9話 アメーバ、光へ
突然すぎて思考が追いつかなかった。
出たのだ。
ついにステータス画面が出たのだ。
あっけにとられたが、すぐにステータスを確認してみる。
なになに?
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個体名:なし(海部陸太)
種族名:アメー…
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ここまで読んだ瞬間、ステータス画面は消えた。
あれ?
もう一度、念じてみる。
「ステータース!オープーン!」
ダメだ、反応がない。
なんでだ?
アメーバなので腕も顔もないのだが、頬杖をついている気分で考えている。
状況を整理してみよう。
念じている途中で、死んだ。
そのまま念じた。
そしたらステータス画面が出た。
転生が完了した今は?
…出ない。
もしかして、アメーバの状態じゃ見えない?
転生中のあの時間なら見えるのか??
そうなると、試してみるか。
「死んでみよう。」
そう決意した途端。
・
・
・
何も起きない。
前回の赤痢アメーバの時以外は、いつの間にか十数回も死んでいたのに。
そもそもアメーバってどうやったら死ぬんだ?
死んだと記憶しているものは2回しかないんだよな。
全くのデータ不足だ。
1つはさっきの赤痢アメーバになった時だ。
乾燥の後、おそらく人に感染して、投薬による殺アメーバが行われたのだろう。
もう一つは、あのモゾっとした感覚。
おそらく、ゾウリムシのエサになったのだろう。
死因は、捕食か投薬による毒殺。
外部的要因が大きいな。
今の転生状態はどっちだ?
普通のアメーバか、それともさっきの赤痢アメーバなのか。
…わからない。確かめようがない。
ここには鏡もなければ、それを見る視力がまずない。
感じるのは微妙な明暗のみ。
無理ゲーだ。
でも、まずは祈ってみようか。
「ゾウリムシさん!かもーん!」
・
・
・
返事がない。
ま、あたりまえか。
そんな1人コント、いや、1アメーバコントをしながら体の違和感に気づいた。
勝手に体が動いてないか?
本当にわずかな感覚だったが、体が一方向へ動いているのだ。
これは何かに流されているという事ではない。
明らかに自らの仮足で動いているのだ。
「ア…アメーバの体がひいているだと?」
そう思いながらも、俯瞰して自分を観察した。
何かからこの体は逃げているのか?
本能がそうさせているのか?
感覚がはっきりしないから、わからない。
はっきり見えないから、わからない。
かろうじて識別できる明暗で、僕が逃げている反対側を観察する。
光が差し込む先には結局何も見えない。
時折影のようなものが通るが、それが何かもわからない。
前回の時のように毒(薬)による環境の変化に対して逃げている感覚でもない。
なんだろう、あの光の先に何かあるのか?
「…光か?」
光が苦手なのか?
試しに明るい方へと体を動かそうとする。
その瞬間、何とも言えない不快感が体をおそう。
黒板を爪でひっかいた時のような。
生命的な危機感は、そこまでではないが、不快感を感じるあれだ。
やはり、光かもしれない。
仮説を立てたのなら検証あるのみ。
少し気持ち悪いが、全力で体を動かし光の方へと突っ走る。
・
・
・
遅い…
心はキプチョゲのように快足を飛ばしているのだが。
今の僕には快足どころか、仮足しかない。
「遠いな。」
そう思うが検証あるのみと、必死に仮足を動かす。
体感で20分くらい経ったのだろうか。
光が強くなってきたその時、意識がすこし薄れ始めた。
本能は影の方へと体を引き戻そうとしている。
僕はそれでも仮足を動かし続けた。
「退かぬ!媚びぬ!省みぬ!」
そう心の中で叫んだその瞬間
『死亡しました。20回目の転生を行います。』
「やった!…死ねたぞ!」
ぼんやりとなる意識の中で、そんな喜びをかみしめる隙も惜しんで
「ステータスオープン!」
心の中で唱える。
《ブゥウン》
という音とともに、あのオレンジ色の文字が視界の前に現れた!
