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第41話 対戦訓練用ライドレール

 俺達は引き続き第072冒険者ギルドの訓練場で訓練していた。

 今回のメンバーは俺、ギンガ、ゼロス、アレス。いつもの面々だ。

 今はギンガとゼロスが対峙している。

 ギンガは聖剣ダイアグラス。ゼロスはいつもの緑がかったアサルトライフル。

 遮蔽物の無い所での撃ちあい。ただゼロスがギンガの剣捌きを試すだけかと思っていたが、この対戦は意外な顔を見せていた。


 俺の時と同じようにゼロスの撃った弾をギンガが無力化しながら進んでくる。

 ここまではいつも通りだ。

 だが、ギンガの剣がキュインッという音を立てて弾丸を弾く。

 いつもならギュルッという弾丸の勢いを消す音が響いていたはずだ。

 ギンガの剣筋がわずかに乱れる。

 そこから連続する様に立て続けに剣から火花が散る。弾いた弾丸が散らす火花だ。つまり明らかにギンガが弾丸を止められていない。

 そこですかさずリロードに入るゼロス。残弾は残っているはずだが隙を狙ってのリロードだろう。召喚魔法だからこそできるもったいないリロードだ。


 流石にギンガの顔に焦りが出る。ゼロスの初弾を打ち返す。だがその一撃は精度不足でゼロスを掠めるだけだ。単純に距離が遠い。そしてカインッという音がしてギンガの剣が弾かれる。

 その弾丸はギンガの体を狙っていない。明らかに当たる射線じゃない。ギンガの体を逸れるはずの弾丸がギンガの剣に当たり、剣を弾いた。つまりギンガの剣筋を読んで、加速する前の剣に弾丸を当てた。

 

 そこから明らかにギンガの動きが変わる。俺の時のような優雅な動きではない。剣を前に出し、相手を狩り尽くすように姿勢が前傾する。

 対するゼロスはリロードを終え射撃をするが、移動はしない。

 打ち返される弾丸を・・・? 打ち返される弾丸を自分の弾丸で防いでいやがる!

 もうすでにギンガは打ち返すゼロスの弾丸をゼロスに当てられる距離だ。ゼロスは自分に当たるであろう弾丸を、自身の弾丸で撃って防いでいる。


 尋常じゃねぇな。

 今はギンガとゼロスの間で火花が散っている。ゼロスの撃った弾と、ギンガの打ち返した弾と、ゼロスの撃ち返す弾で火花だ。

 流石にゼロスも動き出した。フルオートで面制圧をするとギンガが下がる。その間にリロード。

 ? なぜ今ギンガは下がったんだ? 面制圧なんてギンガなら抜けられるだろうに。

 その間もゼロスのフルオートでギンガが下がる。

 何が起きているんだ?

 俺の目にはゼロスがただ、まばらにフルオートで撃っているようにしか見えない。しかもかなりばらついた射撃だ。むしろギンガを狙っていない。

 いや、これはさっきのギンガの剣を弾いた射撃か?

 一見ただのフルオートだがその射線はギンガの動くであろう剣筋を止めるための射撃だ。だからこそギンガは剣を振れない。弾丸を避けるために後ろに下がっているのだろう。


 そして動きが起こる。

 ギンガが自身ではなく剣を狙ったであろう弾丸を剣で受け止めると、それを保持したまま下がる。そしてその弾丸を慈しむ様に剣で撫でると、弾丸が反転し、回転を加えられ、剣筋のバレルで加速を与えられる。

 その一撃がゼロスのアサルトライフルの銃口に突き刺さる。中に弾丸は入らなかったが銃口が破損する。ゼロスは即座にアサルトライフルを捨てると大口径のリボルバーを取り出す。

