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第50話 シコレ・ギース

「人間どもは皆殺しデス!!!」


 その物騒なセリフはシコレ・ギルスから放たれた。

 ここは072の東側。定期的に襲撃がある地域だ。

 そこで俺はキャスターとしての資質があるシコレを連れて魔物の迎撃という訳だ。


「わたくし様に逆らうんじゃねぇんですよ! クソ人間ども!」


 だが実際戦いが始まってみればシコレは激変した。最初の内はキャスターとして魔法を撃っていたのだが、途中から豹変。魔法ではなくサイキック技を駆使して魔物達を一掃する。

 ただこのキャスターとサイキックも使徒の物では無い様だ。試してはいないが使徒にも誤射しそうだ。俺のストレージにもキャスターとサイキックの項目が増えない。やはり使徒とは仕様が違う様だ。


「シコレ。お前、魔物を人間呼びするのはどうよ?」

 俺は警戒しながらシコレに話しかける。いつ魔物に戻ってもおかしくないからな。

「何故デスか? 人間どもを皆殺しにするのがわたくし様たち使徒の使命なのデス!」

「呼び方。魔物にしてくれ。魔物に。人聞きが悪くて仕方がねぇよ」

「シコル姉様がそういうならしかたないデスね。わたくしたちは魔物どもを一網打尽にして差し上げますわ!」

 そういうとまたキャスタースタイルに戻る。

 二重人格じゃないみたいだな。単純に口調でスタイルを変えているようだ。俺はシコレを援護しながら周りを見渡す。相変わらずの定期襲撃だな。多少数はばらけるが俺達名前付きが出張るほどの襲撃は起こっていない。アレスも同行しているが使徒の援護に回っている。

 しかし聖母のソルジャー+ヒーラーはシコレとの相性がいいな。単純にキャスター系を守り易いのは勿論、ウォールで味方の進路を塞いでシコレの誤射も防げる。現状シコレの攻撃が使徒に当たった場合、何が起こるかわからない。

 そしてシコレの動きも多彩だ。キャストをしながらサイキッカーのレビテートとテレポートで移動しながら魔物を追っている。俺がソルジャーでライドレール系の移動スキルがあるから援護できているが、普通のヒーラーなら追い付けないな。

 シコレもそれがわかっていて俺を頼っている。そうでなければキャストしながら空中移動などと言う危険な行動はしないだろう。俺はシコレの動きを読みながら敵を片付けていく。

 そういえば魔物に弓系統が見当たらないな。それもさもありなん。侵攻ではMPがカツカツで矢の補充が出来なく、取り付いた時には弓矢などいらない。余程の名手でない限り使う事は無いだろう。使徒に関しては銃がある。もしも弓矢を使うのだとすればGではないこの世界の物質を使った武器だろうな。だがアレグシオンの例もある通り、Gではない銃火器は存在する。

 まあ、アーチャーのようなジョブがない限りは誰も使わないだろうな。


ーーー


「わたくし様とシコルママが居れば何も怖くないのデス!」

 いつの間にかママにされた俺はシコレの頭を撫でまわす。

「よくやったぜシコレ。ほ~れほれほれ、おっぱいも吸うか?」

 撫でられて気持ちよさそうにしているシコレを抱きしめる。

「欲しいのデス! シコレママのおっぱい下さいデスます!」

「ほーれほれほれ。いっぱい吸え。俺の子供になってしまえ~」

 これはほんの冗談だったのだが、その後に問題を起こしてしまった。


ーーー


「シコルママはウソつきなのデス! わたくし様におっぱいを下さり子供にしてくださると約束したのデス!」

 ここは夕食の食堂。四人掛けのテーブルにシコレ用の椅子を足した五人で談笑中だ。ギンガは興味深そうに、アレスは困ったように、ゼロスは無反応だ。

 俺はしどろもどろに言い訳をする。

「いや、ほんの出来心だぜ。即席チームで最高のフィーリングだったからな。俺の子になってしまえってな」

 ギンガは、

「シコルが悪い」

 アレスは、

「シコルさんのせいですね」

 ゼロスは、

「俺は構わねぇぜ。相性は抜群だろう」

 そして調子に乗るシコレ・ギルス。

「御覧のとおりなのデス! 今日の一夜はシコルママとギルスのものなのデスます!」

 ヤレヤレ。

「俺はいいけどな。シコレ・ギルスをうちの子にしてしまってもいいのか?」

 俺はアレスに尋ねる。魔物の使徒化洗脳だ。何が起こるかわからない。

「はい。寧ろ宿舎は安全ですね。ここは使徒専用です。使徒でないものはいられません。ある意味安全な選択です」

 なるほど。シコレ・ギルスが魔物に戻っても安全という訳か。

「じゃあシコレ。俺の所に来るか?」

「勿論なのデス! ここでシコレママの子供になるのデス!」

 足の届かない椅子で足をバタバタさせて喜ぶシコレを見ていると悪い気はしない。これがただのチルドレンであれば、だが。


ーーー


 俺とシコレは俺の自室にやってきた。

 シコレ・ギルスは使徒判定だが、まだ自室はない。まだ仮使徒の段階だ。

「シコルママはいい匂いがするのです」

 早速ベッドに腰掛ける俺の胸にシコレが飛びついてくる。

 俺はそれを抱きしめ、頭を撫でながら思考を巡らせる。

 シコレ・ギルス、いやシコレ・ギースは使徒に魔物球体を撃ち込んだ張本人である可能性が高い(第33話 棺参照)。俺の似姿、キャリオンクローラー計画の首謀者。俺だけじゃなく、他にも犠牲になったものは多い。仮に俺が許しても、これを知った使徒たちがどう動くか。その時、俺はシコレを守れるんだろうか?

