第45話 二日目冒険者
1th元地下ダンジョン二日目。
下層に続く大岩に降りると俺達は装備のチェックをする。
ファイターのシルドは既存のままだが、キャスターのマギカとヒーラーのリストには銃を持たせている。これはジョブチルドレンだからこそ出来る芸当だ。自衛、もしくは援護用に銃とマガジンを事前に召喚して装備しておく。これで実質MPを装備しているようなものだ。
マギカはサブマシンガン。これは完全に自衛用だ。接近されたら即座に抜いて射撃。片手持ちでばら撒けてコンパクト。変にショットガンを使うよりも取り回しがいい。
メインは状態異常ビンだ。やはり銃の誤射が一番大きい。変に射撃に集中するよりも周りを見渡す方向だ。状態異常ビンなら前衛のシルドが魔物に取り付かれてもそのまま投げつけられる。味方に状態異常がかからないというのはやはり強力だ。
魔法は大物用。雑魚には使わない方向だ。
リストは大口径レーザーガンに大容量バッテリーを左側に付けている。正直大型のレーザーハンドガンなんて使い道がないと思ったが、メイン武器として中距離で攻撃力を求めるのならベストだ。そしてトリガーは徐々に威力が上がっていくタイプだ。これで誤射をしても被害を最低限に抑える事が出来る。レーザーライフルのように軽く引いてポインター、引き切って全力射撃とは違うタイプだ。
自衛できるヒーラーだからこその選択だな。杖槍で近接、ヒーラーのバリアーもある。衝撃力の無いレーザーでも問題ないだろう。
俺達はまた下から登っていく。
今回も順調に進み中部屋へ。ミノタウロス3体がお出迎えするホールに来た。
ここはこの元1th地下ダンジョンの時も天井の高いホールだった、逆さまになった今も天井が高いという事は、内部が変形している可能性が高いな。神の建造物が異常をきたしたまま機能不全という事は無い様だ。
俺達は二手に分かれる。
俺はウォールを立て、ライドレールを出現させてリングサイボーグ足でその上に。ウォールは敵味方の全ての攻撃を防ぐが魔物は登ってこれない神仕様だ。天上の高いこの環境ではうってつけ。そこで俺が最初に俺がヘイトを受け持つ。かかったのは一匹。大斧を投げつけたりとこちらを狙っている。
そして二体がシルドたちの方向に。シルドが前衛、リストがシルドを強化しながら中衛、そしてマギカは歌っている。
歌っていると言ってもこれは魔法詠唱だ。なんでもキャスターのキャストは正確な発音が必須らしい。これを間違えたり下手にすると威力や効果にデメリットが発生する。逆に効率よく、正確に発音することで発動を速めたり威力の増強も行えるという事だ。それが歌という形が一番安定する。そういう事らしい。
そしてシルドは光波を使いヘイトを取る。
斬撃系の光波は威力があるが故にヘイトを引きやすい。衝撃系の光波は敵を止めるためだ。
斬撃光波でヘイト。衝撃光波で敵をスタンし敵をコントロール。 盾でミノタウロスの攻撃を受け止める。
理想的な程、理想的なタンクの動きだ。
見た目が完全に勇者だな。本職の勇者のアレスはヒーラー寄りの動きで敵を止め、味方を活かす方向で動いていた。敵の攻撃を受け止めるという戦い方はしていなかったな。
だがそれはリストの動きでその理由が知れた。
リストは下手にレーザーを撃たずにヒールを使っている。
『ヒール』
それは存在するし、俺も使えるが、使い処がなかった。
それというのもこのヒールは種類が多い。肌ヒール、筋肉ヒール、骨ヒール、内臓ヒール。そこから更に枝分かれし、右腕上腕筋ヒールや、昏倒した時用であろう脳ヒール、そのほか心臓ヒール、肝臓ヒール、もうええわ! となるわけだ。
これなら素直に『リザレクション』で纏めて直せという訳だ。実質ソルジャーは防具がない。被弾即瀕死だ。となればリザレクションが最適解。ヒールを使う価値がどこにもないわけだ。
