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第42話 シンデレラ

※衣服の描写は問題がありそうなので避けます。


 俺達はゼロスの私室に居た。

 俺はベッドに腰掛けて、左足をベッドの上に乗せている。その前には片膝立ちのゼロス。なんでこうなったのかは説明するまでもない。俺が望んだからだ。

 俺の望みをゼロスに問われ、ギンガとのやり取りを話す。シンデレラの様に、靴を履かせるように撫でて欲しい。

 そんな俺の望みを何も言わずにゼロスは実行する。

 この体勢の時点で、俺は顔から火が出そうなほど赤くなっている。なんでこんなことを望んじまったのか。後悔が頭を駆け巡るが、ゼロスの手で俺の左足がそっとベッドから降ろされるとそんなものは吹き飛んでしまった。

 俺の左足が、ゼロスの左手で先端を裏から掴まれ、右手で踵と足首を撫でてくる。

「シコル。泣いているのか?」

 自分の手で顔を撫でると確かに泣いている。俺は口元を覆いながら責めるような視線をゼロスに送る。言葉を発したくても喉から声が出てこない。

 それを見たゼロスが更に手を進めて、右手を足首からふくらはぎに、左手を足裏から足の甲に。そして足の先を何かを履かせるように撫でていく。

 ゼロスの手の感触という名の靴を履かされた左足がベッドの上に。

「シコル。もう片方もか?」

 俺は上気した顔のまま頷く。

 ゼロスの手が俺の右足に触れるとピクンと反応してしまう。目で尋ねるゼロスに俺は首を振って答える。

「・・・して、して欲しい・・・」

 それが言葉になると俺は両手で顔を覆ってしまう。目を閉じてもゼロスは応えてくれる。それがわかっているから、俺はただその身を任せる。

 ゼロスの手がさっきよりも慎重に、いや、武骨に掴むのではなく、撫でるかの様に俺の右足を包み込む。その優しさに耐える様に、俺のベッドに乗せられた左足の指がシーツを掴む。

「お前がこんなに喜ぶとはな。もっと早くにすればよかったか?」

 ゼロスが俺の右足を靴を履かせるように撫で上げながら聞いてくる。その武骨な指の感触が気持ち良すぎて、逆に楽になった俺は両手を顔から離してゼロスを見つめる。

 俺の足を宝石のように愛で、撫で上げるゼロスの姿。

 俺はそれが嬉しくて口を開く。

 だが、俺は、出そうとした感謝の言葉が飛んでしまった。

「お、お前が。ゼロスが悪い。いつも、俺を責め立てるからだ、だからな」

 まったく意図せず、ゼロスを責め立てる言葉が出てしまう。

 自分でもこんなことが言いたいわけじゃない。それでも言葉が止まらない。

「全部、ゼロスが悪い。お前が俺を愛したから、俺は、こんなになっちまった」

 こんなことを言いたいんじゃない。俺が言いたいのは、嬉しいって言葉だ。

「俺は、どうしてこんなことに、なって。なんでこんなことに」

 違う。違う! 違う・・・!

 俺は自分の手で喉を抑える。俺が言いたいのはこんな事じゃない。


 それを救ってくれたのはゼロスの声だった。

「シコル。聞こえているぜ。お前の声は。この手の感触でお前の声が聞こえている。俺の手は気持ちいいか?」

 俺は言葉を発せずにただ頷く。

「あの時の逆転だな。結婚するって言った時の俺とお前だ」

 ああ。ギルドで指輪を交換して、はしゃぐ俺達と対照的にゼロスは恐れていた。幸せになる事、幸せにする事、幸福を受け入れられずに足掻いていた。

「シコル、お前は俺から逃げないって言ってくれたよな。俺もそうだ。お前からは逃げねぇぞシコル。言ってみろよ。言いたい事をよ。俺は逃げないで受け止めるぜ。俺のシコル・ギウス」

