第53話 凱旋歌
今も前回に続き盟主イベント続行中だ。
追加の赤鬼が来ることもなく、ただ物量だけが増えていく。
この前の夢の通りなら盟主のイベント自体は終わって消化試合、ボス級は来ないという事だろうか。それにしても多い。
どうにも1th地下ダンジョンから湧いた魔物じゃない。
イベント用にどこからか生み出されているようだ。ボス級は居ないが、イベント用に用意された戦力は全て使いきるという事だろうか。だとしたら迷惑な事だ。
そこで飛び出したのが俺のダンナ様だ。
12体のゼロスオーガを率いて南の壁外にまで出る。
そこで地面からバリア塔が生えてくる。四角と中央に一本の計五本のバリア塔にゼロスとゼロスオーガが乗りながら上昇していく。
いつの間に髪が逆立ち、手にはギター型のライフルが握られてるな。あんなゼロス見たことないぜ。
そして四角に生えたバリア塔の隙間を十字に四本の魔法増幅塔が生えてくる。
俺はライドレールで中央に居るゼロスの元に辿り着くとMP強化塔をデデデンと三本置いておく。
「必要かゼロス?」
「ああ。これならたっぷり五分で済む。それまで塔と俺を守ってくれシコル」
「そんなヤバいのを放つ必要があるのかよ!?」
「その必要はねぇ。ただ俺という盟主を見せつける必要はあるだろ?」
「ホントにお前のイベント会場かよ」
「ああ。俺のスペルをこの世界にキャストする。シコル、お前に捧げる愛の歌だ」
「それを聞いてる暇はなさそうだけどな」
「ああ。頼むぜ俺のワイフ。俺達の凱旋歌だ」
俺は頷くと下に降りていく。下では既にアレスとギンガが敵を切り刻んでいる。
俺も参戦だな。両手をホーミングレーザーに変えていく。右手を竜の瞳で多連装ホーミングレーザー、左手を手の形の収束ホーミングレーザー、そしてそのアンカーを使い、塔の間を飛び回る。
デカ物はアレス、ヒーラーはギンガ、殲滅は俺。
そしてゼロスのキャストが鳴り響く。
「クインテットメテオストームケスラーシンドローム」
その呟くような声が当たりに響き渡ると魔法が発動した。
その名の通り五つの隕石が降ってくる。それが空中でぶつかり合い、砕け散り、加速して、ばらけていく。
大量のデブリと化した隕石片が降り注ぐと、辺りは爆炎に飲まれていく。
これは魔法だ。使徒や地形にダメージは当たらない。
だがそれがわかっていても、その光景には恐怖を感じずにはいられない。
小さな欠片が大爆発を起こし、そこに更に追撃が振ってくる。
加速し、砕け散りそうな破片の降り注ぎが終わると、次は隕石塊が降ってくる。
これはもはや容赦がない。暴力的なまでの質量とエネルギー。それが地表を表面として余すことなくダメージへと変換されていく。砕け散り、その破片が更なる獲物を求めて飛散する。
もうこの時点で敵はいない。
それでもこの隕石群は留まる事を知らなかった。
次は半壊した隕石が待っている。それは地面に沈み込み、地表をクレーターという名の衝撃で嘗め尽くしていく。これが魔法でなかったら、この072は飲まれて消滅してただろう。そう思わせるほどの衝撃が俺達を襲っていた。
そしてようやく最後の締めがやってきた。
最後に残った巨大な隕石は、その質量の為にゆっくりとこちらを眺めながら降りてくるように見える。五つの隕石が合わさった、その巨体と、威力と、存在と、全てを終わらせる異形の塊。それがゆっくりと見せつけるように降りてくる。
そんなはずはない。この落下してくる隕石が、こんなに遅い筈がない。
その空を埋め尽くす岩の塊が眼前を通り過ぎて、1th地下ダンジョンに向かっていく。
ほっと胸を撫でおろしたのは間違いだった。
爆発、閃光、ありとあらゆる破壊の余波が072を襲う。