だがリストはヒールを使っている。それはシルドが左腕の盾で一撃を防いだ時、剣で切りつけた時、その動きに合わせて最適解なヒールをかけている。それ故にシルドが常に全力で戦えているのだ。そしてヒールはリザレクションと違って地味でヘイトを引かない。特にリザレクションは対象者が回復中は魔物から見えなくなる(第5話 アレス参照)。それ故に使えば術者がもろに狙われる。このパーティでは逆に使えないだろう。
シルドが暴れまくり、マギカの魔法が完了する。
「ファイアストーム撃てるよ!!!」
それを聞いてシルドの動きが変わる。二人の防衛ではなく二人と自分でミノタウロス二体を挟み込む様に陣取る。そしてマギカの魔法『ファイアストーム』が炸裂する。マギカの杖から放たれた火球がミノタウロスの一体に命中し、轟音を上げて炎嵐が立ち上る。それはシルドとミノタウロスを巻き込むが、シルドには何の効果もない。そう、キャスターの魔法は使徒には効果がない。標的でない方のミノタウロスが退避するのに合わせて、シルドとリストが直撃した方のミノタウロスを始末する。
完璧で危なげが無いな。
俺をそれを横目にみながらミノタウロスの方を見る。ウォールの上にいる俺に見切りをつけてシルドたちの方に向かおうとするミノタウロス。
つれないな。
俺は腰を落とし構えると両手を前にし左腕のレバーを握りこむ。全力で回転を始めるハンドバッグのガトリング砲身。それがジャイロ効果を持って更に安定するのを待って、俺はトリガーを引く。
途切れの無い銃声が鳴り響き続ける。拳銃弾とはいえ、同じ所に千発入れて効かないことはないだろうな。左肩が完全に砕け、俺の方に向き直ったミノタウロスが動かない左腕をものともせず右腕の大斧を投げつけてくる。
これはマズイ。
俺はハンドバッグを投げ捨てると横っ飛びに避ける。そのままウォールから落下。踵から足を着くが、異音がして右のサイボーグ足が踵のリングの不具合を報告してくる。
この程度で壊れるのか!?
それと同時に左足の左リングの攻撃可能表示。それが指示待ちの報告も届く。
俺は左ブルパップを構えながら、攻撃指示を解放する。踵のリングが巨大化し、俺の足の甲と脛にめり込む。一瞬パニックになるがサイボーグ足に痛覚はない。何より仕様の範囲内だ。そしてつま先立ちになる俺の足。
・・・まて、もしかしてこのリングは攻撃用で踵をつけてはいけなかったのだろうか?
ライドレールに最適だからそれ専用の脚部サイボーグだと思っていたが、そもそもライドレールなど俺以外が使えるのか怪しい所だ。運用方法を、間違えていたようだな。
回転を速め、飛び上がるリングサイボーグ足。その左足がミノタウロスに近づくと更にリングが巨大化し、足の甲を超えて足先に巨大なリングを履いた形になる。そしてミノタウロスの右腕を切断。そのまま右足でミノタウロスの体を蹴ると左足のリングで首を切断。そしてリングが縮小し、俺はつま先から着地する。これが仕様だと言わんばかりに完璧なショックアブソーバーだ。
ヤレヤレ。このリングサイボーグは大人しい方だが、俺の間違った使用方法には不満を持っていたようだ。
さて最後の一匹となった所でミノタウロスが鎧を顕現する。鎧の召喚魔法だ。こけおどしかと思ったが、俺のブルパップサブマシンガンの弾丸が跳弾する。慌てて俺は射撃を停止。跳弾は間違いなく味方に当たる。リストがレーザーガンで攻撃しているが赤熱するだけですぐに収まる。間違いなく軽減されているな。
シルドの剣戟も光波も効きが悪い。そこで一番効果的だったのはマギカの魔法だ。再度放たれたファイアストームは召喚魔法の鎧を完全に無視して本体を焼き尽くす。
これは・・・。俺はマギカの魔法で倒れ伏すミノタウロスを見ながら心の中で嘆息する。
魔物の召喚鎧が銃弾を弾くなら、これからは魔法も視野に入れていかないとマズイか?
