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第54話 神の先兵

 ここはいつもの食堂。いつものメンバーで昼食中だ。

 夢の通り、シコレ・ギルスは使徒化した。

 ただ、

「シコルママ! わたくし様の胸で抱きしめてあげるのでデス!」

 その言葉通り、シコレの身長は俺を超える。その豊満でないすばでえが俺を掴んで離さない。

 魔女ハットを被った美女が、シコレの今の姿だ。ミニスカで生足が出ているが、それはモードの変更で隠れる部分だ。

「シコレ。小さくなってくれ」

 その言葉で、その場で一回り。魔女ハットが降りてくるとそれが降りてきて服とスカートになる。そして子供姿のシコレが現れる。

 こうしてみると、魔女ハットに食われてるみたいだな。

 そんな感想は他所にシコレは俺の膝に乗ってくる。

「どうですの? シコルママ」

 膝に乗ったシコレはお嬢様、つまりキャスターモードだ。さっきの魔女ハット美女のサイキッカーモードとの切り替えは一瞬で終わる。

「いや、便利だな。使徒にこんなことが出来るなんてな」

 とはいいつつ、シコレのジョブは『魔王』だ。

 ・・・使徒の名前付きが魔王とか、せめて何かなかったのか。雑に魔物側のジョブであろう魔王を持ってきている。多分だが、この変装を超える変態が魔物としての力なんだろうな。一応シコレは完全に使徒。宿舎に自室も出来ている。

 取り合えず魔物球体は無い様だが、それでもしばらくは監視が必要だろうな。


「それにしてもそれは羨ましいですね。僕も大きさが変えられれば乳兄弟になれたんですが、残念です」

 いつもの調子でキモい事を言ってくるアレス。

「兄さまにはシコルママは渡さないデスよ。バーカバーカ。わたくし様を苛めた罰デス」

 シコレは大きくなって俺の頭を巨乳で包んでくる。これは魔物から使徒への洗脳の事を言ってるんだろうな。やってることは苛めるどころではないが、シコレの中ではそうなのだろう。

「クッ。僕もオネショタなどと言わずシコルさんの子供になっていれば乳兄弟の座をを得られたのに! クッ、あまりにも不甲斐ない! シコルさん! 今からでも僕をシコルさんの息子に出来ませんか!」