これが魔法でなかったら、俺は蒸発していただろう。これはもう超至近距離の核弾頭だ。
これが魔法でなかったら、072は地図から消滅しただろう。
これが魔法でなかったら(If this were not magic...)、
俺はそんなフレーズを呟きながらその余波に耐える。
これが魔法でなかったら、
盟主の光臨を讃える以外にないだろう。
これが魔法でなかったら、
俺達の明日は来ない。
これが魔法でなかったら、
・・・いや長ぇよ。
ーーー
「どうだシコル! 俺に捧げた俺達の凱旋歌は!」
髪を逆立てギターライフルを抱えた俺のダンナ様がやってくる。ここは外壁の上だ。さっきの塔は即席の盟主の力みたいだな。今は消えてなくなっている。
「いや長ぇよ! ホントに死ぬかと思ったぞ! あんなに必要だったのかよ!?」
「ああ? 必要はねぇよ。なんなら1th地下ダンジョンにボスがいたことにすりゃいいじゃねぇか。盟主様のイベントだぜ? これぐらいの敵がいても不思議じゃねぇだろ?」
「そんなの最初の赤鬼で十分だろ。どうせだったらゴブデロを・・・おろ?」
俺がゴブデロが磔にされている場所を見ると消滅している。イベントで不死化していた体を磔ていた場所だ。逃げたというのは、流石にないな。
勝ち誇ったようにゼロスが笑う。
「ゴブデロは俺が倒したみてぇだな。ほら見ろシコル。全てが上手くいっただろう? これが盟主だ。お前の望む事は全て叶うぜシコル・ギウス」
ガッと歯を見せながらアピールしてくるゼロス。
浮かれ過ぎだろコイツは。盟主になるまで散々悩んでいた奴がウッキウキだな。
「俺の望みはダンナ様だけだって言ってるだろ。そんなに盟主の力は凄いのかよ?」
「力自体はさっきも見た通りどこでも建築可能って所だ。Gを使えば永続化も出来るぜ。自宅じゃない誰でも使える別荘にはなるがな。その分防衛施設はいくらでも建てられる。072を捨てて俺達の城を立てる事も可能だ。興味はあるか?」
「ねぇよ。俺が欲しいのはお前だけだってのゼロス。なんでそんなに浮かれてんだ?」
「これが俺だ。盟主の俺だ。嫌いになったかシコル? もう遅ぇけどな」
ゼロスがにやりと笑う。その言葉通り、俺を逃がす気はない様だが、それは前から変わらない。
「違ぇ。お前は何にも代わってねぇよ。前からそうだぜ? それを外に出し過ぎだっての」
浮かれたゼロスは俺の言葉で逆立てた髪を元に戻すといつもの調子に戻る。
「マジか?」
「お前、自分で気付いてないだろ。いつも俺様で自身満々だったからな。ま、俺以外には見せてなかっただろ? それは俺とのベッドだけにしとけって事だぜ」
複雑な表情で黙るゼロス。その視線に俺は笑ってしまう。さらに憮然とするゼロス。
「何がおかしい?」
「クフフ。お前って、クフ、やっぱそうしてる方がいいぜ。あけっぴろげにしてるよりも、そうして抑えていた方が凄みが出るぜ。なんていうか、我慢してる方が、野性が出ててワイルドなんだよなぁ。ゼロスは」
「こっちのほうがお前の好みって事か?」
「ああ。なによりそれが俺が好きになったダンナ様だからな♡」
俺はとびっきりの笑顔を見せる。たまには媚びるのも悪くないな。それにこれが、ゼロスの対する報酬の中で最上位である事は、俺の自惚れではないだろう。
ゼロスはたっぷりと時間をかけて俺を見つめると、いつものように嘆息した。
「・・・それがお前の望みってんならな。そうだな。盟主の事はおいおいだ。逃げるんじゃねぇぞシコル」
「盟主ってまさかクイーンをやれって話じゃないだろうな?」
「察しが良くて助かるぜ相棒。適任だろ? お前以上のあてはねぇからな」
「コミュ障の俺に何をさせる気だよ俺のダンナ様は」
