第4話 解呪の力
「そ、そんなすごい呪い、僕なんかに解くことができるか分かりませんけど……」
アルトは震える手で、一番近くにいたリーゼロッテの背中に触れようとした。
「……いいんですよ、アルトくん。わたくしたちを哀れんでくださる、そのお気持ちだけで十分ですわ」
リーゼロッテが悲しげに目を伏せる。その白く滑らかな背中に刻まれた赤黒い呪印は、まるで脈打つ生き物のように禍々しく蠢いていた。
(……あ、これ……)
触れる直前、アルトの視界が変わった。
ロイのパーティにいた時はただの黒い霧にしか見えなかった呪いが、今の彼にははっきりと意味のある言葉のように見えたのだ。
(これ、ここを……こうやって解けば……!)
アルトの指先が、リーゼロッテの呪印にそっと触れた。そして、何か文字を筆記するがごとく、指を鋭く動かし始める。
「え……っ!? あ、ああぁっ……!!」
リーゼロッテが背中を反らせ、魂が震えるような甘い悲鳴を上げた。
アルトの指先から溢れ出した白銀の光が、彼女の背中の醜い痕を洗浄するように飲み込んでいく。
「おい、ルネ! 見ろよ、リーゼの呪いが……消えていく……!?」
「……信じられない。あんな術式、見たことない……。解呪なんてレベルじゃない……これは、呪いそのものを書き換えてる……?」
光が収まったとき、リーゼロッテの背中には呪いの痕跡一つなく、ただ透き通るような美しい肌だけが残されていた。
「あ、あの……リーゼロッテさん? 大丈夫ですか?」
おそるおそる声をかけるアルト。ゆっくりと振り返ったリーゼロッテの瞳は潤み、頬はこれまでにないほど紅潮していた。
彼女はそのまま、アルトをその豊満な胸の中へと引き寄せた。
「ああ、アルトくん……! あなたは、本当にわたくしたちの……救世主ですわ……!」
ガルザがこの奇跡とも言えるような状況に、唖然となっていた。他方、ルネは熱っぽい視線でアルトを見つめ始めていた。
「……次は、私……。早く、アルトに触ってほしい……」
「じゃ、じゃあ……はいっ」
「……ひゃぁあああんっ!!!?」
ルネは背中をエビぞりにしながら、普段の知的な彼女からは想像もできないような、乱れた声で喘いだ。
視線は空中を漂い、自らの肩を抱き、恍惚とした表情で唇をぴくぴくと震わせている。
「な、なにこれ……、私が今まで感じたことない、なんか偉大な力が、ぞくぞくって体中を走り回ってる……、こ、こんなのダメだよぉ……私、おかしくなっちゃう……!」
光が収まった時、ルネの背中の忌まわしい痕跡は消えて、乙女の麗しい水肌が広がっていた。
ルネはもはや足腰立たないほど恍惚の状態であり、まるで誰かと一夜を過ごしたかのような姿だった。
「お、おい!次はあたしだ!あたしの呪いを消してくれ!!」
ガルザは恭しく跪き、無防備な背中をアルトに晒す。アルトは彼女の岩肌のようにたくましい背中に触れた。
「ふぅん……!!はぁぅ……!!」
ガルザもまた、鋼のように引き締まった肉体を震わせ、その強靭な精神からは想像もできないような艶っぽい声を漏らした。
「……あ、熱い……! 背中から凄い熱いエネルギーが流れてくる……っ!!か、体の奥が、ジンジンして、た、たまんねぇ……っ!!」
光が収まったとき、ガルザの背中を蝕んでいた黒ずんだ痕跡は消え去り、そこには健康的な褐色の美肌が戻っていた。
「……消えた。本当に消えやがった……。あんなに苦しめられた竜貴族の呪いが、この坊やがちょっと触れただけで……」
ガルザは自分の拳を握りしめ、その溢れ出す少年の力に驚愕していた。
(こ、これが……【聖なる紋章を受け継ぎし解呪】のスキル……!!)
アルトは自らに秘められた力を信じられず、ただひたすら言葉を失っていた――。




