第52話 赤鬼
072にその災厄がやってきた。
南側からの侵攻で既に外壁に取りつかれている。
いつものファンタジー魔物の群れだが、今日は一匹、異常な個体が紛れていた。
バスタードソードを駆る赤いオーガ。
見た目はただのオーガだ。だが動きが違う。異世界転生者の操るオーガはこちらの前線を崩壊させようとしていた。
最初はただのオーガだと思っていた。
それがギンガやアレスを避け、内壁に向かってくる。前線を避け、後衛へ。
そしてソルジャー達を狩り始めた。
俺はライドレールで空を走りながらリザレクションをかけまくっている。ヒールやプロテクションでは間に合わない。バスタードソードの一撃は一撃ではない。一撃で多連撃。一振りする間に何度もの斬撃が行われている。その為プロテクションとバリアーは最初の一撃で割れ、生身に直撃する。
これはもうリザレクションをかけまくるしかない。赤鬼が狙う味方にあらかじめリザレクションを待機させる。ここまでしないとソルジャーが全滅してしまう。
逃げようにも、オーガのスピードと、その移動の巧みさで行動を読むのも手一杯だ。アレス、ギンガ、ゼロスは前線。俺とシコレでオーガを追っているが、キャストはおろかサイキックさえ当てる暇がない程のムーブだ。
壁を蹴り、障害物を多用し、確実に相手の居所を先読みしてくる。狙われたが最後、その斬撃を受けるまで止まらない。
そして奴は気付き始めている。
自分が屠った筈の得物がピンピンしていることに。
探るような赤鬼の目に留まらない様に、俺はライドレールを消して屋根の上を駆け回る。一度補足されたが最後、異世界転生者であればヒーラーを逃がす筈がない。その間にも味方の動きをヘカトンセンサーで探りながら移動していく。
赤鬼の動きを把握しても仕方がない。奴が狙うであろう味方に追随していく。俺が赤鬼の味方であったのならどう動くか。それを念頭に置いて移動し、その獲物にリザレクションを待機させる。
そこで欲をかいたのが間違いだった。
俺は余裕を見てウォールを展開してしまった。
それは敵味方全ての攻撃を遮断するが、頑丈で足場にもなる。その上魔物は昇ってこれない。完全な安全地帯。それを遮蔽物にすれば安全だ。
その慢心が、絶対なる安全地帯という概念が、俺に隙を産ませる。
ウォール越しに奴を見てしまった。
ウォールは半透明だ。向こう側が見える。向こうからも見える。
ロックオンの警報音のように俺の頭で警戒音が鳴り響く。
赤鬼の目が確実に俺を捉えた。
俺は逆に前線の方へ逃げ出す。
奴を連れて後方に行ったところで袋小路だ。味方のいる、赤鬼に対処できる味方の所に行くしかない。
だがそれは奴にも理解できていた。
俺は足をリングサイボーグにし、ライドレールを空中に展開した。そこに乗り移ろうとした瞬間、何かが俺の体に吸着する。何か、魔法物質的な何かで出来た鎖。その先端が俺の体に吸着している。その先には、
赤鬼。
俺が状況を把握する間もなく鎖が引かれると屋根に叩きつけられる。瞬間的にヒールで回復し、ドームを展開する。このドームは移動は出来ないが防御能力はお墨付きだ。そして吸着していた魔法的な鎖も消えてなくなる。本当は自分にもリザレクションをかけたいが、隙も大きくなる。具体的には気持ち良すぎて戦闘のテンションが途切れる。全快して呆けていては本末転倒だ。
俺は召喚した対物ライフルをヘカトンケイルの腕に持たせる。手にはグレープグレネード。多弾頭化する付与をかけた単発グレネードランチャーだ。下手に誘導できるミサイルグレネードを使った日にはどこで爆発するかわからない。
だが、奴は来ない。
「シコルママ! 大丈夫デスますか!?」
俺の移動に追いついてきたシコレがドームに近づいてくる。
「近づくな! 離れろ!!!」
シコレが呆けた瞬間、赤鬼の鎖がシコレを捕らえ引きずっていく。
クソ! これが奴の狙いか!
