5話 じいさん、走る
シー子さんに手を引かれ駆け抜けた。
距離にして400mくらいだろうか?
若いシー子さんは走りにくそうなハイヒールで、頬を赤らめ、息を切らせ、額にはうっすらと汗がにじんでいる。
僕は手を引かれながらも、ある程度息を整えてついて行く。
(生前、走っていてよかったな)
なんて、のんきなことまで考えていた。
そして、ついた先には。
さっきまで居た第2庁舎とは比べものにならない、豪華な建物があった。
作りは現代日本にもあるような超高級ホテルといった感じだ。
目の前には立派な門があり、奥には入り口までの100mくらいの間に立派な西洋風の庭園がある。
そこには、噴水や休憩できるような東屋まであるではないか、さすが神様たちが転生に使う庁舎だ。
などと考えていると、その門には警備員だろうか?
2人の、強面で体躯の良い大男がいた。
左の男はいかにも豪傑というような風貌で、裏表のなさそうな目をしている。
もう1人は、眉間にしわをよせて腕を組み少し気難しそうな雰囲気だ。
そんな2人を見て、ばあさんと行った浅草の雷門を思い出した。
大男たちに、シー子さんは単刀直入に聞いた
「ここにフードをかぶった男が来なかった?」
その問いに、左の男がガハハハハ!と笑いながら答えた
「ああ来たとも、第2庁舎で現れたSランクの転生チケットもらったやつだろ?俺たちも、庁舎の奴らから聞いたときはびっくりしたよ」
「違うわよ!Sランクまでポイント貯めたのはこのおじいさん!その男はこのおじいさんからチケット盗んだのよ!なんで気付かないのよ!…もうやだ!…ほんとグズばっかり!」
大男2人が顔を見合わせた。
少しの間ができた…
「なんだって!?じゃあ、あいつは…このじいさんから、チケットを盗んで…ここを通って…俺たちは騙されて…このじいさんがSランクで…」
「なんと!?」
左の男の返答に、右の男が1言だけ続いた。
僕がいうのもなんだが、間の抜けた返答をする2人だ。
そんな2人にシー子さんは畳みかけた
「だからそう言ってるでしょ!それで!?今その男はどこに行ったの?」
「…もう庁舎の方に入っていったけど、今から追えば何とか間に合うかも…」
「だったら今すぐ開けなさい!」
「は、はい!!!」
シー子さんの迫力に即座に門を開ける大男たち。
門を開けるや否や
「失礼」
と右の男の言葉と同時に、僕とシー子さんはそれぞれ大男の脇に抱えられた。
そのまま、2人は第1庁舎の入口へと走った。
その間--
「お前が先に門を開いたせいだ!」
「ぬしが何も聞かずに、通そうと申したではないか!」
など、体格に似合わず2人はしょうもない喧嘩をしている。
大男に抱えられたままの僕は、心に決めたことができた。
(シー子さんをあまり怒らせるのはやめておこう。)
大男2人は僕たちを傍に抱えているのに、体格からは想像もできない異常なスピードで駆け抜けた。
まさに風を切るとはこのことだな。
そう感心する間もなく、第1庁舎の入口へと着いた。
2人が扉を開けると、そこは割れんばかりの拍手と歓声の嵐だった。
パチパチパチパチ!
「おめでとう!」
「すごいな!」
「転生先で会ったらよろしくね!」
などの大歓声の先にはあの男がいた。
しめ縄で囲われた、いかにも『神域』といった場所に男は1人で立っていた。
足元からは、虹色の光が溢れている。
まさに、荘厳といった様子である。
それを見たシー子さんは脇に抱えられたまま叫んだ。
「ちょっとまって!その転生とめてーー!」
男はその声に気づきこちらを見た。
シー子さんの横で抱えられたままの僕の顔を見て、ひどくゆがんだ笑みを見せた。
そして口元がわずかに動いた。
何か言ったようだが、周囲の歓声で聞き取ることはできなかった。
その瞬間、足元の光は一気に収束し細い光の柱となって
無情にも上空へ霧散していった。
…ひと足遅かったのだ…
すんでの差で僕のSランク転生チケットはあの男によって使われ、消滅してしまった。
目の前でSランク転生チケットが消滅するのを目撃して
「異世界転生無双」という俺TUEEE!が消えた事に言葉が出なかった。
僕と同じように、男の脇に抱えられたままのシー子さん。
床の一点を見つめて何かをぶつぶつと呟いていた。
きれいに纏められていた長い青髪はほどけてしまい、乱れたまま床まで垂れさがっている。
(あとで髪留めを探してあげないとな。)
と、思いながらシー子さんを眺めていた。
その後、第1庁舎、第2庁舎、第3庁舎の所長や上官達に
僕たちは事情聴取で延々と同じ話を繰り返したのだった。
現世の僕の経験で例えるなら労働災害が発生して、警察や労働監督署が現場を訪れる。
それに、管理監督職が対応しているというような感じだろう。
まさか、死んでまでこんな対応に付き合うとは思わなかったよ。
「…3日かかった。」
と日付感覚のない僕とは違い、シー子さんが疲れ果ててつぶやいた。
その後、いつも通り身なりを整えたシー子さんに連れられ第2庁舎へ戻った。
この騒動を知っていたからなのか、第2庁舎に戻ると職員たちがヒソヒソとこちらを見ながら話をしていた。
そんな中、顔見知りになっていた受付のBさんの元へ行き、今後のことについて聞いた。
申し訳なさそうな表情で伝えてきた言葉に、僕は耳を疑った。
「『石ころ』か『アメーバ』です。」
………
「…はい??」
11/5 句読点、改行、表現の修正をしています。




