↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/65

第49話 似姿

 俺は072の平穏を見守っていた。

 本来なら休暇の予定だったが、俺が歩くとイベントに当たるらしい。


 俺は屋根の西洋瓦の上を音もなく走っていく。

 良く晴れた昼。気持ちのいい風。

 そんな中、それは現れた。


 魔物球体。

 それの発生が俺の嗅覚を伴って目に写る。

 肉眼では米粒大だ。しかも遮蔽物越し。ヘカトンはまだ起動していない。

 だが俺にはわかった。

 左腕が肥大化し、サイボーグのホーミングレーザーが現れる。

 以前は人の腕の形をしていた小型ホーミングレーザーが完全な砲身形態で真上に伸びていく。俺の左手が俺の身長を超えるほどの砲塔と化し、砲塔から放たれた数本のアンカーが屋根に撃ち込まれる。そしてゆっくりと砲身が降り、標的に向かって狙いを定める。

 俺は片膝をつき射撃体勢を取る。ENレーザーが砲身内を駆け巡り加速、凝縮するのに合わせて周辺が暗くなる。俺のイメージ内にあるサイボーグの姿、単眼のオオカミヘッドが俺に重なる。俺の頭に覆いかぶさり視界を共有する。

 そして俺の存在が消えていく。まず左腕のサイボーグ砲身が鳴りを潜め闇に溶ける。そして俺の体も。心音が消え、呼吸が止まり、そこには誰もいなくなる。

 そして世界には敵だけが残った。

 魔物球体。俺が潰すべき敵だけが鮮明に見える。

 俺が俺を取り戻すにはこいつを殺すしかない。

 この存在を消し去るまで、俺はこの世界に存在しない。

 俺は音もなく、静かにトリガーを引く。

 そして世界は元に戻った。


 俺のENホーミングレーザーが魔物球体を貫く感触。それと同時に俺の存在が返ってきた。静かに呼吸、心音を確かめる。そもそも止まってはいない。消えてなくなっただけだ。それが戻った。

 だが俺の左腕はうなりを上げている。ガシャガシャと音を立て砲身が伸び、展開されたバイポッドが屋根に突き刺さる。俺に重なっていた単眼のオオカミヘッドのイメージが左腕の銃口に乗り移る。口を広げ、その牙が剥き出しになる。そして額ではなく顎の下が膨らみだし、もう一つの単眼が目を覚ます。

 額と喉元に単眼を持つオオカミヘッド。上下双頭の単眼狼。その開かれた口はどちらも上顎だ。食らいつき、噛みつくのではない。決して得物を逃がさないための上下両上顎だ。

 その瞳が俺に次の得物を教えてくれる。

 走り去ろうとする、ピンクのふわふわウェーブ。つば広帽子と深窓の令嬢を思わせるブラウスとロングスカートのシンプルな組み合わせ。俺に似た姿の女の子。

 俺に魔物球体を撃ち込んだ女装姿の俺の似姿。

 俺の幻覚では無かったな。俺の左腕がその匂いを覚えている。

 俺は再度構えるとその存在を強固にしていく。さっきまでのような消える感じではない。逆に強固に存在を知らしめ、獲物に俺の位置を知らせる。その瞳がこちらを見据える。ピンク目の俺と同じ顔。

 ならこいつはシコレ・ギルスでいいか。その瞳を上下双頭の単眼狼が捉える。シコレ・ギルスは一瞬の驚愕の表情をした後、その視線が俺から離れない。ただ目を見開いて、視線を背けることが出来ないでいる。

 俺が手綱を離すと放たれたENレーザーが赤く染まり、シコレ・ギルスの中心部を撃ち抜く。丁度心臓の横。ENでなければ穿てない何かがある。そして俺のイメージは、シコレ・ギルスの首に牙を立てる上下双頭の単眼狼だ。横向きになり、その上下の単眼がシコレ・ギルスの視線と絡んだ。


 そこで俺はボス発見の警報を072に流す。この左腕はいわば単体専用。今撃っているのは右腕ホーミングレーザーでいう所の竜の息吹と言ってもいい。これほどの威力で死なない時点で異常事態だ。

 案の定耐久値が消し飛んでも存在している。

 このシコレ・ギルスもイベント用で死ない奴か。


ーーー


 忌々しい。

 俺がいら立ちを感じると上下双頭の単眼狼の喉の奥から、血に塗れた白い左腕が伸びていく。それがシコレ・ギルスの喉を掴むと、俺がシコレ・ギルスの目の前に居た。

 ? なんだ? 何が起こった?