ドームを破壊するよりも、ドームから出ざるを得ない状況を作る。
俺がドームを解く。
だが、それは、俺に刺す巨大な影で間違いだと知った。
3m級の巨体から放たれるバスタードソード。その斬撃が迫る瞬間、俺の両腕が掻き消え、頼もしい巨大なサイボーグ腕が顕現する。その斬撃を防ぎながら両腕が連結を完了、する前に破壊され消え去った。サイボーグ腕が解除され、俺の腕が戻ってくる。
これは、詰んだ。
ヘカトンケイルに持たせた対物ライフルで防ぐが、これもヘカトン腕ごと消滅する。破れかぶれのリングサイボーグ足も展開する前に切り裂かれ、リング無しサイボーグ足になってしまう。
だが首の皮が一枚だけ繋がった。
「シコルママ!!!」
シコレのサイキックが連射され、赤鬼が掻き消える。まるでそれを予見していたかのような逃げ足の速さだ。シコレのサイキックは何一つ命中していない。
「カッ、ハァハァハァ、助かったぜシコレ」
俺がシコレに笑いかけようとするが、その背後に刺す巨大な影に絶叫を上げそうになった。だがそれでもシコレの腕を取り、背後に回すとサンクチュアリを展開する。ドームと違い、移動が可能で壁というよりも圧力で敵を押し出していくイメージだ。
だが、それが削られていく。赤鬼の斬撃がサンクチュアリの圧力を切り裂き。弱らせていく。
そんなのアリか?
サンクチュアリが敵に囲まれて抑え込まれるというのは今までもあった。だが、魔物の攻撃で減衰し、消滅していくなんて、眼前の光景が信じられない。
俺はシコレを屋根の上から突き落とすとグレネードランチャーを構える。相打ちだが仕方ない。
無駄死にじゃないぜ!
自爆で意識が飛びそうな俺の体を暖かい光が包む。
これはリザレクションだ。心地よい回復の感覚が眠りを誘う。これだからリザレクションはほいほいかけられない。
「シコルさん。生きていますか?」
「アレスか。間一髪だな」
俺は安らぐ意識を無理にたたき起こして周囲を確認する。
俺はアレスのドーム内。アレスは光波で赤鬼をけん制している。赤鬼と戦っているのはギンガだ。シコレもドーム内でキャストを使っている。これは助かったな。
「油断しないで下さいシコルさん。ギンガさんが押されています」
嘘だろ!?
アレスの言葉で見ていると、ギンガの持つ聖剣の数が減っている。凄まじい剣戟で聖剣ジャグラーを使えるような相手には見えない。既に切り飛ばされてしまったのだろう。
アレスが光波で追撃を入れるが、赤鬼に魔物バリアーが張られる。これは魔物のヒーラーが壁を越えて来たな。アレス達は助けに来たんじゃない。下がってきたのか。
これは赤鬼にも魔物ヒールが入っていそうだな。
これは拙いな。
ここで下がればギンガは赤鬼との戦いで引けない、置いてけぼりになるだろう。それにギンガの剣技は特殊過ぎて戦いの最中にヒールをかけられない。それがギンガの剣筋を鈍らせてしまう。
ここで参戦できているのはシコレのキャストだけだ。あれは使徒には当たらない。
「流石にジリ貧だな。俺も年貢の納め時だ」
そこにゼロスがやってきた。
「何か手があるのか?」
「ああ。盟主じゃねぇが、ならねぇと使えねぇ手だ。・・・なぁシコル。お前は何処にもいかねぇよな?」
「なんだよ藪から棒に。俺の居場所はここしかねぇぞ。それは散々ベッドでやっただろ。俺がゼロスに一番求める物は、ゼロス自身だってな。金も女も地位もいらねぇぞ俺のダンナ様。全て失って素寒貧になったって一緒にいるぜ相棒。
俺達は、たとえどんな姿になったって変わらない。一対の夫婦だぜ」
俺が拳を突きだすとゼロスの拳がそれにぶつかる。
