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おとなりの文学淑女  作者: シルヴィア・紫の夜明け


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桜の本2

 ぼーっと景色を眺めている若葉。

 そろっと帰りますか? とか、越前おろし蕎麦でも食べに行きますか? とか。

 そう言った声掛けをしようとした最中。

 一瞬、彼女の整った横顔がどことなく儚げに見えてしまって、かける言葉を間違えた。

「高岡でも行きますか?」

 新幹線の車内でアニメ映画を観終えた後、アニメでは福井ではなく富山高岡が舞台になっていた。

 という話をした。

「いいですね。私したいことを思いつきました」

「なんです?」

「海を見ながらカップラーメンを食べたいです」


「現実的にいきましょう」

「はい」

「海は映画に出てきた雨晴海岸でいいですか?」

「そうですね。ふたりが喋っていたのもそこですし」

「ネットの3Dマップで見てみるとベンチのべの字がないです」

「なるほど。ならあめはらし駅にしましょう」

「そして雨晴駅から一番近いコンビニまでの距離が3kmちょいです。まだ高岡駅にあるだろうコンビニでカップラーメンを作って氷見線に乗車した方が早いです。まあどちらとも麺がのびる事には変わりはありませんが」

 桜の花びら舞い散る木の下で何の話をしているんだろうか。

「となると、駅でお湯を作るか、駅まで熱湯を運ぶかになりますね」

 前者は水と携帯コンロ、後者は熱湯と魔法瓶。

「ホテルの電気ケトルは汚く使う存在がいるそうなので、駅でお湯を作る方で行きましょう」

 彼女がそうと決めたのなら、それでいい。

 この旅行では彼女が旅費を出しているのだから。


 福井に後ろ髪引かれることはなく新高岡。

 1時間にも満たない新幹線の乗車時間の中で段取りは決めた。

 カップラーメン、水、その他(お茶など)をコンビニでもいいので買う事。

 それと携帯コンロを調達する事の二点。

 自分のスマホを使いふたりで地図を眺めていると駅の南口に大型ショッピングモールがあった。

 もうそこで全部揃うんじゃないか? と思って隣を眺めると似たような表情をしていた。


 揃わないはずがなかった。

 下火になったとはいえ、まだまだキャンプは人気だ。

 それに加えて災害に備えるといった観点からキャンプ用品の相性はいい。

 鹿のマークが入った小型のガスバーナーコンロのクッカーセットをひとつ。

 シーフード味のカップラーメンをふたつ。

 せっかくなのでと、とろろ昆布のおにぎりをふたつ。

 カップの味噌汁をふたつ。

 500mlの水と緑茶をふたつずつ。

 この後も順風満帆は続き、12時30分には雨晴駅と到着した。

 意外だったのは彼女がモール内の書店に寄りたいと言わなかった事。

 海とカップラーメンを優先したのだろうか。


「海の匂いがしますね」

 電車から降り立った彼女の最初の一言。

「海なのか、潮なのか、磯なのか」

「ここまで海が近いと今日の夜が大変そうです」

「若葉さんの髪、長いですもんね」

 結局のところ、火が使えそうなところが見当たらず、最初の目論見が大外れ。

 海岸沿いまで歩き、整えられた石の階段にふたりして腰を掛けた。

 運には恵まれ周囲に人がいなかったので、さっさとバーナーでお湯を沸かした。

 そして熱湯をカップラーメンに注ぎ、ふたりして3分間海を眺めた。

 いただきますの声を合わせてから、割りばしを割って海を眺めながらシーフードのカップラーメンを啜る。

 これが隣にいる彼女がやりたいと思いついた事。

 これに理由を求めてしまうとこの先全てが雁字搦めになりそうだったので、考えるのを辞めた。


 食事を終えてもう少しで帰りの列車が来る。

「映画では夕陽が映っていましたけど」

「いいえ、帰りましょう」

 冷たそうに感じる文章だが、そう言った後、彼女は自分に向かって微笑んだ。

 満足してくれたならそれでもいいか。

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