「よっしゃーーー!」
僕は成功を喜びながらも、急いで文字を確認した。
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個体名:なし(海部陸太)
種族名:アメーバ(20回目転生中)
転生済みレア種別:赤痢アメーバ
メインスキル:【折れない心】
定着スキル:【変身Lv.1】
サブスキル:【状態異常攻撃Lv.1】
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「み、見えるぞ!僕のステータス!」
僕は、ばあさんとチークダンスを踊りたいくらい喜んだ。
その喜びの前に、次はスキルの詳細が確認できないかと思った。
メインスキルの【折れない心】に意識を向けると、画面が切り替わった気がした。
それと同時に、転生が完了して21回目の人生。
もとい、アメーバ生が始まっていたのだ。
「くそー!あともう少しでスキルの詳細まで見えたのに!」
そう心の中で絶叫した。
だが、僕は冷静だった。
不快感はあるが、人間だった前世。といっても正確には21回前の前世だ。
その時のような、激しい痛みなどの苦痛がアメーバには乏しいのだ。
死に対する感覚が完全にマヒしている。
「では、では。やり方はわかったので、今度はステータス詳細までいってみるかな。」
なんて思い、周囲を見渡した。
「見つけた。光だ。」
光を見つけるや否や、僕は仮足を動かした。
仮足で加速した…
うん、歳をとるのはイヤだね。
今のは無かったことにしよう…
『死亡しました。21回目の転生を行います。』
その声にすかさずステータス画面を開くとともに、折れない心の画面を開いた。
おっと、思ったよりも情報量が多かった。
生命保険の規約とか苦手なんだよな…
なんて思いながら情報を読んでいった。
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メインスキル:【折れない心】
グレード:レア
・一律ポイントでの転生を1000回繰り返すこと。その条件を達成した状態で、1回の転生先での努力値が99を達成した場合、低確率で取得可能。※努力値は隠しステータスのため転生省でも管理対象外。
このスキルは魂魄に定着するため、魂魄が消滅しない限り、スキルを維持した状態で転生する。
効果
記憶保持、スキル定着、精神耐性
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そこまで確認すると、ステータス画面は消えた。
転生が完了したのだ。
理解するのに時間がかかった。
1000回転生?そんなに転生していたのか。
100ポイント累積というのが今更なのはおかしくないか?
そう思ったが、人間だっていつ死ぬかわからない。
僕もあの時、ばあさんが偶然通りかかっていなければ…
仮説にたどり着くまで、時間はかからなかった。
繰り越したポイントをやりくりしながら、何度も生きてきたんだな。
(1000回以上転生か…よく頑張ってんだな、僕。)
なんてことを考えたが、まだまだ気になることがある。
スキル詳細の中にあった効果だ。
3種類くらいあったかな?
1.記憶保持
2.スキル定着
3.精神耐性
それぞれの効果がやっぱり気になる。
気になったのならば行動あるのみ!
それでは1つ目、記憶保持だ!
・
・
『死亡しました。22回目の転生を行います。』
・
・
そして、新しくアメーバに転生したとき。
僕は泣いていた。
悲しかったからではない。
うれしかったんだ。
努力は報われるというが、まさにこの事だった。
【記憶保持】
この効果はスキル【折れない心】固有の効果で、その名前の通りだ。
転生してもスキル獲得後の記憶が保たれるのだ。
普通ならあの時、シー子さんが言ったように、転生後には前世の記憶が消滅するらしい。
後で知った話だが、例外として「Sランク転生チケットを使った場合」などであれば記憶を保持したまま転生ができるようだ。
辛いこともあったが、前向きにばあさんと一緒に努力して歩いた人生だった。
その人生がこの【折れない心】の効果として現れたのだろう。
世の中には、もっとすごいチートスキル。
世界最強の魔法とか、最強の剣技とか、そんなものもあるかもしれない。
だけど、このスキル。この能力こそ、僕には最高のチートだ。
思い出を忘れない。こんな素晴らしいスキルがあるだろうか…
あの夜…ばあさんに諭されて、一緒に泣いて、一緒に笑って、それから惚れて、家族が増えて…
楽しいことも、辛いことも、家族の分だけ…
その時々のにおいや、手の温もり…
この胸にずっとある…
ずっと、ずっと…
忘れないでいられる。
僕の大切なものをずっと守ってくれる。
そんな優しい力だ。
そう思うと一気に温かいもので心が満たされ、感情が溢れかえった。
アメーバに涙腺は無い。
だけど、僕はうれしくて確かに泣いていた。
心は激しく揺れたのだ。