「何があっても逃げるんじゃねぇぞ相棒。俺が夫として嫉妬深いのは知ってるだろうけどな!」
「ああ。逃げたって逃げられねぇだろ。逃げる気はねぇけどな」
それでようやくゼロスは腹を決めたようだった。
「ここに居るかもわからない神よ。俺はここに宣言する。この俺が盟主だ。この惑星の王たる器はここにある。なんでも願え。俺が全て叶えてやる。お前の望みを盟主たる俺に聞かせてみろ!」
ゼロスが光の柱に包まれると、それは終わったようだ。
「いったい何を請われたんだ?」
名前付きになった時は、力と引き換えに何かの使命を与えられる。
「秘密だシコル。お前は口が軽いからな。だがここから離れる必要はなさそうだ。お前ともな。ま、俺は盟主だ。俺に命令できる奴なんて許さないけどな」
「おいゼロス。名前付きでいきなり魔物堕ちする気かよ。俺を未亡人にするなよな」
「そうだな。それもおいおい考えるか。だがそれは今じゃねぇな」
ゼロスは銃を消すとキャストに入る。盟主はソルジャーとキャスターの二重ジョブか。
「魔獣召喚魔法『ドッペルゲンガー』」
それは俺達使徒の使ういつもの銃を召喚する魔法じゃない。
何か、もっと禍々しい、文字通り魔獣を使役する力。俺のソルジャーのサイボーグと同じ対神兵器の一つか。
12人のゼロスが現れるとそれが全て短期形態進化をしてゼロスオーガへと変貌する。そして両腕に対地対戦車ガトリングを計二門装備し、それが一斉に回転を始める。
だが、それが一斉に火を噴くことはなかった。赤鬼を囲む様に、退路と進路を塞ぐように陣を構えると、緩慢な銃声が鳴り響く。ギンガと対峙した赤鬼が退避を始めるが、その体が揺らぐ。確実に急所を仕留めるガトリングガンの砲弾が徐々に赤鬼の体を蝕み、その動きを止め、あっけないほど簡単に赤鬼は霧散した。
そしてそのゼロスオーガ部隊が敵陣に襲い掛かる。
俺がそれを確認してギンガの元へ向かうとほぼギリギリだな。傷はないが、体の限界を超えてガタガタになっている。俺はそれをヒールで癒していく。今のギンガは完全に戦闘状態だ。リザレクションで強引に落ち着かせるのは逆に危険だろう。
「シコル。ゴメン。倒せなかった」
「いやギンガが無事でよかったぜ」
「・・・それは私が勝てるとは思っていなかったって事?」
荒い息を放つギンガにフィジカルアップスタミナをかけながら俺は頷く。
「あの赤鬼は正直何かおかしかったぜ。異世界転生者がフルスペックを引き出したオーガだ。単騎で勝てる相手じゃないだろ。むしろ押し付けちまった。耐えてくれて助かったぜ」
それでもギンガは不満そうだった。
「私は、何もかも全てに打ち勝てるというほど傲慢にはなれないけど、それでも勝てる相手に勝ててないのは問題。私はあのオーガを圧倒しなければならなかった。それでこそ救世主と名乗れるもの」
「実際勝てたのか?」
「今は無理。それでもその道筋は見えた。私は雑魚狩りなんてやってる場合じゃなかった。本物の強者に立ち向かえていなかった」
「ギンガがそういうなら次に赤鬼が出てきても安心だな」
「そう。もう遅れは取らない。救世主の名にかけて」
ありゃ。安心させるつもりが、逆に追い込んじまったか。
だがギンガなら問題ないだろう。敵もだいぶ押し返してきた。このままイベントが終わってくれれば御の字なんだがな。
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Tips 赤鬼
いつかやりたかったこの世界に王牙転生の王牙が来たら展開。ただの趣味で、この世界と王牙転生に繋がりはない。
メタ的な設定としては異世界を巡る魂達の最強の存在の具現化




