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おとなりの文学淑女  作者: シルヴィア・紫の夜明け


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7/11

四角い赤い本

 今日の彼女は赤い本を読んでいた。

 その本の形は正方形に近かった。

 女性向けの旅本だ。

 学生の頃、主要駅構内の古本屋で100円で売られたのをまとめ買いして、旅気分を味わった事がある。

 ただそこでの疑問が湧いてくる。

 果たして彼女は働いているのだろうか。


「お疲れ様です」

 といつものように挨拶をする。

「おかえりなさい」

 と彼女はこちらに微笑んでくれる。

 簡単には通してくれはしないんだな、という気持ちと、その微笑みには何か返さないといけないな、という気持ち。

 両極端な気持ちが湧いてくる。

 彼女の美貌に掛かれば自分以外の人間もイチコロだろうに、なぜ彼女には友人がいないんだろうか。

 話題の切り出し方を考える。

 シンプルに旅行に行くんですか? では何かしら事が大きくなってしまいそうな予感。

 けれども本以外の話題に繋げるのも悪手という主観。

「パスポートはお持ちですか」

 入国審査かよ。

 日本語で訊かれる事なんてないだろうに。

「いいえ……ああ、ピザが食べたくて」

 それだったら旅本じゃなくてピザの写真がメインなレシピ本や宅配ピザの広告チラシとかでいいのでは。

 本場のグラタンを挟んで焼くようなピザとかじゃなければダメだったのだろうか。

「コンビニじゃダメなんですか? 金ぴかの高い奴とかありましたよね」

「千円近いじゃないですか」

 弁当とそこまで変わらなくないかと思ってしまったが、それはいけない事なのだろうか。

 さらに千円となるとSサイズの宅配ピザが前後だったはずだけれども、選択肢から外れると。

「サ〇ゼでも行きますか? 1枚400円ですよ」

「外食はちょっと……」

 何が彼女を躊躇わせるのだろうか。

 この間だって一緒に外食して……ないな。

 まあ、誰だって苦手なものはあるか。

「ピザトーストでいいですか? 生地から作る気分じゃんないので」

「はい、是非。お願いします」


 ケチャップに少量のオリーブオイルを混ぜ、それを食パンに塗る。

 赤く染まったパンに薄切りのタマネギとピーマン、ベーコンとチーズをのっけ、オーブンの中へ。

 凝るんだったら、ケチャップにウスターソースやニンニクを混ぜるのもありだろう。

 これぐらいだったら慣れればトータル10分で終わるので楽だ。

 焼きあがったものを、お行儀よく待つ彼女の前へ置く。

 朝ごはんに見えてしまう。

「ボナペティート」

「グラッチェ、ボナペティート」

 お互いに頬が緩んでいる事を指摘するのは野暮だろう。

 夜だったので彼女の皿の横に温めた豆乳を置いた。

「今度は朝食べに来てもいいですか?」

「それなら早朝にコンビニデートでもしましょう」

「本当に誘っちゃいますよ?」

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