喫茶店の本
インターフォンに起こされた。
時刻はまだ午前五時。
日が昇り始めた時間だが、まだまだ暗い。
はた迷惑な隣人だなと思い玄関のドアを開けると、想定通り緑川若葉が立っていた。
本を携えて。
今日は大分冷え込んでいて、彼女は薄手のコートを着ていた。
彼女のが抱えていた本を確認した後、一旦部屋に戻りコートを羽織って外に出る。
「おはようございます」
「ええ、おはようございます。それじゃあ行きましょう」
別に何処へ行くという訳でもない。
ただのコンビニデートで、ウォーキングデートだ。
彼女が今日持っていた文庫本に表紙には、カフェオレのような茶色とミルクのような白の間に、正方形のテーブルと座席が書かれていた。
100mにも満たないコンビニまでの距離をふたりで歩いていく。
「手でもつなぎますか?」
「いえ、そこまでしてもらわなくて大丈夫です」
断られると思ってかけた言葉の予定調和。
これが心の平穏を生んでいるのだろうか。
コンビニでレギュラーサイズのコーヒーをふたつ買い、砂糖とコーヒーフレッシュをふたつずつ貰った。
「どちらで飲みますか?」
「今日は喫煙されてる方もいないので、外で飲みましょう」
彼女の言葉を聞いてからカフェマシンの前でコーヒーを混ぜ、ゴミを併設された小さなゴミ箱に入れた。
もう十分は過ぎているのに空は明るくはなかった。
雨の匂いも感じず、ただ暗くて肌寒いだけ。
ふたりコンビニの端で横並びで、冷たい空気と共にコーヒーを味わっていく。
「料理しないんですか?」
「出来なくなったんです」
昔は出来たかのような口ぶりだ。
「理解しているのに体が動かない感じですか?」
「あなたとの会話が楽すぎてそれに甘えてしまいそうになります」
「ただ知人に恵まれているだけですよ」
知人たちは恵まれているとは思えないのだろうが。
「パンでも買ったらどうですか?」
「焼いてもらえますか?」
「いいですよ」