 珍しい。ゼロスはいつもハンドガンはセミオートだ。しかもこれはいま召喚したものじゃない。召喚済みの物を取り出した形だ。これも珍しいな。俺の知らないゼロスの動きだ。


 ゼロスは右手に持ったリボルバーを腰撃ちで。左手で召喚したセミオートハンドガンを構える。

 だが撃たない。

 ギンガの接近に対して、左手のセミオートの銃口が揺れる。それにギンガが反応している。これはフェイントを兼ねているのか。本命は右手のリボルバーだろう。

 ギンガが目と鼻の先に来てようやくゼロスが発砲する。左手のセミオートを乱雑に連射する。ギンガは物ともしない。

 そしてゼロスは左手を上に挙げる様にしてマガジンを落とす。そして再度中空に浮いたマガジンを叩きつける様にして再装填。

 その行動に意味はないのだろう。ただマガジンが装填された音だけが響く。そして射撃音。まったく意図せず、意図の読めない行動にギンガの視線が揺らぐ。

 その一瞬でゼロスのリボルバーがギンガの聖剣を持つ右手を押さえる。


 そこで対戦は終了した。


「ぶはーーー!!!」

 俺は大きく息を吐き出す。見てるこっちが疲れるぜ。

「これは、レベルが違い過ぎますね。シコルさんはあれ出来ますか?」

「無理いうな! 何があるとアレが出来るんだよ! 理屈がわかっても実践できねぇだろ! アレスこそどうなんだよ。あの銃弾止めるどころか、弾くのも難しいだろ」

「無理ですねぇ。弾くのが精一杯です。僕なら素直にバリアー突撃ですね。銃弾を剣で防ごうという土台が間違っています」

「だよなぁ」

「正直な所、あのお二方を見ていると勇者とかイキっていた自分が恥ずかしくなりますね。研鑽不足を思い知らされます」

「だよなぁ。俺もゼロスについていけてたって思い込んでたけどな。ゼロスはまだこれ以上があるんだな。俺のレベルに合わせていただけか」

「それでもシコルさんは並み以上ですけどね。今の状態でもソルジャーとしては破格の性能です。ゼロスさんが強すぎるんですよ。ギンガさんを止める射撃という時点で、この目で見なければ信じていませんでしたね」

「だよなぁ。俺だったらバリアー貼ってゼロ距離グレネードだな。ギンガは銃弾で何とかなる相手じゃないもんな。・・・なってるけどな」


 そこに息を整えた二人がやってきた。

「ゼロスは私を殺せる可能性を秘めているかも」

「馬鹿を言うな。こんな真正面のお遊びだから勝てただけだろう。ギンガ、お前をこの状態に持ち込むのは俺にも無理だ。本気を出したお前に弾が当てられるか」

「それでも可能性はある。私も慢心していた。アレはどうやったの?」

「ただの予測だ。お前の動く位置に弾を配置した。それだけだ」

 そこに俺が口を挟む。

「ゼロスは未来予知でも出来るのか?」

「馬鹿を言うなシコル。思考でギンガの動きを上回るんだ。お前もヘカトンで壁越しに俺を見ていたことがあったろ。お前はそれに惑わされた。仮に未来予知があったとしてそれに惑わされるようじゃ二流もいい所だ。いいか。思考で相手を追いつめろ。強さに近道はねぇ。常に思考で上回れ。これ以上はねぇからな」

 メタ的に言えばゼロスが言っているのは『第29話 遅速』で俺がゼロスを追いかけていた時のことだろう。俺はヘカトンのセンサーで壁越しにゼロスの動きが見えていた。そしてゼロスの言葉は続く。

「それにギンガの剣が弾けたのはあの聖剣だからだ。言ってしまえば聖剣を握ったギンガ限定で出来る戦い方だ。あまりにも正確だからこそできた戦い方だ。あの剣がもう少し重い質量のある剣だったらこの戦い方は出来なかったぜ」

 それにギンガが返す。

「それだったらあの戦い方は出来ない。その重い剣を抱えて私は沈む。私も予測を入れるべき?」

「どうだろうな。ギンガ。お前の長所はその反射だ。思考ではなく状況における反射神経がずば抜けている。変に思考に脳のリソースを割くと剣が鈍るぞ。付け焼刃でどっちつかずよりも反射を活かした戦い方だ。俺の思考を上回る反射神経で、俺の行動を全て上回ればいい。それが最適だと思うぜ」

「わかった。ただそれを出来るほどの相手が居ない。ゼロスは剣を使えないの?」

「悪いが無理だ。剣こそ思考でどうにかなるもんじゃねぇ。相性が悪すぎる。お前より強い剣豪がここに居るとは思えねぇがな」


 そこで俺達の会話は一段落。

 アレスはギンガと、俺はゼロスと模擬戦だ。

 俺はライドレールを召喚すると、足をリングサイボーグ足に変える。踵に縦リングで自走できる奴だ。俺は中空に無数の短いライドレールを配置し、上空からアサルトライフルを構える。だがその一瞬で俺のプロテクションが解ける。ゼロスの射撃だ。

 そしてもう一戦。俺がライドレールに飛び移った瞬間にプロテクションが解ける。

 次はライドレールからジャンプした瞬間を撃ち落とされる。

 次はライドレールのレールを回転しながら進み、予測を出来ないようにする。だが俺自身が自分の行動に迷い、次に移るレールを目で探した瞬間にプロテクションが解ける。

 次は速度で上回る。踵のリングの回転を上げる。俺が飛ぼうとした瞬間にその軌道にゼロスの銃弾が飛ぶ。これは警告だな。わざと外してそこは撃たれると教えてくれているんだろう。それほどまでに俺は隙だらけだという事だ。俺は自分の動きに気を取られてゼロスの動きを把握できていない。

