11話 独裁者、転生
※本エピソードには物語の一部に地獄を表現している場面があります。そこでは一部過激・グロテスクな表現(拷問・汚物等の描写)が含まれます。苦手な方はご注意ください。
陸太が100回のアメーバ転生を迎える少し前。
転生省の一室。
そこには複数のモニターが所狭しと並んでいる。
モニターに様々な映像。
1つずつ、誰かの生活を映していた。
その一角にあるモニターを3名の人物がのぞいていた。
真ん中の椅子には、金髪ボブヘアーの女性。
普段は受付をしてるが、端末の操作の為に呼ばれている。
その左には、スラっとしたスタイルのいい女性。
長い青い髪を一括りにしており、いかにもキャリアウーマンといった感じ。
そして椅子の右側には、ジャケットのポケットに手を突っ込んでいる男。
切れ長の鋭い目つきとオールバックが印象的だ。
モニターには老人が胸に何かをしまい、トイレに行こうと歩いている様子が映されている。
「あ、ここよ。ここでぶつかっている。この男。」
青髪の女性が言うので、端末を操作して動画を止める金髪の女性。
「おお。確かにわざとぶつかりに行っているな。」
「はい。まず、この状況自体が非常にまれではあります。ですが、不測の事態も踏まえて、第2庁舎でのSランク転生チケットの発行は禁止にする。というように、ルールを変更するべきだと思います。」
「そうですよね。私もなんだか陸太さんに申し訳なかったですし。」
「…そうだな。めんどくせえなあ。まあ、お前らの方で一回改善案書いて提出してくれや。」
それだけ言って、男は部屋を出て行った。
「はあ、上司があれだと本当に疲れるわね。」
「ほんとだねぇ。私もあの人、苦手なんだあ。シズカはよく我慢してるよね。」
「仕事だからしょうがないわよ。というか、仕事中に本名で呼ばないでよね!」
「いいじゃん。今は2人しかいないんだし。なんならシズカも『ヒナ』って呼んでいいよ。」
冗談っぽく言う金髪の女性に、青髪の女性はため息をつきながらこう言った。
「あんたはいっつもその調子ね。それにしてもコイツ。どこからきて、何のためにおじいさんからチケットを盗んだのかしら?」
「そうだよね。これよりもっと前の記録には、何も残ってなかったもんね。」
2人は画面を見ながら考えていた。
時間はさらに遡る。
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ここは地獄の8階層…
私は誰だ?何をしている?
周りに人がいるのか?
炎?痛み?…もう、感覚がない…
わからない…何のためにここにいる?
あたり一面、人、人、人。
そこには、現世で大罪を犯した者達がいる。
互いの境界も分からないほど、隙間なく埋め尽くす有象無象。
水、炎、氷による暑さ寒さ…
切断、暴行、毒…
飢えも渇きも満たすことができない世界…
その中で、男は拷問を受けていた。
男は、そこでどれだけの時間を過ごしたのか。
何年、何十年、何百年たったのかも分からなくなっている。
自我は薄れ、何もかも消えかけようとしていた。
その時。
突然、男の身体が浮いた。
浮くや否や、男は有象無象の海から引っ張り出された。
(これで消えることができるのか。)
薄れている意識の中、淡い期待がよぎった。
頭をつかんだ大きなものが、何か言った。
だが、鼓膜は破れ、何も聞こえない。
引きずられどこかへ連れてこられた。
目の前の何かが、何かを言っている。
私はコクコクとよくわからずに頷いていた。
何かを掴まされ、歩かされた。
どこかに立たされた途端。
足元に光が生じた。
その時だった。
突然私の頭の中に、赤くドス黒い意識が流れ込んだ。
「こんなところで終わるなよ。すべて殺せ。お前がやるんだ。お前が王だ。」
その思念によって、全てを思い出した。
先ほどまで、焦点も合わなかった視界がはっきりした。
体中に痛みが走る。痛覚が戻ってきている。
しかし、なぜか笑いが込み上げた。
あたりを見回す。誰も私の事を気にしていない。
その瞬間、私は走って建物を抜け出した。
後ろから巨体を左右に揺らしながら追いかけてくる者がいる。
ああ、ここへ連れてきてくれた鬼か…
鼻で笑い、私は荒野に身を潜めた。
それから何日も何日も身を潜めた。
建物から出てくるごみを漁った。
食料も、衣服もそうする事で得た。
食料はひどく臭い…ネバネバとして気持ちが悪い。
だが、私は食べた。食べ続けた。
「必ずこの意思を持ったまま現世に戻るのだ。」
あんな物ばかり食べているせいか、口の中、体の中が酷く臭い。
その匂いが、私の意識を覚醒させた。
その事で思い出した。
澱をためては現世に戻ることはできない。
既に排泄器官は、拷問によりまともな機能をしない。
私は自らの腕を自身のケツの穴に突っ込んだ。
そして、体の中のモノをひっかきだした。
感覚が消えていればこんな痛み、何ともなかったのだろう。
だが、今は痛覚と共に聴覚も少しずつ戻っている。
掻き出すたびに、激しい痛みと惨めさが身体を駆け巡る。
それでも現世への執着のため。
私は生き抜いた。
第1庁舎へ入り、Sランク転生チケットを奪おうと思った。
だが、警備の男たちは間抜けそうだが、力でどうこうできるような隙がない。
幾度も遠くから隙を伺うが、ここで奪うのは無理そうだ。
本来であれば、私の【独裁者】のスキル以上の、あのスキルを獲得して現世に戻りたかった。
だが、その前にこのままでは、転生どころか魂魄が消滅してしまう。
私は不本意ではあるが、第2庁舎で高位のチケットが出る事を待つ事にした。
出入口からは入れない。
だが、私は知っている。
第2庁舎からは地獄へ澱が、ドボドボと垂れ落ちている。
私はその管へと入った。
臭い。汚い。意識が飛びそうになるが進む。
前世で成し得なかった、世界を獲ること。
馬鹿にした奴らは殺した。
親でさえ、歯向かえば殺した。
気にくわなければ人体実験の材料にさえした。
楽しかった。
無様に堕ちていく人間を見る。
それだけが心を少しだけ満たしてくれていた。
そして、地位も栄誉も得た。
だが、まだ満たされない。
到達できなかったもの。
世界だ…全てを得たときどれだけ満たされるのだろうか?