「「却下」」

 俺とゼロスの台詞が被る。流石に成人男性に吸わせる乳はねぇぞ。


 俺がシコレの胸にくるまれているとギンガの視線を感じる。

「あ、やっぱ不快か?」

 流石に俺が女性と絡んでいるのは面白くないのだろうか、という意味だ。

「いいえ。シコレは私の趣味でもあるもの。一緒に寝てもいい」

「ヒィ!」

 そのギンガの視線に怯えて俺の背に隠れるシコレ。

「な、なんなんデスか!? 何か、ヤバいものを感じたのデス!」

 それには俺が答える。

「ギンガは女性限定だからな。男なら問題ないけどな、女は食われても知らないぜ」

「ええ。私はシコレの小さい姿がとっても好み。私と寝たくなったらいつでもきて♡」

 ギンガがすかさずアピールしてい来たが、シコレにその毛はなさそうだ。

「なんなんデスか!? シコルママはいいんデスか!?」

「俺はTSだからな。ギンガと女性の接触はノーカウントで。でもギンガ、シコレは俺の娘だから、手を出すのは止めてくれ」

 それを聞いてギンガは笑う。

「ええ。勿論。シコレが望むのなら考えたけど、そうでない子は私は絶対に襲わない。シコレ、安心して。あなたの心を私は襲わない」

 シコレが無言で俺のそばを離れると、一回りして小さいシコレへ姿を変える。

 それがサッとギンガに攫われるとその膝に座らされる。

「ヒィ!?」

「ねぇ、シコレ、安心でしょう? 私と一緒に食べましょうか」

「あばばば・・・」

 シコレの顔が助けを求めているが、ギンガはそれ以上手を出す事はなさそうだ。俺は右手でサムズアップを送って食事を続ける。


 散々ギンガにお人形にされていたシコレが大きくなって俺の頭に巨乳を乗せる。

「ゼロスは凄く静かなんデスますね」

 ゼロスではなく俺に聞いてくる。

「ゼロスは色々抑えている所があるからな。必要なこと以外は話さないぜ」

 そこにゼロスが口を挟んでくる。

「俺はお前の事は気にしないぜシコレ。シコルが欲しいってんならそれでいい。シコルの強欲は今に始まった事じゃねぇからな。こんなことで嫉妬してたら身が持たねぇぞ」

 シコレはしばらくゼロスの視線を受け止めると頷いた。

「・・・わかったです。でも、なんていうか、コイツラホントにシコルママの味方なんデスますか?」

 その時ピシッと空間にヒビが入ったような緊張感が走った。

 それをものともせずにシコレは続ける。

「やっぱりコイツラ敵なのデス! 自覚ありありではありまセンか! シコルママはわたくし様が守るのデス!」


 その空気を最初に破ったのはギンガだった。

「否定はしない。だけど、だからこそ私は私からもシコルを守る。ここに居るのはそういう連中。シコルという甘い汁に吸い寄せられた、世界の害虫よ」

 そこにアレスが続く。

「僕も否定はしないよシコレ。それでもシコルさんは僕を受け入れてくれた。ただそれだけが真実だ。僕を信じるシコル・ギウスを僕は裏切らない」

 最後にゼロスだ。

「だからこそ、シコルを絶対に失わせない。そう言う事だ。下手な理由よりも納得できるだろう? 俺達がシコルの敵かどうかじゃない。俺達にはシコルが必要だ。ただそれだけの関係だ。理解できたか?」


 シコレは答える代わりに小さくなり俺の膝に乗る。

「理解はしましたわ。ですが、わたくしはあなた方よりもシコルママを選びますわ。本当にここがシコルママの居場所なのか? わたくしのスタンスはあなた方とは違う事をお忘れなきよう」

 その総意としてゼロスが口を開いた。

「それでいい。シコルを傷つける存在じゃねぇなら歓迎だ。そいつの強欲はこれからも続くぞシコレ。それに耐えられるんならな。いつでも逃げていいぜ?」


 また剣呑な雰囲気になりそうなのを俺は止める。

「お前ら話が深刻過ぎんだろ。敵も味方もあるかよ。俺たちゃ場末の僻地の過疎ギルド『第072冒険者ギルド』から始まったんだぜ? それは今も変わらねぇ。ここ072が激戦地になっても第072冒険者ギルドが惑星ファンタジーナンバーワンギルドになってもだ。

 名前付きになって変わり過ぎだぜ。神の求めがあったって俺達は俺達だろ。ゼロスはゼロス。アレスは俺と同じ変態。ギンガは可愛い。そこにシコレが入るだけだ。難しくし過ぎだぜ」

 俺はシコレを抱きしめる。

 他の三人に異論はない様だ。

「シコレはそれでも嫌か?」

「嫌とかではありませんわ。わたくしはシコルママが大切なんですの。それを伝えたかっただけですわ」

 俺の膝から降りて大きくなるシコレ。

「シコルママの敵がいないならわたくし様も言う事はないのデス。お騒がせしたデス。神の先兵ども」

「それはお前も一緒だろ!」

 俺は下からシコレの巨乳を揉みしだく。

「シ、シコルママ。わたくし様もママになっちゃうのデス!」

 ヤレヤレ。取り敢えずこれで軋轢第一弾は凌げたようだな。


ーーー


 その後、ギンガは新たな戦い方を得ていた。

『流水』

 ゴブデロが消えて、それを封印していた聖剣を全て帯びての戦闘だ。それでも使うのは両手の二刀のダイアグラス。

 訓練場で相対するゼロスとギンガだったが、一瞬で勝負がつく。

 以前は片手の剣で弾を弾くなり打ち返すなりしていたが(第41話 対戦訓練用ライドレール参照)、それが、まるで、ギンガという水を弾丸が通り抜けていくかのようだ。何の音もさせず、ただ真っ直ぐにゼロスに肉薄した。

 使い方がまるで違う。剣を振り、受け止めた弾を操作する時は足が止まっていた。斬撃もそうだ。弾を受ける事で体が止まっていた。それが全く揺らがない。弾丸がそっと軌道を逸らされただけで、それ以外の無駄な動きが一切なくなった。