「いったい何をさせるっていうの?」
そこに都合よくギンガがやってきた。それにゼロスが答える。
「盟主の妻だ。聖母シコル・ギウスには適任だと思うだろ?」
そこですかさず俺は話題を変える。
「あー、アレスはどうしたんだ?」
「アレスならシコレが眠ったらしくて連れて行ったわ」
そういえば、シコレはこのイベントが終わったら使徒化すると言ってたが、真偽はどうなるんだろうな。ま、いまはそれよりも、
「あー、そうだギンガの方がそういうの向いてないか?」
「私とゼロスが組むのなら、この惑星の統一ね。愛はないけどシコルがそれを望むのなら応えてもいいけど?」
「お前らなんでそう支配だの統一だのと極端に走るんだよ」
呆れたようにゼロスが答える。
「シコル、過ぎた願いを叶えるには、そうでない願いを食いつぶす必要があるんだ。全ての願いを捻じ伏せて、その先に理想の世界がある。願いを叶えるってのはそう言う事だ」
続くギンガ。
「シコル、自分の欲望を否定しては駄目。欲望を肯定させるには力が必要。全ての頂点に立つ覚悟が、自分という欲望を肯定するの」
たじろぐ俺。
「いや、なんつーか。俺だけ場違いじゃねぇか? 俺の望みなんて、ゼロスの妻と、ギンガの夫だぜ? 後は友人と息子たちだ。そんなに過ぎた望みじゃねぇだろ」
俺の言葉にゼロスとギンガは顔を見合わせ、二人は俺に答える。
「それが既に強欲だって言ってんだろシコル・ギウス。そんな簡単な願いでさえ、簡単には手に入らないぜ。その為の力は俺が握っている。忘れるんじゃねぇぞ」
「そう、シコルは私が守る。シコルが私の心を支え続けている限り、私はそれを手放さない。私はシコル・ギウスの妻として、あなたを守り続ける。これは私の願いでもある」
俺はなんとなく照れ臭くなって鼻白む。
「そっか、なら俺も腹をくくるぜ。俺はお前達の日常を守る。その為に力が必要なら、俺もそれを手に入れたい。ゼロス、ギンガ、愛してるぜ!」
それを言うと俺はギンガに抱締められた。
「シコル。私もシコルが大好き。私は絶対にそれを裏切らない。あなたに応える女になって見せる。だから私を信じて」
ギンガの体は震えている。怒りと悔恨だ。さっきの赤鬼に後れを取ったのが相当に聞いているみただな。
「ああ。信じるぜ。ギンガは俺の知る最強の剣士だからな」
その言葉でギンガの体から震えが消える。
これでいい。きっとこれでいい。俺がするべきことは、こうして二人の安心を守る事だ。
「んでシコル。俺には何もないのか?」
「こんな真昼間からヤルつもりかよ俺のダンナ様は?」
「当たり前だろ!!! 盟主になってギンギンになってんだ!!! それをお前の要望で我慢してるんだぜ? 盟主じゃない、お前が愛するいつものゼロスだ。それの維持にはなにが必要かわかるだろ?」
「わかってるだろ! 今なのかって聞いてんだ!」
「今に決まってんだろぉぉお!!!」
俺はガッとギンガの腕から奪われる。
「文句はねぇよな?」
ゼロスとギンガは視線を合わせる。
「勿論。シコルの維持にはゼロスが必要。ゼロスを愛しているから私の好きなシコル・ギウスが形成される。これは疑いようがない事実。
ただ、
シコルを守る。それを違えた時はわかるわねゼロス」
「ムカつくが理解した。俺達二人でないとこの強欲なシコル・ギウスは満足しないからな。それじゃ行くぜシコルゥゥゥ!!!」
俺は俺のダンナ様の胸でそっと身を寄せる。
俺が欲っした俺のダンナ様。その思いを込めて抱き返すとゼロスの咆哮が轟いた。
「GYAAAOHhhhh!!!!」
自室で二人で過ごした後は、日付変更後の使徒たちの神のワインでの乾杯には間に合った。
流石に主賓が居ない祝賀会じゃな。