 俺を人殺しにしたシコレ・ギース(第24話 浄化神マスターゴッドゼロス)。何の罪もない使徒を、幸せそうなカップルを地獄に落し、俺にそれを殺させた。

 俺にそれを許せるのか?

「シコルママ? どうしたのですか?」

 シコレが不安そうにこちらを見ている。その青い瞳は、ただ真っ直ぐに俺を見ていた。

「ん、ああ、俺はお前を、シコレ・ギルスを守れるのかなって、な。戦闘だけじゃなくて、実家からさ」

 実家、それを聞いたシコレの顔が曇る。

「・・・わたくしは、帰りたくありませんわ。あんな、人間どもは皆殺し、デスます。殺したりないのデス! もっともーーーっと人間を殺してやるのデス! シコルママ。わたくし様はもーーーっとシコルママの役に立つのデス!」

 シコレの顔が歪んだ笑顔に変わる。

 それは、心からの笑顔ではなかった。悲しいような、苦しいような、自分でも理解できない作り笑い。

 それは無くした自分を、無理やり作り上げたような、作った笑顔だった。

 「シコレ、俺の事、守ってくれるか? 戦いだけじゃない。俺の心を守ってくれるか?」

「と、当然なのデス! わたくし様に任せておけば全部万端なのデスます!」

 俺はその言葉とシコレの瞳を見て決意する。

 そっと抱き寄せて額にキスをする。

「シコレ。だったら俺もお前を守る。お前の心を。

 俺、聖母シコル・ギウスはシコレ・ギルスを愛するぜ。

 シコレ、俺の娘になってくれるか?」

 シコレは少し呆けた後、しっかりと頷いた。

「勿論なのデス! わたくし、シコレ・ギルスをシコル・ギウスの娘にしてくださいまし!」

 その笑顔を見て俺は頷いた。

 マタニティ機能を使い、俺の胸に、母乳の機能を追加する。

 その気配にシコレは酔いしれる様に俺の胸に倒れ込んだ。

 膨らむ俺の胸をはだけると、シコレの唇が母乳を吸い出す。少し苦しそうな体勢のシコレの上半身を抱きしめ、首元を軽く支える。所在なさげだったシコレの手が胸の前で組まれる。この体勢で正解な様だ。

 しばらく飲むとケプッと空気を吐き出し、もう片方の母乳を求めてきた。

「わたくしが終わった後は、わたくし様なのデス!」

 そちらも同じような体勢で吸い続ける。

 それがすっかり吸い終えたころには、シコレの瞼も吸い付くように閉じられた。


 俺は衣服を正すとシコレの体を寝かせる。

 これが正しい判断だったのかはわからない。それでも、俺はシコレを手放したくないと思った事は本当だ。例え、これが最悪の結果になったとしても、その心は裏切らないでいたい。

 そんな事を考えながら、俺は眠りについた。


ーーー


 俺は何処かで聞いた幻聴の夢を見ている。


 何回やっても何回やってもイベント進まない~♪

 誰よ072にイベントやったの許せな~い♪

 なのに切り札全部おじゃんおじゃ~ん♪


 切り札? シコレ・ギースの事か?


 このままだったらこのままだったら最終兵器でおじゃんおじゃ~ん♪

 何とかしないとおじゃんおじゃ~ん♪

 盟主イベントおじゃんおじゃ~ん♪


 盟主? 次の名前付きか?


 そうそうシコシコルギウス次はあなたの夫おじゃ~ん♪

 そろそろヤバいのでるおじゃ~ん♪

 いい加減覚醒しておじゃんおじゃ~ん♪


 ゼロスが次の名前付き『盟主』って事か?


 そうそうだからシコシコルギウス大好き~♪

 それがなったらイベント終了さようなら~♪

 出来なきゃシコシコルギウスがさようなら~♪


 俺を脅してるのか?


 ホントにヤバいのシコシコルギウス全滅シナリオあり得るの~♪

 盟主が立てば全部お~け~イベント終了~♪

 出なけりゃ難易度爆上げ生還率1%シナリオ始まるの~♪


 その保証は?


 保証はないけど確証は与えるの~♪

 チャイルドジョブの親使用可能を先行配布~♪

 これで信じてシコシコルギウスこれだけ~♪


 あんたが神なら聞かせてくれ。

 シコレ・ギースはこちらに入れられるのか?


 それはそれはねシコシコルギウス少し待って~♪

 お~け~お~け~イベント報酬シコレ・ギウス~♪

 使徒化申請通せるから次の日には使徒確定~♪


 随分破格だな。


 それだけ急務でも気を付けて次で絶対死なないで~♪

 シコシコルギウスが関わるとイベント難易度爆上げだから~♪

 イベントに絡むと死神になるよシコシコルギウス~♪


 マジかよ。


 マジマジ生存確率5%を切り抜けたシコシコルギウスが関われば~♪

 次は生存確率1%イベントゴリ押し確定~♪

 それでも乗り切るシコシコルギウスはもうイレギュラ~♪


 それ俺一人じゃないだろ。


 シコシコルギウスが来れば全員動く名前付き~♪

 こんなの生存確率1%でも崩せないな~い♪

 イベントに関わる時は慎重にね~♪


 わかった。でもありがとうな。助けてくれたんだろ?


 それはお互い様様シコシコルギウス~♪

 これはただの夢だけど次は本気でヤバいから~♪

 終わらせ方は盟主の誕生覚えておいて~♪


 ああ。覚えておくぜ。


 俺の言葉で夢は途切れる。


 夢の予言か。これは説得で苦労しそうだ。

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