 俺が左腕を構えながらシコレ・ギルスの目の前に立っている。

「神の理を殺せ」

 ? これは俺の声だ。俺の喉から発せられた。

 そして右腕のサイボーグホーミングレーザーが姿を現す。即座にカバーが展開し、それが砲身の周りを覆う様に回転を始める。これは始めて見るパターンだ。

 俺のイメージの竜の頭は既に喉元まである口を開き、その牙を立てんとシコレ・ギルスに迫る。その咆哮を轟かせる先を見定めると、そこで止まる。

 しかしこちらも左腕同様、それでは止まらなかった。血に塗れた黒い腕が喉の奥から現れシコレ・ギルスの首を絞める。

「神を殺せ」

 俺は左の血に塗れた白い腕と、右の血に塗れた黒い腕でシコレ・ギルスの首を締めていく。そして胴体部分、『ヒツギ・ギルス』のリクエストがどこからか届く。

 これはなんだ? 誰がヒツギ・ギルスを求めている?

 これは現実か?

 どれが現実で、どれがイメージだ?

 それとも俺は白昼夢を見ているのか?


「シコルさん!!!」

 俺は何かを、これはアレスの『勇者の鼓舞』だ。意識がはっきりとしてくる。

「MPです!!! MPを最大限に回復してください!!!」

 俺は反射的にMP強化塔を全て立てると俺に集中運用をする。

 おお!? MPがマイナス!? こんな事があるのか!?

 凄い勢いで回復していく俺のMPを感じながら俺は事態を把握する。この左腕だ。こいつがMPを肩代わりしていた。それがMPのマイナスという状態を保持していた。それが解消され、俺の意識が更にはっきりとしていく。


ーーー


 まずは現状把握だ。


 俺は両腕をサイボーグのホーミングレーザーに変えている。そして構えている。左腕は発射状態。右腕は発射待機状態。場所はシコレ・ギルスの目の前で間違いない。

 ワープしたのか、足で移動したのかわからないが、間違いなく俺はシコレ・ギルスの目の前に居る。

 そしてこの血に塗れた白黒の両腕は俺のイメージ。実際には何も起っていない。俺の目には映っているが、ヘカトンのセンサーには映っていない。シコレ・ギルスの首元にも首を絞める手の跡などはない。少なくともヘカトンの視点ではその様な物は見えていない。

 だがこの血に塗れた白黒の両腕が握りしめているものは存在している。魔物球体を見通せる性能を持っているヘカトンでさえ認識できない。この白黒の両腕は俺のイメージだが、それが握りしめている何かは存在している。

 シコレ・ギルスの首に何かがある。シコレ・ギルスの耐久値の核は体の中心部、心臓の横にありENレーザーが攻撃し続けている。

 ならばこの首にあるのは神の理か? 神の理であるイベントを強制させるための何かがある。シコレ・ギルスが死なないのはこの神の理のせいだろう。そしてこの血に塗れた白黒の両腕はそれを破壊できる。そして、それをしようとしている。


 これは、すべきではない。


 俺はそう決断する。それを感じたのか、上下双頭の単眼狼とドラゴンヘッドの視線が俺に向く。

 獲物を逃がすのか? とその目が問いている。

「俺が飼い主だ。俺の指示に従え」

 俺は餌代わりのMPをコイツラに供給すると、元に戻れと命令する。

 しぶしぶといった感じで強化状態を解いていく両腕。左腕が縮小し、右腕はカバーによって封印されていく。

 しかしヤバいなコイツラは。仕様を知らないと危険でしょうがない。さっきのMP肩代わりもMPマイナス状態で解除すればMP代わりに魂を持っていかれていた所だろう。

 誰もサイボーグを使わないわけだ。


 いうなればサイボーグは神々と戦うための兵装。自身の存在と引き換えに神の理である、神のイベントを破壊できる。言わば自爆技だろう。

 だがヒツギ・ギルスを召喚できればMPマイナス状態を維持し、俺の消滅は起こらない。こいつらなりに召喚者を殺したいわけでは無さそうだな。

 理屈はわかるがとんでもないことをしてくれるもんだ。神々と戦う兵装。それに連なるサイボーグ兵器には最大限に警戒する必要があるな。俺が聖母でなかったら大惨事だった。

 つまるところ、この両腕のホーミングレーザーサイボーグ腕は二つで一つ。左が神を捕らえMPマイナスの肩代わり。右がとんでもないMP消費で神を理ごと破壊する。そしてMPマイナスでサイボーグを解除すれば、術士はMP分の魂を食われてほぼ即死するという訳だ。