 ゼロスの動きに集中する。するとガッと音を立てて両足のリングがぶつかる。そして落下した俺のプロテクションが解けた。


「シコル。言うまでもないが、脳のリソースが自分の操作にとられ過ぎだ。動きをランダムにしても自分が惑わされるようじゃ世話がないぜ」

「ああ。完全にオーバーワークだ。どこにライドレールを置いていいかわからなくなるぜ」

「だったら一度固定したらどうだ? 自分の使えるフィールドを最初に作る。それを頭に入れて固定化だ。最初から大空を全て使おうってのが間違ってるぜ」


 俺はゼロスの言葉で自分のフィールドを想像する。取り敢えずは螺旋だ。巨大な螺旋状のライドレール。それに飛び乗ると目でゼロスに合図する。対戦開始だ。

 螺旋を飛び回りゼロスの動きに集中する。俺のフィールドを起点にゼロスを捉える。ただそれだけだ。ヘカトンのセンサーも起動させる。俺の目ではなく多角的な視点。ゼロスの思考を上回るにはこれしかない。

 螺旋を走り、螺旋を盾にし、ゼロスの射線を安定させない。そして手にはサブマシンガン。銃身が短くストックがない。それを俺の目ではなくヘカトンの視点でゼロスの居場所に向けて掃射する。

 ライドライダーと同じだ。狙って撃つのではなく、狙わずに掃射。無茶な体勢でばら撒く。これしかない。

 ゼロスの動きが変わり、螺旋の下に陣取り始める。

 真下は流石に撃ちにくい・・・。

 しまった。自分の目でゼロスを追ったせいで螺旋の影でゼロスを見失った。その一瞬のパニック。ヘカトンセンサーで捉えようと切り替えるコンマ一秒以下の時間でゼロスは俺の真下から狙撃してくる。俺のプロテクションが解ける音が響いた。


「ようやく形になったみたいだなシコル。自由度よりもフィールドだな。ドームで囲うのもいいんじゃねぇか?」

「だな。ライドレールからの上空爆撃。狙撃みたいのが来ても安心だろうぜ」

「特殊なケースだな。通常どこでも使うって感じじゃないな。実戦では移動用か」

「それよりもこのお姫様抱っこは何なんだぜ。動けない女を抱き抱えるなよな」

 俺の言葉通り、俺はいまゼロスにお姫様抱っこだ。あの後落ちて来た俺をゼロスがキャッチしそのままだ。

「シコル。お前足が動けてないだろ。負担をかけすぎてねぇか? 取り合えず元に戻せ」

 俺はゼロスの言う通りサイボーグ足を生身に戻す。確かにリング部分に負担をかけすぎていたみてぇだ。実戦では再召喚も視野に入れた方が良いな。

「グッ・・・」

「どうしたシコル。痛むのか?」

 違う。足が元に戻ったことで敏感になっている。足をもぞもぞと無意識に動かしてしまう。そして手が。こちらも無意識にゼロスの服を掴んでしまう。

「あ・・・」

 この前のギンガの足攻めが思い出されてゼロスの顔が見れない。

「シコル?」

「いや、その、あの、何でもない」

「ない訳があるか。なんだその可愛い顔は。俺を誘ってんのか?」

「・・・そうだって言ったら?」


 その後のゼロスの動きは機敏だった。アレスとギンガに別れを告げると恐ろしい速さで宿舎まで疾走する。

 俺が邪魔にならないようにその身を預けるとゼロスが咆哮する。

「GYAOOOOuuuuu!!!!」

 ゼロスのオーガのような形相が見て取れる。

 こいつの短期形態進化がなんでオーガなのか。それを知るのは俺だけなんだな。


ーーー

ギルド『フォネティック』


「おいおいおいヤベェぞゼロスのヤツ。遂に魔物堕ちか?」

「アイツもアイツで羨ましいのか不憫なのかわからねぇな」

「外から見ると聖母シコルの尻馬に乗って惑星ファンタジーナンバーワンギルドのギルドマスター。逆玉の輿野郎だってのに実態は真逆だもんな」

「シコルに捕まった感じだよな。本人は身を捧げているだけだが」

「マジでシコル・ギウスは悪魔かよ。サキュバスだってあそこまで悪質じゃねぇだろ」

「あれが善意だってのが怖ぇよな。実際悪い奴じゃねぇしな」

「くわばらくわばら」

「なんだそれ?」

「俺の国のお呪いだ。落雷避けの避雷針頼みだ。天罰じゃねぇがシコルは降ってきてほしくねぇよな」

「羨ましくはあるけどな。実際カップルは増えてるらしいぜ」

「俺も見たぜ。チルドレンも出て来たしな」

「う、羨ましくなんかねぇぞォォォ!!!」

「願望が垂れ流しじゃねぇか。お前こそ魔物堕ちするなよな」

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