第12話 ハーレムな一日
「ふぅ……」
アルトはソファに寝転がり、ぼんやりと天井を見つめていた。
(さすがに【極光浄化】を何十回も使うと、骨が折れるよ。もうくたくただ……)
アルトには竜貴族プラトスが支配していた領土を浄化する任務を与えられていた。広大な領域と、無数の民がアルトのスキルによって癒された。
「あら、アルトくん。随分とお疲れの様子じゃない?」
セレンが茶菓子をもってやってきた。なぜかネグリジェをまとった状態で――。
「セ、セレンさん、せめて寝間着くらいは着てくださいよ……」
「別にいいじゃない。私の屋敷なんだから」
ほどよくカールした金色の長い髪に、高雅な生まれを連想させる美しい顔、そして香油のふんわりとした甘い香り――。
麗しき貴族セレン・フェフシュタイン公は少年の隣に座り、彼の頭を膝の上に乗せた。
膝枕の柔らかさと、ネグリジェ越しに伝わる彼女の体温が、アルトを夢見心地に連れていく。
「はい、あーん……」
「……あむ」
セレンはまるで子猫でもかわいがるように、アルトに餌付けしながら頭を愛撫する。
「ふふ、いい子ね。今日は本当に頑張ったわ」
セレンの指先がアルトの髪を梳くたびに、心地よい刺激が脳を溶かしていく。
そして、アルトの視界には、すぐ目の前に彼女の豊満な膨らみが迫っており、目のやり場に困るどころか、もはや視界の全てがセレンで埋め尽くされていた。
「……あの……。セレンさん、ち、近いです……」
「あら、アルトくん的には、もっと近づけた方がいいんじゃないかしら?」
セレンはそう言って、さらに身を乗り出す。
その拍子に、ネグリジェの肩紐が危うく滑り落ちそうになり、アルトの心臓は爆発寸前だった。
バタンッ!!!
突如、扉が勢いよく開かれた。
「ちょっと! セレン様、抜け駆けは禁止って言ったはずですよ!」
「……ずるい。セレンだけ、アルトを独占してる……。貴族の特権のつもり……?」
飛び込んできたのは、こちらも薄い部屋着をまとったエリアとルネだった。
エリアは顔を真っ赤にしながらも、セレンの膝からアルトを奪い取らんばかりに身を乗り出す。
「ア、アルト様! 私、特製のハーブティーを淹れてきたんです! 疲れを癒すなら、こちらの方が……!」
「……私の方が、アルトの魔力特性に詳しい。アルト……私の膝の方が、よく眠れるよ……?」
ルネは眠たそうな目のまま、アルトの空いている方の手を握り、自らの胸元へと引き寄せる。
「わぁっ……!? エリアさん、ルネさんまで……!」
「あらあら、夜はこれからだというのに、皆様お元気ですわね」
「はっはっは! 良いことじゃねぇか! 景気よくアルトを囲んで、朝まで飲み明かそうぜ!」
さらに、聖なる香りを漂わせたリーゼロッテと、酒瓶を抱えたガルザまでが現れた。
「ちょ、ちょっと待ってください! 僕はただ、ゆっくり寝たいだけで……!」
「だーめ。こんなに求められてるのに逃げるなんて、男が廃るわよ?」
セレンが耳元で熱っぽく囁き、アルトの体をさらに深く抱き寄せる。
「あ、熱いです……セレンさん……!」
アルトの頭がセレンの柔らかい胸元に埋もれる。
香油の甘い香りと、女性特有の柔らかな熱がアルトの五感を麻痺させていく。
「……アルト、私の方を見て。セレンばっかりずるいよ……」
ルネが隙を見て、アルトの耳に息を切なそうに吹きかける。
「あぅ……! ル、ルネさんまで……!」
「まぁまぁ、皆様。アルト様は日々のお仕事でお疲れなのですわ。ここはわたくしがその凝り固まったお体を隅々まで解きほぐして差し上げますわね」
リーゼロッテが慈愛(と、隠しきれない独占欲)に満ちた笑みを浮かべ、アルトの足元に滑り込んでくる。
彼女の細く白い指がアルトの足首をなぞり、ふくらはぎへと這い上がってきた。
「ひゃうんっ!? リーゼロッテさん、くすぐったいですってば!」
「ったく、そんなにアルトを四方八方から囲んじまったら、あたしの入り込む隙がなくなっちまうじゃねぇか。ほら、アルト。お前の足、あたしの胸で挟み込んでやるよ。マッサージだ」
ガルザがアルトの右足を自らの胸に導き、堅く挟み込む。彼女の酒に酔って火照った体温が、アルトの中にじんわりと染みてくる。
「もう! 皆様、アルト様を揉みくちゃにしないでください! ほら、アルト様、お茶を……あぁっ!危ないっ!」
エリアがお茶を差し出そうとするが、誰かの足に躓いてしまい、アルトの上に倒れこむ――。
ソファの上は、もはや誰の体温か分からないほどの熱気に包まれていた。様々な柔らかい感触と、甘い香りがアルトを翻弄する。
「……あ、あの……。僕、本当に……幸せすぎて死んじゃうかもしれません……」
アルトの本音が漏れると、アルトの麗しい乙女たちは一瞬動きを止め、それから一斉にさらに熱っぽい視線を送ってきた。
「死なせないわよ。あなたが壊れるまで、私たちが愛してあげるんだから」
セレンの妖艶な宣言に、アルトの意識は天国へと昇りかけていた――。




