガラガラと音を立てながら異形の者達が姿を現したのである。
「嘘でしょ!?」
「なんでこんな…此処って只の遺跡だった筈だろ!」
颯達の前に姿を現したのは、緑と黄色の斑模様に頭部に人の手より大きな鋭い角を一本備えた1メートル程の大きさの巨大な芋虫の魔物であった。
困惑する夏美、突然の事態に戸惑いと焦りの入り混じった声を発する志渡。そんな二人とは対照的に動き出していた者達が居た。一人は魔物の気配を逸早く察知していた晶彦。
もう一人は意外な事に颯であった。
魔物達が地面や天井から姿を現そうとしていた時には晶彦が既に動き出した後でそれから僅か2秒程遅れて颯も晶彦を追う様に駆け出していた。
颯は駆け出すと同時に首から下げていた剣十字のペンダントにしていたガングニールを十字槍へと変え、近づいた端から斬り伏せて行く。
動きも槍捌きもまだまだ未熟ではあるものの後ろに目があるのではと疑いたくなる程に背後からの攻撃も回避してみせるその様は驚嘆に値する。
つい最近まで戦いとは無縁の生活を送っていた彼女が僅か半月も経たぬ内に此処までの成長をする事が出来たのは、陰陽寮で毎日行っていた【訓練】という名の【虐め】が原因だろう。
毎日の訓練で颯は主に術による【攻撃】でも【防御】でもなく唯々【攻撃から避ける】事のみを叩きこまれてきた。
時折反撃にうって見せる事もあるが実力差は歴然。当たったとしても決め手に欠けることが多かった。なので本当に死に掛けた事等数えるのも忘れるくらい死にそうになりながらも颯は今日まで無事に生き延びる事が出来た。
その御蔭で颯は、回避だけは陰陽寮で随一と謳われている隆浩から太鼓判を押される程度くらいまでは何とかモノにする事が出来たのであったのだが―――。
「あっぶな!やっぱりこの数は無理や!!」
攻撃に関しては棒振り槍術も良いところである為、近接戦闘は赤点すれすれである。その為颯は、芋虫の魔物を五匹程屠った後、180度反転し一目散に撤退するのであった。
「はぁ…はぁ…やっぱ無理はするもんやないな!」
「何で近接戦闘からっきしダメなのに飛び出していったんですか!?」
「いやぁ、うちより年下の子が頑張ってるのに後ろで援護だけっちゅうのは如何かと思うて、訓練もしてもろうたしいけるかなぁと」
「まぁ、不意討ちとは言え君の技量でこの魔物を五体倒せたのは上々と言えるだろう。」
「でも、まだまだいっぱい出てきますよ」
「モンスターハウスか?此処」
どんどん増える芋虫の魔物に少しずつ焦り始める鈴蘭をよそに至って冷静な夏美と志渡。
そんな二人の傍らで息を整えた颯は拳大の光の球体を6つ生み出し芋虫が密集している所へ撃ち込んだ。
光弾が撃ち込まれた芋虫は、ブクブクと膨らんでいき風船のように破裂し爆発した。
そんな予想に反してえげつない攻撃をしている颯に夏美は若干顔を引き攣らせつつも颯に負けじと愛刀にして妖刀の雪羅の能力を発動する。
「凍てつけ、雪羅!!」
気合を込めながら振るわれた刀身が芋虫の胴を斬り裂く。
斬り裂かれた芋虫は傷口からパキパキと音を立てながらあっという間に氷漬けにされていく。
この現象は夏美の持つ妖刀、雪羅の能力によるもので斬った対象を凍らせたり刀を中心に半径500メートルの大気中及び地中の水分を凍らせてそれを操れるという名前の通り氷雪系と呼ばれる妖刀なのである。
「はぁああ!!」
夏美が切先を突き出せば円錐状の氷が槍のように芋虫の体に突き刺さり、刀を振るえば三日月上の薄く研ぎ澄まされた氷が芋虫達を両断する。
更に夏美に後れを取るまいと鈴蘭もディアプトラを起動させ
スピネルを憑依させる。