 ゼロスの言葉でようやく気付く。俺の中に恐れている自分がいる。

 今の、女性としてのシコル・ギウスを恐れている自分がいる。

 俺は、俺はシコル・ギウス。ゼロスの伴侶だ。

 俺は大きく息を吸うと吐き出す。今までの恐れが消えていく。そして俺は口を開いた。

「ありがとう。ゼロス。俺を受け止めてくれて。俺はいま、幸せだ」

 その言葉を発した瞬間、火のように脈打っていた心臓が鳴りを潜め、代わりに心地よい、いつものゼロスと居るときの、暖かい血液が俺の体に流れ始める。

「ああ。幸せにするって約束だからな。それはこれからも続くぜシコル。嫌だと言っても逃がさねぇからな」

「逃げねぇよ。俺のダンナ様♡。・・・お姫様扱いが気持ち良すぎたんだよ。シンデレラ願望があるなんて俺も知らなかったんだ」

「いいじゃねぇか。シコル・ギウスの女体の探索だろう? 俺とお前でないと出来ない旅だ。どこまでも付き合うぜ。俺のシコル・ギウス」

 俺とゼロスの視線が絡む。自然と俺はベッドに押し倒され、ゼロスに両足首を掴まれる体勢になる。

「このまま足と同時にするのはどうだ?」

 ゼロスの提案に俺は拒否る。

「それはなんか違ぇよ。俺の足はお姫様だ。肉欲と同列は、なんか違ぇ」

 そうか、と答えるとゼロスはあっさりと手を放す。

 ゼロスは足は感じない派か? と尋ねると難しい顔が返ってきた。

「・・・そうだな。お前の弱みを握ったんだ。俺の方も教えておくか。シコル、俺にかしずくのは止めてくれ。特にさっき俺がやった足に奉仕する形だな。俺がやるのはいいが、女にそれをさせるのはな」

「意外だな。ゼロスはそういうの好きだと思ってたぜ」

「以前はな。一言で言えばトラウマだ。こんなものは克服する気もねぇ。足の指なんていつも自分でマッサージしてるしな。腰より下は無しで頼む」

「手は良くても口は嫌なのはそういう事か?」

「ああ。そういう事だな」

 なるほど。色々と納得がいく。ゼロスがEDになったきっかけなんだろうな。

 だったら俺の答えは一つだ。

「わかったぜゼロス。ご奉仕系は止めておくぜ。やれるようになったらいつでも言えよな」

 俺の言葉でマウントポジションだったゼロスが俺の横に寝そべる。

「ああ。助かる。・・・それにしてもだ。やはり俺はお前じゃなきゃ駄目みたいだな」

「今更なんだよ」

「お前というよりもTS女体化だ。中身が女だったらさっきの返答はないだろうからな。女はいつでも弱みを突いてくる。そういう生き物だ」

 ゼロスの言葉でギンガの姿が思い浮かぶ。それがそのまま言葉に出た。

「全員がそうじゃねぇだろ」

「俺に近づく女は皆そうなんだよ。どいつもこいつもだ。男の弱点を探ってきやがる。EDを治す気がねぇのも納得だろ?」

「ゼロスのことを知ってたら納得できるけどな。それでも俺は複雑だぜ。お前の弱点よりも聞きたくない情報だったぞ」

「・・・そうだな。今のは無しだ。俺はお前という一人の女を愛している。これでいいか?」

「上出来だぜ。俺のダンナ様。俺の女が消化できなくなる所だったじゃねぇか」

「悪い。今からお前を女扱いしてもいいか?」

「存分にしろよ。今日はもう存分に甘えたからな。女成分はねぇけど勘弁な」

「それでいいぜ。俺はお前を抱きたいんだシコル・ギウス」

 さっきまでのロマンスは鳴りを潜めて凄い顔になっているゼロス。

 これで女嫌いだって? よく言うぜ俺のダンナ様は。


ーーー


 次の日の朝。

 俺はギンガ率いるスナイパー組合と共にライドレールの敷設を前提に街を見ていた。

 ライドレールを出した後に永続化。これでこの街に無動力の流通という流れだ。

 特に一番の理由は塔への上り下りだ。スナイパーの陣取る塔。これは真っ先にライドレールを敷設。塔の外側からライドレールを伝って上り下りが出来るようになる。

 一番の懸念点はライドレールは誰でも使えるという事だ。やろうと思えば無機物でさえ使える。つまりは魔物も使えるという事だ。まだ実証実験はしていないがそうだろうという前提で進めている。

