大きくなる願望と今までの私
私は谷原君が好き。自分はどこか冷めてるし、非恋愛体質だと思っていた。けれど、どうやら私はあの朝だけで見事に落ちてしまったらしい。これはまりに笑われるな。思わずむっとしてしまう。
「そんな嫌そうな顔すんなよ。別に悪い意味じゃないから!」
私の表情が自分のせいだと勘違いして谷原くんが焦っている。・・・面白い。まりの言うとおりになったのがなんか悔しい。谷原くんは何も悪くないけど、八つ当たりさせてもらおう。
「ふーん・・・ま、別にどうでもいいけど・・・」
わざと不機嫌そうな顔をつくって言う。
「そんな怒んなよ〜」
あ、焦ってる。困ってる。面白いなぁ。
「・・・ふっ」
あ、思わず笑っちゃった。
「・・・からかっただろ」
「うん。さっきのお返し」
今度は拗ねていらっしゃる。そういやさっきだいぶ笑われたんだった。八つ当たりとは言えないし、そういうことにしとこう。思えば私変なとこばっか谷原君に見られてる。痴話げんかに巻き込まれる所とか、伸びのまま一時停止する所とか。これ、・・・・・・私の恋は叶うのかな。なんか、自覚したばっかなのにもう行く先不安なんですけど。てか、好きになったきっかけが元彼とその彼女さんのケンカに巻き込まれたからってどうなんだろう。あの人たちがあの朝あそこでケンカしていてさらに私を巻き込んでくれたことに感謝しなきゃだ。・・・それは、なんかやだなぁ。
「・・・。宿題やんなくていいの?」
ひとりもんもんとしていたら、谷原君がまだちょっと拗ねながら、聞いてきた。
「あ!すっかり忘れてた!やんなきゃ」
いやぁ、危ない、危ない。その為に早く来たんだもん。谷原君との会話が終わってしまうことを惜しみつつ、目を宿題に向ける。
「・・・わかんないし」
「どこ?」
谷原君が私の席に来て聞いた。
「この問題です・・・」
「あ、これはΣの形だとできないから一回ただの数列の和の形に直して、」
「えと・・・。こういうこと?」
「あ、そうそう。合ってるよ」
「谷原君、頭いいんだね。助かったよ、ありがとう」
「ここの分野が得意なだけだよ」
優しくて、かっこよくて、頭もいいとは。谷原君さすがだね。教え方もうまいし思わず感嘆してしまう。自分でも単純だと思うけど、好きだとわかったら谷原君のすべてが素晴らしく見える。谷原君と過ごす時間がとても幸せに思える。
そして、もっと谷原君と仲良くなりたい。そして、願わくば私に振り向いてほしい――――。そんな願望が胸の中で大きくなっていく――――。
この後、教室に入って私と谷原君が話してるのを見つけたまりがにやつきながら私を追い詰めたのはいうまでもない。そして、私はまんまと自分の気持ちを白状させられた。
「それで、結局ゆきは恋しちゃったわけだ。」
「まあ、そうだけど・・・。」
「で、ゆきさんはこれからどうするんですか?」
「とりあえず徐々に仲良くなっていけたらなぁ、と思います。そして願わくばみたいな?」
「なんでそこ疑問形なの。・・・でも、いいねいいね!なんだか面白くなってきた!頑張っちゃいなよ、ゆき!どうすんの?どうすんの?」
頑張れ頑張れとテンション高めなまり。まあ言われなくても頑張りますけどね。誰かに恋するなんて例の元彼ぶりだ。久しぶりの恋自体に胸が高鳴る。あの時は向こうからアピールされて徐々に私も意識して好きになったけど、今回は完全に私の片思い。「好きだけど、どうしよう。見てるだけでいいの」みたいな少女漫画のヒロインのようには私はなれない。私は、谷原君に振り向いてほしいんだ。だから頑張らなきゃいけない。でもそれは全然苦痛じゃなくて、なんというかこれからもっと仲良くなれるのかも、と思うとやる気が出てくる。
「まり盛り上がりすぎ。取りあえず話しかけたりして仲良くなるのを目指そうかな」
「うんうん。妥当だね。進展あったらすぐ教えてね!応援してるから!」
はいはい、と軽くまりを流してこの会話は終わった。
