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おとなりの文学淑女  作者: シルヴィア・紫の夜明け


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9/11

ピッツァの本

 人に見せられるものではないが、電子書籍を読みながら朝食の鮭の切身を白米と共に口に入れる。

 なんというか、この行為をしているだけで休日感が全身に満ちていくのだ。

 適当な具材の味噌汁で口をゆすいでいるとインターフォンがなった。

 時刻はまだ六時三十分である。


 玄関の扉を開けるとそこには隣人の緑川若葉がいた。

 薄緑色の長い髪に、紺のデニムジャケット。ネックや袖口がレースのブラウスに、ワイドパンツ。

 彼女の顔面が整っているから何でも似合うとは言ってはいけないだろう。

 彼女は緑色の本で口元を隠していた。

 たった2cmくらいの玄関の段差が、彼女の上目づかいを強固なものにしていた。

 緑色の本の表紙には、縦で赤文字でピッツァと書かれていた。


 はいはい、またピザが食べたくなったんですね作りましょうか? と一瞬思ってしまった。

 けれども彼女が持っている本のタイトルはピッツァだ。

 ピザじゃないピッツァだ。

 彼女は真のピッツァを求めているのかもしれない。

 日本の一般人なんて窯なんて持っていないし、更に窯を所持していたとしても、その窯床が海砂や火山石で出来ているわけではない。

 それに彼女は余所行きのコーデにも見える。

 彼女が考えているのはどっちなんだい。

 と脳内CPUをフル回転させたらショートした。

「ちょっと上がって貰ってもいいですか?」

「え、あ、はい。お邪魔します」


 何故か困惑した表情を浮かべている若葉さんにお茶うぃ出した後、目の前に座っている彼女を放置して朝食の残りを片付けた。

 ごちそうさまと、空の器に手を合わせる。

 そして彼女に向き合う。

 コミュニケーションとは質問である。

「真のピッツァをお求めですか?」

「後ろめたい気持ちはありますが、ぽい物を作っていただけたらなと」

 頼ってもらえてうれしい気持ちと、あれこれって日本でも売られている真のピッツァを食べに行った方が安上りなのではないかという疑問が一度に湧いた。

 人間は多面体である。


 ピザの素材をコンビニにまで彼女と一緒に買いに行った時に、以前コンビニデートに誘うとかどうのこうのとやり取りをした気がするのを思い出した。

 自分が経験したコンビニデートやウォーキングデートが100円コーヒーだったこともあって、全く繋がらなかった。

 でもやり取り的には朝にピザを食べに来ると言っていた気もする。

 だから彼女の今日の主題はコンビニデートであって、ピザでもピッツァでもなかったのだ。

 外行きの装いも納得ではある。

 反省。

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