 今の所はスナイパーの塔にだけ設置。それも内側のものだけだ。外側の塔に設置して魔物が直通で襲ってきたら目も当てられない。

 とにかく敵に使われないことを前提にした使用法を模索しながら敷設という流れになった。

 永続化と言っても自然消滅しないだけで破壊すれば消滅する。その点からみても敵から見えない位置取りも必要だ。

 それにしてもライドレールを敷設できるのが俺で良かったぜ。聖母のMP強化があるからこそライドレールを敷設して永続化をかけられるが、聖母じゃなかったら公園の遊具レベルしか作れなかっただろうな。

 取り合えず今日はスナイパー塔の往復を二塔。効率が上がれば三塔はいけそうだな。ただ設置は色々と様子見してからだな。この永続化も使用によるダメージ蓄積も未知数だ。精鋭のスナイパー連中なら使用中に消滅しても対処できるだろうが、使徒ではない住民が安全に使うにはまだ早いだろう。

 この辺の提案はまずスナイパー組合を優先。こいつらの視点が一番理に適っているだろう。そして俺はギンガと一夜を共にすることにした。


ーーー


「そう。女の子にされちゃったんだ?」

 ここはギンガの私室。俺はゼロスとの一件を話すときに、嬉しさのあまりゼロスの方が良いと答えてしまった。

 それを聞くとギンガの目が細められる。明らかに不機嫌だ。

「いや、単純に男を求めちまったっていうか。ゼロスの武骨な手の方がいいなって思っただけで・・・」

 その言葉を言い終わる前に俺はベッドに転がされ、両足を掴まれる。

「シコル。私はね。いつでもシコルを壊せる。お人形に出来る。でもそうしないのはなぜかわかる?」

 ギンガの手にナイフが現れる。それが俺の上げた足の裏を滑るように走ると得も言われぬ快感が生まれる。肌には一切の傷がない。ギンガの超絶技巧が織りなす刃の冴えは、その軌跡で皮膚の表面を撫で、脳に直接響く信号になる。

 刃の刺激で作られた靴を履かされ、それがゼロスとの記憶を飛ばすほどの強烈な快感で俺を上書きしてくる。

「や、止めてくれ・・・!」

 俺は、ゼロスとの記憶を、あの信じあえた時間を、上書きされたくない。


 俺の言葉でギンガはその手を止める。

「そう。私はシコルを傷つけない。絶対に。だから今もこれで止める。何故かわかる?」

「俺が、初めての男だからか・・・?」

「それもある。でも本当の理由は、愛を確かめたかったの。私は今まで何人もの女の子と愛を語り合って来た。あの子たちが喜ぶように、奏でる様に、その悦楽を引き出してきた」

「・・・」

「そしてお人形になった彼女たちは私のもとを去った。私をどれほど刻み付けてもそれは何も変わらなかった。傷付けあっても変わらない。だから私は、初めての男の子は傷つけたくないと思った」

「・・・それは俺と一緒に居たいって事でいいのか?」

「それで、いいと思う。私は今まで愛していると言いながら恋だけに留めていた。私が愛した人だけは変えたくなかった。だから私は心の深さの繋がりを拒絶して、悦楽だけを求めあった」

「・・・」

「シコルだけなの。本当に愛そうって思えたのは。離れたくない。傷付けあったらまた私から離れてしまう。だから私はシコルを傷つけない。絶対に」


 なんだろうな。ギンガの言葉が真実に聞こえない。本音じゃないのか?

「・・・それは我慢させてるのか?」

「違う。我慢はしてない。シコルは傷つけあわなくても一緒に居られる。だから悦楽は必要ない。ただシコルの女の子はゼロスに奪われてるのに、私はシコルの男の子を奪えてない。・・・シコルは私を傷つけたい?」

「それは一切ないぜ。お前を傷つける存在はそれがギンガ自身でも許せない。勿論俺が傷つける事もないぜ。それはあの時7thパレスで証明しただろ?」

「うん。あの時のシコルは意地悪だった。どんな手を使ってでも私を救うってその目が言ってた。・・・私は救われたくなかった。あのまま救われないまま終わりたかった。それでもシコルは私を救ってくれた」

