13話 シズカ、走る
いつも通り、淡々と与えられた業務をこなす。
親身になってくれない上司は、私がいくら仕事をしても認めてはくれない。
その上司は、周囲への見せ方が上手く評価が高い。
そんな理不尽に思うところが多くある。
だけど、私がやらないと誰もやってくれない。
評価されないことも含めて仕事だと割りきって、いつも通りの変わらない業務を淡々とこなしている。
ーー対応業務も終わり、残った書類を整理しようとしていた。その時ーーいつも持ち歩いているタブレット端末が異常を知らせた。
ーー5年前、良くしてくれた先輩が突然の成仏。
その時に引き継ぎ、私のクライアントになった魂魄がいた。
先輩が成仏する前
「その魂魄さん、とても面白い方だから貴方に任せたいの。きっとあなたの価値観やあり方を変えてくれる、きっかけになると思うの。」
そんな事を言っていた。
私の価値観ーー仕事には余計な感情もいらないし、転生する魂魄と関わることに意味なんて見出せない。
どうせ記憶も忘れる存在。
私はそう思っていた。それは今でも変わらない。
タブレットの異常の原因は、あの時、引き継ぎをした魂魄のことのようだ。
慌ててモニタールームに向かうと、信じられないシステムアナウンスが流れていた。
『1000回目の転生ーースキルが、エピックスキルに進化』
「どうなってるの…」
初めて聞いたその内容に動揺する私。
慌てて廊下を走る私を見かけて、何人かの職員がモニタールームに続いてきていた。
「え!すごい!陸太さん!」
素直に感心をしているヒナがいた。
他の職員もざわついている。
転生する人がスキルを所持していたり、転生先でスキルを獲得することは珍しくは無い。
だから、今まで気にも留めなかった。
ただし、今は違う。
ーースキルが進化するところなんて見たことがない。
ざわめく私たちとは裏腹に、システムは淡々と続けた。
『ーー徳ポイントを「1」獲得、輪廻転生の輪に帰還します。ーー』
周囲のざわつきはさらに大きくなる。
「輪廻転生の輪に帰還?」
「え?陸太さん…戻ってくるの!?」
理解が追いつかない私の言葉に、ヒナのなにげない素直な言葉が気づかせる。
(状況を整理する前に、まずはやるべき事をやらなければ。待たせてはいけない。クライアントを。)
そんな気持ちがよぎった。理解が追いつかない自分を言い聞かせるように小さく呟く。
「私がやらないと…」
それと同時に私は走り始めていた。
「どいて!」
モニタールームに集まっている人たちを押し退け、庁舎の入口へと向かった。
ガラスのドアが左右に開ききる前に、ドアをすり抜ける。
相変わらず走りにくい靴。それでも走った。
その先に--
現世とこちらを繋ぐ道の大きな扉。
その前に立っている人。
【海部陸太】だ。
その前まで来た。
乱れた息と鼓動を必死に押さえつけようとする私に
「また…お願いしますね。シー子さん」
相変わらずのマイペース。この状況を何もわかってないのだろう。そんな憤りがあった。
陸太の後ろで大きな扉がゆっくりと閉まっていく。
その隙間から、あちらの世界の夕日が差し込んでいる。
シワだらけの顔。ゆっくりとした動きで目を細めるおじいさん。
ーーその、優しい表情と声ーー
それは、不思議と私の乱れた鼓動を落ち着かせた。
ここまで読んでいただき。ありがとうございます。
ここで、アメーバ編は一旦終わります。
この後も陸太はマイペースに他の生物や、果ては地獄に就職したりします。
今後は水曜と土曜に定期更新していきますので
引き続きよろしくお願いします。
また、これまでの話も、改修して行きたいところがありますので。より楽しんでいただけるよう勉強して行きます。