 正に魂をかけて神を理ごと破壊する対神々専用兵装。誰もが忌避する理由だな。


 それにしても左腕ホーミングレーザーにアンカーなんてあったんだな。

 その危険性とは別に俺は暢気に考える。

 最小状態にすればハンドガードの握りや、マガジンの交換は出来そうだ。サブウェポンとして使っても良いな。手綱さえ握れていればの話だが。


ーーー


「助かったぜアレス」

「はい。それよりもこれは何でしょう?」

 俺達の前にはシコレ・ギルスが倒れている。

「アレスにも俺の姿に見えているのか?」

「はい。7thパレスの現身とは違いますね。僕にも女装したシコルさんに見えます」

「そうだよな。俺が女装した時のシコレ・ギルスだよな。こいつも首を落して封印するしかねぇか。魔物球体の発生源だもんな。ある意味ゴブデロより質が悪い。

 にしても一体全体なんのイベントなんだぜ。イベントが起こるまで放置してたら072が陥落するじゃねぇか。そんときゃ神殺しの叛逆者になるしかねぇな」

「めったな事を言わないで下さいよシコルさん。しかし度を越しているのは確かです。少し試してみるしかありませんね」

「何をする気だ?」

「洗脳です。そのままの意味です。この魔物をこちらの陣営に寝返らせます」

「ちょ!? マジかよ!? 勇者の力かよそれは!」

「そうです。神を信じる使徒には祝福を。そして神に従わない者を従属させます」

「・・・お前が勇者の力を嫌う理由がわかって来たぜ。だけどなんでだ?」

 つまりなんで洗脳なんだって意味だ。あまりその言葉を口にはしたくない。

「コレが神の意図であるかの確認です。コレがこちらの神の仕業であれば僕に警告が来るでしょう。その時は神は僕らの敵になります。ですが名前付きをそう簡単には魔物堕ちには出来ないでしょう。なにせ僕らがいるのは『囚神監視惑星』なのですから。その行為が正しいかどうかのジャッジは常に入ります。そしてこれは神の使徒として正しい行動です」

 いや、いくら『衆神環視惑星』って言っても所詮リスナーだろ。運営を動かせるとは思えねぇが。アレスの行動は運営を試すプレイヤーそのものだ。

 運営、つまり神を試している。

 そんな俺の思いとは別にあっけらかんとした様子でアレスは話す。

「シコルさん。可能性の話です。コレは魔物でしょう。まずありえませんよ。警告にしても魔物をこちらに引き入れるというな、という類でしょう。神への叛逆なんて口にしない方が良いといういい見本ですよ。驚かせてしまいましたか?」

「冗談には聞こえねぇが本当にやるのか?」

「はい。そちらは。これで情報が手に入るといいんですが、壊れてしまったら廃棄してしまいましょう」

 さらっと恐ろしい事をいう奴だな。

 アレスはシコレ・ギルスの頭を掴むと何かをしていく。俺は周囲とコイツの警戒だな。


ーーー


「人間は全て殺せ。皆殺しだ」

 俺はぎょっとしてアレスの方を見やる。今のはアレスの声だ。

「おいアレス! 大丈夫か!?」

 アレスの目が俺を捉える。敵意と憎しみの満ちた目。

「シコルさん。集中してるんで話かけないでください。これは大丈夫な奴です」

 だがアレスの言葉には問題がない。

 その後も物騒な言葉が聞こえてくるが、取り合えず操られているような感じはなさそうだ。洗脳の為に魔物に同調しているのか?


「カハッ」

 しばらくすると息を吹き返したような、可愛らしい咳き込み音が聞こえる。

「お兄様? わたくしはどうしてこんな所に?」

「シコレ。もう大丈夫だよ。僕が付いている。安心して」

 俺がその声の方を見ると、シコレ・ギルスの様相が変わっていた。体が一回り小さくなり、髪は赤いウェーブ。その瞳は淡い青。まるで瞳の赤身が髪に乗り移ったかのようだ。ぶかぶかになった洋服をきゅっと締め付けている。

 それよりもアレスがまるで王子様みたいな対応だ。まさかこいつの趣味なんだろうか。

「君はシコレ・ギルス。遠縁にあたるシコル・ギウス御姉様の所へ預けられたんだ。僕は君の世話係のアレス・カリバーン。これから君と寝食を共にする。よろしくね」

 いや、ガッバガバじゃないですかアレスサン!?

 だがそれを聞いたシコレ・ギルスはポッと顔を赤らめて頷く。

「よしなにお願いいたしますわ。アレスお兄様」

 いいんすかそれ!?

 俺は心の動揺を出さないようにする。

「じゃ、じゃあ、アレスにお任せしてもいいのかな?」

 俺のキャラはどういう設定なんだよ。先に言っておけよ。

 俺は探り探り会話をしていく。

「ではシコルさん。しばらくシコレさんを預からせてもらいます」

 去っていくアレス。シコレはまるで俺に怯える様にアレスにしがみつく。まあさっきまで殺し合っていたんだ仕方ないが。

 これはこのまま行かせても良かったんだろうか。

 まあ、アレスを信用するしかないな。


ーーー


追加Tips ヒツギ・ギルス

『第33話 棺』のシコルが呼び出した胴体使用のサイボーグ。

『第34話 再降臨』では暴走して戦闘モードになっていた。

妊娠関連削除に伴い説明をカットしたのでここで記載。


追加Tips 今回の話の説明

ザックリと言うと腕サイボーグの暴走にシコルが巻き込まれた感じ。

魔物球体を即座に排除。本体もいるからついでに潰す。そして殺せないから神の理の破壊。

MPマイナスによる術者の崩壊も、ヒツギ・ギルスがあればシコルは何とかなるだろう的な判断で暴走。

あくまでシコルに対する善意(シコルの敵の排除)で動いているが度が過ぎた感じ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。