 そう言うギンガの顔は、言葉とは裏腹に晴れない。

「それでいいんじゃねぇかな。俺の男の子はさ。別にギンガをどうこうしたいってわけじゃないんだ。こうしてギンガを救えて、結ばれて、一緒に居る。これは俺の男の子を奪っている事にはならねぇか? 少なくとも俺は、こんな気持ちになるのはギンガだけだぜ。ゼロスとも違うしな」

「私は今、シコルの男の子を奪えているの?」

「勿論だぜ。こうしているだけで俺の男が満たされてる。もし、俺がギンガに女の子にされたら、これは無くなっちまうな。何かを、求めあってるわけじゃねぇだろ?」

 それを聞いてギンガは興奮する様に言葉を速めた。

「そう。そう。私は、私と女の子達は、求めあわなくても良かった。私は、求めていたわけじゃない。ただ、こうして、話して、愛を語れれば、それでよかった」

 熱が浮いたようにギンガの言葉は続く。

「私が、それを壊していた。女の子達は私に何かを求めていたわけじゃなかった。私が与えなきゃって、愛を渡せないから代わりにって、その行為が彼女たちを遠ざけていた。私が、文字通り、自分で壊していた。彼女達が私を嫌いになったわけじゃない。私が彼女たちを遠ざけていたの?」

 ギンガの目が救いを求める様に俺を見る。

「ギンガの壁は俺も感じてたぜ。今でもな。なにか使命を帯びてるような、妙な責任感がギンガにはあった。きちんと、しっかりとしなきゃいけないって感じがな。ギンガはその責任感で俺と居てくれているのか? お前を救った俺に使命感で居てくれているのか?」


 ギンガは目を閉じるとしばらく思考して、口を開いた。

「・・・私は、逆。本当はね。許せなかったシコルの事。私の愛する彼女に銃弾を撃ち込んだ憎い男。苦しめたいって思った。困らせたいって思った。だから重婚。愛じゃなくて憎しみ。許せないシコルを私の手から逃したくなかった」

 言葉の内容はヤバ過ぎる告白だが、ギンガの表情は変わらない。

「俺を傷つけないのは逃がさないためか?」

「そう。ずっと私の中で飼い殺し。そう思っていた。でも、気付いたの。私の憎しみって何だろうなって。私が初めて感じたシコルへの憎しみ。これは本当に憎しみなのかわからなくなってきた。この気持ち、シコルを奪われたくないって感情は憎しみだと思う?」

 ギンガの迷いに俺は本心で返す。

「全然思わねぇ。ギンガに感じていた俺の感情とギンガの心は同じだと思ってる。俺は、お前が何と言おうと愛し合っているって断言するぜ。俺はギンガと結ばれれば幸せになる。だから俺達二人で幸せになる。そのためならお前の言葉であっても俺は否定するぜ」


 その言葉でギンガは最高に可愛い笑顔を見せた。

「わかってた。シコルは否定してくれるって。私のアナタ。そんな意地悪なアナタが私は大好き。殺したいほどに憎い。殺されたいくらいに愛してる。この気持ちに名前はいらない。私のシコル・ギウス。私はあなたのものになりたい」

 その最高の笑顔で俺はウルトラハッピータァァァイム!!!


 ギンガが迷っていたのは自分自身の気持ちだ。そしてその本質は迷っていただけで何も変わらない。俺達の思いは一緒だ。それが今、形になった。


 俺の足の間でマウントポジションだったギンガが再度俺の両足を持ち上げる。

 そして俺の左足の裏に頬ズリする。

「ちょ!? ギンガサン!? 汚いよ!? ナニシテルノ!?」

 俺は上ずった声を上げてしまう。

「フフッ。シコルを苛めてるの。シコル。本当は私の事、かしずかせたいんでしょう? シコルの足に奉仕する私を見たい。そうでしょ?」

「ン何故それがワカルンデスカァァァ!!!」

「シコルの事は何でも知ってる。傷付けたくないなんて言ってこういう事を我慢してた。とっても悪い子。私をこうして踏みつけたいんでしょう?」

「チガガガ。チガウ! 俺はそんな事ミジンコ! 考えてないぽ! ギンガを傷つけるナンテ!」

「嘘。足で私を蹂躙したいってここに書いてある。ほら、シコル」

 ギンガは俺の両足の裏で自分の顔を挟み込む。


 その背徳的な光景に俺は、俺は、昇天した。

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