ガントレットであったディアプトラは憑依させたスピネルによって炎を発し、指先に鋭い紅蓮の鉤爪を備え、更に鈴蘭の頭部に紅い猫耳とお尻から炎の様に燃える長い尻尾が生えた姿へと変貌を遂げる。
炎を纏った猫娘の様なその姿は、可愛らしくもあるが見かけに騙されてはいけない。
鈴蘭は身体を低くしながら猛然と駆け出し芋虫との間合いを一気に詰める。
「必殺!猫正拳」
間合いを詰めた鈴蘭は、気合と共に両手の鉤爪で芋虫の胴体を引き裂いていく。
「ってパンチじゃ無いんかい!!」
等という颯のツッコミをよそに引き裂かれた芋虫の体に刻まれた爪痕からは轟々と勢い良く炎が噴き出しあっと言う間に芋虫を燃え散らしていく。
そんな派手な攻撃が繰り広げられている中で志渡は素手で地味に殴り殺していく。
しかし殺せども殺せども次々に湧いてくる芋虫の大群に誰もがうんざりし始めた頃、晶彦の貯まりに貯まったストレスが此処にきてとうとう爆発してしまった。
「鬱陶しいんだよ!!この虫けら共がァァァァァ!!!」
怒りに満ちた怒声をぶちまけ乍ら影光を振るい自身の周りに群がっていた芋虫達を蹴散らした後、晶彦は影光の石突を下にして地面に突き立て両手を合わせ真言を唱え始める。
「ナウマクサンマンダボダナン・オン・インドラヤ・ソワカ!」
「おまっ馬鹿野郎!こんな所で何ぶっ放す気だ!!全員速やかに退避!!」
晶彦が唱え始めた真言から晶彦が放とうとする術を予測した志渡が慌てて指示を飛ばす。
颯だけは今一何が何だか理解できていないが夏美に曳かれる様にその場を後にする。
「天を覆いし黒雲よ、迸れ雷光よ。天より落ちるは雷神の剣。我は請う、我は願う。幾百幾千の刃もて我に降りかかる災いを振り払い、我が前に立ちはだかる敵に等しく滅びを与えんことを!!」
颯達が避難し始める頃には、怒りと憎しみがこれでもかと込められた祝詞を唱える晶彦。
最早祝詞では無く呪歌では無いかと疑いたくなる程で、それによって禍々しい霊力が晶彦の体から溢れ出る。
どす黒い霊力と共にバチバチと稲光が迸り近づいていた芋虫達を時折感電死させて行く。
「雷術、天魔轟雷裂波斬!!」
祝詞を唱え終えた晶彦は地面に突き立てていた影光を引き抜き刀身に霊力を込める。
影光に込められた膨大な量の霊力が雷となって迸る。
目も眩む程の閃光と耳を塞ぎたくなる雷鳴が地下空洞内に鳴り響く中、晶彦は気合いと共に上段から袈裟斬りに振り下ろし迸る雷を幾重にも連なる斬撃へと変化させ眼の前の敵の一切合切を薙ぎ払っていく。
轟音と爆発を響かせ、地面を抉り、壁を破壊し、天井を穿ち崩落を引き起こす。
放たれた雷の刃の餌食となった芋虫の魔物はその身を黒く染め揚げ文字通りの消し炭となり、運良く雷の刃から逃れられても爆発の余波や天井の崩落によって岩や瓦礫の下敷きとなり命を落としていく。
閃光と爆発が収まり一時避難していた志渡達がそっと覗くと
天井は崩れ去り、外の光が差し込んでいた。
地面は抉られていたり、大小様々な岩がそこら中に転がっているが芋虫の魔物は何処にも見当たらなかった。
その代りにその場に存在していたのは、影光を肩に担ぎ清々しさと一仕事やり遂げた感溢れる程すっきりした顔で「ふぅ」と汗を拭う晶彦と絶命した芋虫の魔物達が残した拳大程の大きさの透き通った硝子のような紫の結晶―――通称、魔石と呼ばれる―――が大量に転がっているのだった。
そんな中を夏美はつかつかと晶彦の元まで近づいていき振り返った晶彦の頬を両手で摘まみ左右に引っ張った
「あ~き~ひ~こ~君~!!」
「ひひゃい!ひひゃい!!」
その後、夏美の鬼気迫る形相に晶彦はすごすごと正座をし30分程こっ酷くお説教を受けた後、颯達と共に魔石を拾い集めるのであった。