知りたい。
だが、その前に…殺したい。
全て…前世で私を裏切り、処刑に追い込んだ奴ら。
死んでいるかもしれない。
だけど見つける。子孫だろうが誰でもいい。
全てグチャグチャにしてやる。
その一心で、たどり着いた。
トイレの一室へと這い出てきた。
衣服は汚れてしまった。
こんな状態では、庁舎の中をうろつけないか…
トイレの水道で何度も洗った。
洗っても洗っても落ちない汚れを…
何とか臭いはおさまり、トイレを出て、中の様子を伺った。
突然だった。
何とも細いじいさんがやってきた。
そして、受付で何やら騒いでいる。
Sランク転生チケットをもらっていた。
目の前の光景に目を疑った。
私は、私の幸運に震えた。
あいつなら、奪える。
しかし、女が邪魔だ。
庁舎を出た瞬間殺してしまうか。
そう、考えていると運命は、やはり私を選んだ。
次から次へと、全てが上手く回り始めた。
じいさんはトイレへ…こちらへ来るではないか。
人目につかないよう、通路の角を曲がった瞬間。
私はぶつかり、じいさんの胸ポケットからチケットを奪った。
じいさんは
「…怪我とかはないかな?」
などと言っているが、一目散に第2庁舎を出た。
そして第1庁舎へと向かった。
例の警備員がいる。
「おっ、ここは第1庁舎だが、見たところ神様って感じじゃないな」
左の男が言い、右の男は訝しげにこちらを見ている。
私は奪ったSランク転生チケットを見せた。
(これで通してくれよ…)
左の男がジッとチケットを見ながら、フードで隠している顔をのぞいてくる。
時間が…長く感じる…ダメか?
そう思った途端
「ガハハハ!お前が第2庁舎から、出たっていう100ポイント貯めたやつか!通れ!通れ!よく頑張ったじゃねーか!」
「まことか?さ、さっ!すぐに門を開けますゆえ、しばしお待ちを。」
右の男がすぐに門を開けてくれた。
(やはり私の思うがままに全ては進む!)
悦びで、笑ってしまいそうになるが心を鎮めた。
そのまま庭を早足で通り抜け、第1庁舎に入った。
どこもかしこも、綺麗なものばかりで胸糞悪い建物だ。
そう思いながら、カウンターを見つけて、チケットを見せる。
「あれあれ。もしや第2庁舎からかられた方ですかな?おめでとうございます。転生先はお決まりですかな?」
執事のような服装の、胡散臭そうな老紳士が私に言ってきた。
「現世だ。何もしなくとも不自由せず。自由にやりたい放題できる家に転生させろ。スキルもつけろ【運命】をつけろ」
「ほほほ、そこまでお決まりなら、すぐに手続きできますよ。すぐに転生されますかな?」
「ああ、急げ」
「はいはい。すぐにご用意致しますので、あちらの転生陣でお待ちくださいますかな?」
そう言われ、私は転生陣の上に立った。
話を聞きつけた奴らが集まってきた。
ガヤガヤ、ゴチャゴチャとうるさい。
「それでは行きますよー。」
老紳士が言うと、足元から虹色の光が溢れ始めた。
【独裁者】の上に【運命】を得る事ができた。
転生陣の中、笑いが止まらなかった。
その時、扉が勢いよく開き、人影がなだれ込んできた。女が何か叫んだ、その横にはあの細いじいさんが男に抱えられている。
哀れなじいさんだ。さらに笑いが止まらなかった。
「お前が生きてきた現世、私がすべて壊してやるよ」
そう言うと同時に光は収束し、私はその場から消えた。
気づいた時、私の意識は赤子の体にあった。
身体の自由がまだきかない。
だが、確かに手も脚も全ての感覚がある。
あの能力なら、確認できるはずだ…意識を集中させた。
やはり見えた。
私が獲得したスキル【運命】。
最上位のレジェンドスキルだ。
【独裁者】の支配系能力。
【運命】による結果操作・因果干渉。
全て揃った。
むちゃくちゃにしてやる…何もかも…
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時間は少し進み、転生省のモニター部屋。
1つのモニターをシズカが、プルプルと震えながら見ていた。
「どうしたのシズカ?」
「いやね。あの海部さんなんだけど、ずっと死んでるのよ。」
「死んでるって!確かにアメーバでも死んじゃう事はあるでしょ?」
「え、ええ。でもこれ見てよ。」
そう言われて、ヒナもシズカが見ていたモニターを見た。
そこには、1匹のアメーバがいた。
生まれては光に向かって走る。そして、死ぬ。
また、生まれては光に向かって走る。死ぬ。
そして、踏まれて、焼かれて、食べられて…
何度も何度も、生まれては死んでの繰り返し。
余りの状況にいつも元気なヒナであるが、口を開けたまま固まっている。
シズカは、ぽつりとつぶやいた。
「普通なら狂うでしょ……」




