3話 じいさん、謙虚
モニターを掴み数字を確かめて、驚きと呆れが混ざったような口調でCさんは言った
「ほ、本当ね、なんでこんなことになるの?」
「ちょっと待ってくださいね。えーっと」
端末を操作するBさんが詳しく説明してくれた
「えっとですね。海部さんの魂なんですが、誕生してから他の皆さんと同じように輪廻転生を繰り返しています。ただ…その際に、毎回最低限の人生を選択されているみたいなんですよ。確かに、最低限の人生であれば10ポイントで転生できます。これは生まれる環境での最低限、生活が送れるような質素な家庭の生まれになります。国々で幸せの基準は違うので生まれた国での一般的最低限という認識になりますが…
これ以下のポイントでの転生先についてですが
7ポイントから人間として転生できますが家庭環境に問題あったり、苦難が多かったりします。
3〜6ポイントなら各種哺乳類や鳥類など、0〜2ポイントは昆虫や無機物と言った感じです。
そして海部さんは、転生のたびに10ポイントしか使わないので…端数の1ポイントや2ポイントが積み重なって…100ポイントに到達しちゃってます。」
「…バカじゃないの?」
Cさんがポツリという。この時点で周りの職員もこちらを見ている。
どうやら他の魂たちは転生するときに特段何も考えず、全てのポイントを使い新しい生涯へと旅立つのだという。
例えば今回僕が稼いだ12ポイントであれば、10ポイント使用する人生と大きな違いは内容だ。
ただし、幼少期に物覚えが良かったり、学生時代に何かしら成功体験をするなど、挫折が少しだけ少ない人生が歩めるらしい。
そして80~90ポイント台なら実業家や政治家として大成功という感じ。
…とは言うものの、それも本人の努力が運命に与える影響が大きいらしい。
だけど僕としては今までどおり挫折や困難があったとしてもいいと思う。
それはそれで人生の経験として、より豊かな人生が送れるのでは?
その結果、ばあさんと結婚して穏やかな暮らしを手に入れたのだ!
と、思っているので迷いなくこう言った
「えーっと、Bさん?それなら今回も10ポイントで、『最低限の人生』をお願いしたいんだけど?」
という言葉に、Bさんはすかさず大きな声で慌てたように
「謙虚ですか!?海部さん!!100ポイント使ってください!!これ以上貯められてしまったら神様の中でも別格!日本で言えば、伊勢神宮や明治神宮、出雲大社みたいな。そんな規模の社を建てないといけない最高位の神様になってしまいます!人間からいきなり最高位の神様に転生するなんて前例がありません!お願いしますから、今回ですべて使い切ってください!」
そして、こう続けた
「財閥の御曹司として何の苦労もせず一生遊んで暮らせますよ?」
「…」
「土地神様として、地域に敬われて平和に過ごせて、上級の神へのキャリアアップだってありますよ?」
「…」
とくに興味もわかず聞き流している僕に、困った表情のBさんはこう続けた
「ぐううぅぅ、なんなんですか海部さん、何になりたいんですか?…」
と涙目になりながら
「異世界転生で無双だってできるんですよ」
「!?」
これには反応してしまった
「…異世界転生無双…?」
その反応にBさんの目は勢いを取り戻し、ここぞとばかりに勢いよく続けた
「そうです!異世界転生で無双できます!なんならハーレムだって!勇者だって!魔王だって!思うがままですよ!好きなスキルだってつけることできますよ!」
…ダメだ、抑えられない!
孫と読んでいたラノベの影響。
『異世界転生無双』
この甘い言葉に誘われてしまった。
「…魔法は?」
「あります!」
「…レベルは?」
「あがります!」
「…チートは?」
「俺TUEEE!最強です!」
僕の心が高鳴る…
ペースメーカーが降り切れそうだ…
しかし唯一の気がかりができた。
「その…異世界に行った場合なんだけど、婆さんとはもう会うことできんのかな?ばあさんも同じとこへ転生できないかな?」
「できます!できます!というかさせます!ここでポイント貯められるくらいなら、それくらい安いものです!」
「そうね。これ以上こんな貧相な爺さんにポイント貯められるくらいなら…私も上司に掛け合ってみるわ」
(… Cさんや…もうそれ悪口じゃないか?)
心でそうツッコミを入れた…
僕は決断した
「じゃあ、そのS級転生チケットをもらってもいいのかな?」
「はい!ぜひそうしてください!チケットはこちらの窓口で発行できますが、転生手続きは第1庁舎になりますので…チャーリー?案内お願いできますか?」
「…はぁ…仕方ないわね、まさかこんな事になるなんてね」
呆れたようにいうCさんは窓口の内側から、僕の方へと移動してきた。
「すまないねCさん。手間ばかりかけてしまって」
その言葉に
「あのね海部さん!ここに来るまで何度も話しましたが、私は天使Cとかいう名前じゃないですからね!転生省に勤めるもので、この第2庁舎に所属勤務する者が天使。あなた方のような方を案内する部署が私たちチャーリーです!受付はブラボー、管理部門はアルファ。説明しましたよね?」
半ば呆れながら何度目だ?と言った表情で言ってくるのだが
記憶が無い…
おじいちゃんだもの。
そもそも受付なら「受付」案内人なら「案内係」とか素直にネーミングできないかね?
なんでA,B,Cで違う読み方なんだよ。
92歳のじいさんの横文字の覚えの悪さを舐めるなよ!
と思いながら、結局のところ名前も教えてくれないし、Cさんで怒るならと考えた挙句
「それはすまなかったね!シー子さん!」
そう快活に謝ると、シー子さんの眉がピクリと動いた気がした。
だが、先ほどのように、まくし立ててくる様子はない。
よかった。どうやら気に入ってくれたみたいだ!
今後はシー子さんと呼ぶことにしよう!
そうこうしていると受付のBさんから呼ばれ
「海部さん。これがSランク転生チケットになります。再発行などはできませんのでくれぐれも無くさないように気をつけてくださいね」
そう言われて渡されたチケットは、まさに《Sランク》というにふさわしく、虹色に淡く輝いていた。
曲げても折り目もつかない。特殊な紙のような、プラスチックのような不思議な素材でできていた。
その輝きに目を奪われながらも、ひととおりBさんに礼を言うと
「それでは第1庁舎へ行きますよ」
と、シー子さんが言うので着いて行こうとしたが、脚が止まった。
これがまずかった…
ここで少しだけ我慢していれば、あんな結末にはならなかったのだろう。