そろそろソルジャー編重構成にピリオドが打たれそうだな。既存ジョブの安定性は組み合わせによって機能する。ソルジャーは単騎遊撃、または同ジョブで固まる事で真価を発揮する。今回のような鎧付き、そのほか遠距離に対する対処が出てきた場合、ソルジャーの武器や編成も一度見直した方が良さそうだな。
ーーー
そして帰路。俺達は追われていた。
ゴブリンデーモンロードことゴブデロだ。
俺はプロテクションを全員にかけ、バリアーで敵の攻撃を防ぎつつ後退していく。
そして要所でウォールをかけ時間稼ぎ、上には行けない。下から脱出し、一気に頂上という流れにしたいが。奴の追撃が思った以上にしつこい。
そして直線の通路。
ここしかないか。
俺はウォールを何重にも重ねると聖母のMP強化塔を全て立てる。
「シルド、リスト。俺の隣で俺をガードしてくれ。頼めるか?」
二人が頷く。それを確認して俺は右腕サイボーグのホーミングレーザーを呼び出す。竜が俺の右腕を飲み込み、笑う様に口が開いていくイメージ。俺の右腕は砲身化し、カバーが展開。既に全力展開。MPの最大化も順調。MPは既に全回復。後はウォールを破るゴブデロを待ち構えるのみ。
「三人とも聞いてくれ。これでゴブデロは倒せない。俺が撃ち切ったら即座に外に出るぞ。マギカ。特に後ろ。退路に敵が居ないか確認してくれ。マギカの攻撃はそっちが最優先だ」
マギカの返事が返ってくる。これで後ろは問題ないな。
そしてゴブデロが現れる。
俺は竜の手綱を離した。その視線となるホーミングレーザーがゴブデロに突き刺さり、銃口から放たれたアギトレーザーがゴブデロを捉える。そして展開したカバーが回転を始めると、そのレーザーの本流がゴッドゴーギャンフルヘルスキャノンに匹敵する龍の吐息を発生させる。それが延々と垂れ流されゴブデロを削っていく。
ーシコル・ギウスオンラインー
またサイボーグ経由で何かが繋がってくる。
表示されるゴブデロの耐久力。これを信じても良いものか。今回はアギトレーザーがゴブデロを捕らえている。その感じと、この表示は相関関係を持っている。間違いではないようだ。
ゴブデロの耐久値がゼロになり。その先はただ揺らされるだけ。それでもその存在は消え去らない。だが動きは止まった。
俺は展開したカバーを戻し、アギトレーザーを持続式にし、残るエネルギーの限りゴブデロに噛みつかせ続ける。そして右腕を完全封印。腕を元に戻すとMP強化塔も消す。
「ずらかるぜ!」
俺の合図で走り出す俺達。外までは後少しだ。
ーーー
俺達が外に出ると外にも魔物が溢れていた。
俺は地上までのライドレールを構築すると足をリングサイボーグ足にする。
「全員掴まれ! どこでもいい! 顔を掴んでもいい! 絶対に放すな!」
それを合図に纏わりついてくる三人。俺はヘカトンも起動し三人を押さえる。こいつのお陰で目を閉じてても周りが見える。
そしてライドレールにリングを接地し加速する。だがこのスピードでは逃げ切れない。俺は一度足を離すとリングを大型化する。踵から足の甲までの大きさに変える。そして再度レールに足を着き加速。足首は動かせないが速度は上げられる。
だがそれに耐えかねてマギカの手が離れ・・・、俺の髪をじか掴みだ。助かったと思いきや、俺と目が合ったマギカが手を放そうとする。
「手を離したら殺すぞ!!! 死ぬ気で掴めマギカ!!!」
その言葉で放そうとしていたマギカの手が必死に掴み、上ってくる。
ヤレヤレ。あと少しだ。耐えてくれよ俺の毛根。
そして地上に飛び出し、俺達は唖然とする。
魔物の大攻勢。その只中だが、まだギルドカーは無事だ。
そのままギルドカーにライドレールの直行便だ。俺はギルドカーに乗り込むとヘカトンで周りの敵を薙ぎ払う。
「シコル! ゴメン!」
「後だ後! 全部後だ! 警戒しろマギカ!」
それを言うなら俺だ。まさかこんな危険な状態になっていたとはな。着いていって正解だったぜ。
俺はギルドカーを飛ばす。だが魔物の追撃は来ない。あの大群が足踏みしている。
あのゴブデロを行動不能にしたのは正解だったな。野放しにしていたらコイツラの進軍に飲み込まれる所だったぜ。