谷原君と仲良くなりたい。でも今席遠いしな。関わりもないし。今日の時間に登校すれば朝話せるかな。明日少し早く来ようかな。窓側の席の谷原君を見ながらそんなことを考えて一日を過ごした。見てるだけでいい、とは言わないがやっぱり見てるだけでも十分楽しいんだ。眠そうに授業を受ける谷原君。もうあきらめて寝ちゃう谷原君。休み時間になってやっと起きる谷原君。友達に寝過ぎ、とからかわれて文句を言う谷原君。友達と話をしながら無邪気に笑う谷原君。なんだか自分の気持ちを認めたら堂々と見ていい気がして、いや本当はそんなことはないんだけど、これからの毎日が楽しみになる。明日が楽しみになる。そんな明るい気持ちで放課後を迎えて友達と共に部活に向かう谷原君を見届け、帰りの準備をする。いつもはまりと一緒に帰るが、今日はまりは塾で急がなきゃなうえ、私は日直の仕事が長引きそうなのでまりは先に帰った。
日直だるいなあ、と思いながら先生に教室まで運ぶように、と頼まれた冊子をとるため職員室に向かう。職員室に行くとぎりぎりやっと一人で持てそうな量の冊子が用意されていた。まじか。はあ、と息を吐いてから積みあがった冊子を両手に持つ。
重い。重いよ先生!これ女子一人に持たせるものじゃないって・・・。そしたら幸か不幸か先生に呼び出されていたらしい元彼が職員室の奥のほうから出てきた。向こうも私に気づいたらしくなぜか近づいてくる。いやいや、なんでよ。この前あんたと一言二言話したことで彼女さんに怒られたばっかなんだけど。
「えっと、この前はなんか、本当ごめんな」
私の前まで来て申し訳なさそうに謝ってきた。
「いや、もういいけど。でも・・・、またこれを見られて彼女さんに怒られるの嫌なんだけど・・・」
「それ、なんだけどさ、俺らあの日に別れたんだ。」
・・・。まじで?そんで私はそのどうでもいいって言ったら失礼だけど正直どうでもいい報告を聞いていったいどうすればいいのだろう。
「やっぱり、束縛が強すぎたし、あんな風に言われても俺も周りも困るし。本当、巻き込んでごめん」
「・・・あ、重そうだし手伝うよ。教室まで?」
謝った後、私の両手の中の冊子を見て言う。
「え、あ、そう、別れたんだ。あ、・・・じゃあ教室までお願いします」
本当はあんまり関わりたい相手じゃないけど、彼女さんに怒られる可能性はなくなったわけだし、一人で運ぶのは重いし、とゆうか一人で運ぶのは重いからどうせならお詫びとして手伝ってもらおう。うん。にしても・・・、別れたのか。まりのケンカ中って情報間違ってるじゃん。
「田崎は、なんで職員室に?」
無言のまま二人で歩くのもどうかと思って話しかける。元彼の名前は田崎樹。あのころは、樹、って呼んでたな。今は正直心の中でも人に話すときでも苗字ですら呼びたくなくて、元彼、で通しているけど。ああ、でも落ち着いて考えてみれば苗字ですら呼びたくないってなんだかんだ言って私はこの人のことを気にしてるのかもしれない。それは本当に無関心にはなれなかったということだから。別れてからはじめてまともな会話をして―――彼女さんに怒られたのは会話というほどのものでもない―――やっと今そんなことに気づくことができた。
「あ、俺さ、まだ進路決めてなくて。担任に早く決めろって呼び出されてた」
「そうなんだ。今の時期、先生たちうるさいもんね」
「だよな。・・・はあ、どうしよっかな…。」
今までかたくなにあんな人もうどうでもいいと思っていたけど、実際はずっとある意味引きずってたのかもしれない。ああ、そっか。まりはそれに気づいてたからこそあんなに谷原君のことを推したのかもしれない。こんな自分の気持ちに気づくことができたのも新しい恋、谷原君のおかげだ。そう考えていたら、今自分の隣で進路について悩んでいる元彼、田崎と会話するのも全く苦じゃなく思えた。
「難しいよね。進路って、好きなだけ悩んで決めればいいんじゃない?」
「そっかなあ・・・。」
進路のこと、先生のこと、クラスのこと、テレビや芸能人のこと、そんなたわいもない話をしながら二人並んで歩いていたら教室に着いた。
「あ、教卓の上においてもらえる?」
「おう」
教卓の上の二人で運んだ冊子たちを見たら、田崎が運んだ数のほうが少し多かった。ああ、私は、こういうちょっとした優しさが、好きだったんだ。きっと私はいつまでもこの人のことを気にしてる自分を認めたくなくて、もうどうでもいい、って自分に言い聞かせていたのだろう。谷原君を好きになったことで今までの自分を冷静に振り返ることができた。この人、田崎とももう本当に普通に接することができる気がした。
谷原君より田崎との絡みのほうが多い!?
次は谷原君ももっと登場します(笑)
誤字脱字ございましたら教えていただけると助かります。




