第10話 神速のアルト
「アルトばっかりにいい恰好させるかよッ!!」
先陣を切ったのは元帝国軍隊長のガルザであった。
大地が割れるほど脚に力を込め、ロングソードを構えたまま、一気に飛翔する。彼女もまた鋭い弾丸となり、プラトスの真正面へと臆面もなく突撃する。
ドガァアン――!
音速を超えた物体同士の衝突で、辺り一帯にソニックブームの衝撃が行き渡る。
「うぐぅ……!わ、私の翼が……!」
プラトスの右の翼の付け根に、大きな切り傷がつけられていた。飛翔能力を失ったプラトスはあえなく墜落し、片膝をつく。
「ルネ!相手は手負いよ!一気に片づけて頂戴!」
「わかってるよ……!セレン……!」
ルネが長い杖を掲げ、瞳を鋭く光らせた。
「……ハァアア!!神の雷よ!!あの不浄なる者に裁きを!!……神罰雷撃!!」
一瞬、空が咆哮したかに見えた。それは天空より下りし大いなる雷であり、光の濁流となって、プラトスの頭上に落ちたのである。
「グァワアアア!!!」
竜貴族は一塊の光となって、その分厚い鱗の奥まで焼かれた。稲光は完全に地面に吸収されるまで、プラトスの周りで暴れまわり、彼の周囲に猛々しい電撃を轟かせた。
「や、やりましたの?」
聖女リーゼロッテが、煤となった竜貴族を見て、言った。辺りには焦げた匂いと死臭が混じった不愉快な匂いが漂っている。
「……いえ、まだよ……!」
刹那、プラトスは開眼し、妖しい光を放つ黄色の目で、憎きフェフシュタイン嬢を捉えた。
「せめて……お前だけでも地獄に連れて行く……!クワッ!!」
プラトスは口から小指サイズの鱗の弾丸を放った。弾丸の射線は、セレン・フェフシュタイン公の心臓に目掛けて、音速以上の速度で向かっていく。
(セレンさん――!!)
アルトは時間が緩慢になるのを感じた。彼の時間間隔は人のそれを逸脱し、あらゆる物体が遅く見えた。しかし、アルト自身は、その中で高速で動くことができるのである――!
(セレンさんは僕が守る!!僕はもう大切なものを失わないって……決めたんだ!)
アルトは弾丸に相対し、解呪の術式を刻んでいく。
アルトの指は神聖な光を帯び、指の動きの一つ一つに、この世界の理を書き換えるほどの、神の力のようなものが込められていた。
(こんな術式、僕だって知らない!でも、指が勝手に動く――!)
アルトの指は自動操縦だった。彼の預かり知らぬ偉大な何かが、少年を動かしている。
(で、できた――!)
それは、見た事も聞いたこともない謎の神秘言語だった。たった六文字のそれは、頭で理解はできぬが、心の奥底ではその意味が理解できるような気がした。
「……うっ!!」
時は通常の状態に戻り、アルトも復帰した。
プラトスの放った弾丸は、完全に跳ね返され、逆に彼自身の心臓を貫いていた。
「グワッ!!!」
「な、なにが起こったの!?」
セレンはこのコンマ一秒にも満たない間に何が起きたのか、まったく理解できずにいた。
確かにプラトスはセレンを狙った。なのに、今ではプラトスの方が弾丸を食らっている――!
「クソ……!この私が……!私の理想国家が……!おのれ人間め……!下等生物のくせに、私の命を奪うなど……許せん……!」
プラトスは血走った眼でアルトたちを睨み、その長い腕で宿敵を捉えようとしたが、遂に絶命した――。
プラトスの巨体が、地響きと共に地に倒れ、物言わぬ肉の塊へと変わった。かつてこの地を恐怖で支配し、アルトの故郷を奪った不倶戴天の敵の最期である。
辺りには静寂が訪れ、プラトスの死体から漏れ出した黒い霧も、アルトの放った【極光浄化】の残光に触れて、雪のように白く浄化されて消えていった。