 今のギンガはまるで水に弾丸を撃ち込んで止めようというのに等しい。ゼロスの思考すら挟ませない最速で最適の動き。以前とは別物だ。

「ハァ、ハァ、ハァ」

 だが荒い息を吐いているのは剣を突き付けられたゼロスではなくギンガの方だ。勝負が終わると荒い息を吐き、汗が流れる。そして膝をついた。

 ゼロスの賛辞も届かないようだ。ただ荒い呼吸と恐ろしい程の殺気を込めた瞳で周りを見渡す。そして呼吸が収まるとようやくいつものギンガに戻った。


「凄ぇじゃねぇか。ゼロス相手に圧勝だぜ!」

 俺が無邪気に喜ぶとギンガの顔にも笑顔が戻ってきた。

「ええ。後はこれを維持するだけ。体の全てを殺意に変える。自分自身さえ切り裂いて相手を切り裂く『流水』。私が私でなくなることで得られる境地」

「なんかヤバい奴じゃないのか?」

 それを聞いてギンガは噴き出した。

「そう、ヤバい奴。そうでなければあの赤鬼には勝てない。あとはこれをヤバくない程度にまで使いこなすだけ。簡単でしょう?」

「ああ。ギンガならすぐだな。もう赤鬼が出てきても怖くねぇな」

 俺は心の底からそう思っている。それが通じたのか俺の笑顔にギンガも応える。

「ええ。期待していて」


 アレスの方も何か考えがあるようだ。

『ストレングスアップ++』

 その名前だけではただのフィジカルアップストレングスと変わらないと思えるだろう。だが実際はヤバい奴だ。いわばヒーラー系の対神スキル。イモレーション系統。何かを捧げる事でそれ相応の見返りが得られる。

 ここでは自身の最大HPを下げて筋力超向上という、ゲームの火事場系だ。

 これは本来味方にかける物だが、アレスはそれを自身に使い、その効果を増大させている。ヒーラーが筋力を上げてもしょうがないが、勇者の様な名前付きの複合ジョブでは別だ。

 ギンガと模擬戦をし、同等以上の剣技を披露している。

 ストレングスアップ++の効果はもとより、今迄の経験に、自身のヒールの最適化など、ただ単体能力だけを突き詰めた戦い方が集大成となっている。


 二人の戦いが終わって一息ついている所に俺は一つの提案をした。

 聖母のスキルにある最大HP回復塔。

 正直なんに使うんだコレ? と思っていたが、イモレーション系統で最大HPが下がるならうってつけだ。

 アレスがストレングスアップ++を自身にかけると俺は最大HP回復塔を建てる。

 だが、それには期待した結果とは違う結末が待っていた。


 結果的に言えば減った最大HPは回復しなかった。

 だが代わりに恐ろしい程の強化能力がアレスに付与されていく。聖母の最大HP回復塔の効果が全て筋力に変えられていく。

 最大HP回復塔の効果をアレスに繋げるとギンガの腕前を筋力が凌駕した。打ち込む剣はいなす、逸らす、などの選択肢を相手に持たない。ギンガ程の達人でさえ、純粋な筋力の前に技量が追い付かない。

 ギンガが流水を使うと、辛うじてその剣先が逸らされた。その隙間を水となったギンガの体が剣をすり抜けアレスのプロテクションを吹き飛ばす。だが、その一撃のみ。残身を持たない体はアレスと相打ちになり、ギンガのプロテクションも崩壊する。


 俺が二人にプロテクションを掛け直すとアレスは『勇者の鼓舞』でギンガを強化した。本人の最適な状態を維持し続けられる勇者の鼓舞。それはギンガの流水を永続させ、二人は視線を交わしただけで剣戟に移る。

 流石に恐怖を感じた俺は後ろに下がった。

 その二人の剣戟の恐ろしさは、最早言葉に出来ない。ただ恐怖だけが打ち合っている。近づくだけでも絶命しそうだ。


 それは俺の最大HP回復塔の限界が来るまで続いた。

 この二人を止められる奴はもういないだろうな。

 だがそれでも、二人の顔は満足していない。

 ヤレヤレ、あの赤鬼は本物の鬼をこの世に産み落としてしまったな。

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