第13話 ルネの欲望
「……アルト。起きて。実験の時間だよ」
耳元で囁くようなルネの声で、アルトは目を覚ました。
視界に飛び込んできたのは、乱れたシーツと、自分のすぐ隣で横たわるルネの無機質な、けれどどこか熱を帯びた瞳だった。
「あ、あの……ここってルネさんの部屋ですよね?なんで僕はここで寝てるんですか……」
「ん……?昨日寝てる間にこっそり私の実験室に移動させちゃった……。だって、こうでもしないとアルトを独り占めできないんだもん……。ふわぁ……」
ルネはあくびを交えながら、自分勝手な言い訳を開陳する。
(まあ、それもルネさんらしいと言えばルネさんらしいか……)
と、妙に納得するアルトであった。
「……アルト、君の聖なる紋章……見せてくれる?」
「へ……?」
ルネはアルトの体にすり寄り、彼の衣服を脱がそうとする。
彼の紋章は彼の臍の下にある。下のお召し物を取り去らない限りは目視できない。
「あ、あの……!ちょっと待って……!それ、一番恥ずかしいやつだから……!」
アルトの心臓が、跳ねるように脈打つ。
しかし、ルネの指は触手のように器用に動き、アルトの抵抗も虚しく、彼の下半身を露出させてしまう。
「……こ、これが聖なる紋章……、凄い……なんていう意味なんだろ……?」
ルネは食い入るようにアルトの紋章を覗く。だが、そのすぐ下には少年の恥部があり、視界に入っていないわけがなかった。
「ル……ルネさん……!もお……ほんとに……!」
アルトが恥ずかしさで爆発しそうになっていたその時である。
突如、紋章が眩い閃光を放ち、薄暗い実験室を一気に照らし出す。
「……こ、これは……!?」
ドン――!
激しい衝撃音と共に、ルネは吹き飛ばされ、壁に背中を打ち付けた。
「あいたた……。持ち主を自動で守る機能までついてるんだ……。凄いや、ほんと……。私がやろうとしたことまでわかっちゃうんだ……」
「え……?どういう意味ですか?」
ルネは気まずい表情を浮かべていた。
「複製の魔法……。君の力をちゃっかり頂こうかなと思ってたんだけど、ちょっと無謀だったみたい……」
「え、ええーーっ!!?」
「……アルト、ごめん。君があまりにも美味しそうだったから、魔導師の本能が抑えられなくて……」
ルネは壁にもたれかかったまま、頬を微かに染めてうつむいた。
しかし、その瞳の奥には反省の色よりも、さらに深まった渇望が宿っている。
「私……昔っからこうなんだ……。好奇心が抑えられなくてつい無茶しちゃう……。この前もね、竜貴族の呪いを研究しようと思って……わざと呪いを受けたんだ……。まあ、そのせいで異端児扱いされて、魔法院から追放されちゃったんだけどね……」
(な……なんて危ない人なんだ……!この人、自分の命が惜しくないの……!?)
気狂いじみた研究心と、魔法への永劫に渡る欲望、この二つが融合したのが、魔導士ルネという女なのだ――。
「複製がダメなら、もっと直接的に……君の紋章を私に刻み込むしかないみたい」
「えっ……? 直接的って……?」
ルネはふらりと立ち上がると、再びアルトの元へ歩み寄る。
アルトは下半身が露わになったまま、慌てて毛布で隠そうとしたが、ルネの杖が一閃し、毛布は宙へと舞い上がった。
「アルトの紋章が私を拒絶するなら……私がその紋章に適応すればいい。君の力をコピーするんじゃなくて、君の一部になるの……」
ルネはアルトの上に跨ると、その熱を帯びた手をアルトの頬に添えた。
彼女の紫色の髪がカーテンのように二人を包み込み、外界を遮断する。
「ル、ルネさん……近いです! それに、一部になるって……どういう意味ですか……!?」
「……そんなこと……女に言わせるの……?君も罪な男だね……」
ルネの熱い吐息がアルトの唇に触れる。
(あ……!だめ……!)
アルトの意志とは裏腹に、再び紋章が脈動を始める。
今度の光は拒絶の衝動ではなく、ルネを優しく包み込むような、ドロドロとした熱を伴う結合の光だった。
「んぅ……っ!! アルト……すごい……。私、溶けちゃう……っ!これが紋章の力なんだねぇ……っ!すべてを飲み込み……より大きくなろうとする力……っ!」
ルネの瞳から理性が消え、本能のままにアルトに抱きつく。
朝の実験室は、魔法の火花と、二人の甘い声で満たされていくのであった――。




