エピソード1-32
全員が目覚めた時はすでに朝日が昇っていた。オグゾルは一番早く目覚めたがドラゴンの死体をもう一度見てしまいまた気絶してしまった。
帰りは行きと違いゆっくり帰ることができた。イリナさんは馬を帰してしまったのでユリスにゼストを呼んでもらった。もう一日野宿することになったが、それが嫌なオルキスたちは先に帰った。
ゼストが迎えに来るとイリナさんは泣きながら彼に謝った。ゼストが彼女を優しく抱きしめる。
「もう二度と、こんなことはしないでくれ」
ゼストがイリナさんを後ろに乗せて王都に戻る。俺はリリアの後ろに乗った。
俺は考え込んでいた。
(あの感覚はなんだったんだ)
ドラゴンと対峙したとき、ベルセルクを起動したときの気分の高揚について考えていた。
もし、俺がゲームの「レイハルト」なのであればストーリー設定的にああはならない。強敵と戦うことで気分が高揚するような狂戦士ではなかった。
強い奴ほど燃えるのはどちらかといえば「俺」の方である。しかし、それはゲームでの話であってただの高校生である自分が強敵とリアルで対峙した場合、例えばテロリストと対峙したらああなるかと言われれば多分ならない。
死の恐怖で身体が竦んでしまうだろう。強敵相手に興奮するのはあくまで自分が死なないゲームだからだ。
(そうなると考えつくのはこれか)
俺の精神は「俺」と「レイハルト」が混ざっている。実際に今回自分ではないものを感じた。
しかし、そうなるとおかしなことも出て来る。俺が盗賊を切り殺した時だ。あの時は自分が人を殺したという事実から発狂してしまった。
「レイハルト」はゲーム内で敵の人間を殺したことがある。つまり、敵であれば殺せるはずだった。あの時はまだ「レイハルト」と混ざりきれていなかったのかもしれない。
そこまで考えて「レイハルト」の記憶を探してみた。驚いたことにゲームで見た光景を画面越しではなくその場にいた記憶があった。そして「俺」の記憶も思い出してみた。こちらも難なく思い出せた。
しかし、どうしても思い出せないものが2つあった。1つはゲームでのラグナレク戦の記憶。それと、「レイハルト」の過去、ゲーム以前の自分の記憶がなかった。
(つまり俺は、誰なんだ?)
過去の記憶は「俺」のもの、しかし、途中から「レイハルト」の記憶もある。
異世界転生、異世界召喚の類ではたいてい地球での記憶しかないかそれとその世界での記憶すべてがある。
つまり、2人分の記憶があるのだ。しかし、今の俺には2人分の記憶は途中からしかない。
(こっちの世界の俺はどこから来たんだ?)
ゲームでは明かされていない、主人公の背景。その本人になってもそれが分からない。
それが今になって怖くなってきてしまった。自分は何者なのか。
王城に着くと門の前で騎士が並んでいた。一番前にはグランツがいる。
「抜刀!」
俺たちが馬から降りるとグランツがそう言い、騎士全員が剣を抜いて身体の前で上に向ける。
(テレビとかマンガで見たことはあったけど、実際に見ると結構迫力あるな)
そんなことを考えながら門をくぐる。
玄関までくるとセリナが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、国王陛下がお呼びです」
俺たちはセリナに付いていく。着いたのは謁見の間ではなく部屋の前だった。
「レイハルト様とフィルリリア様をお連れしました」
「入れ」
セリナが扉を開けて中へ促す。どうやら彼女は入らないようだ。
「疲れているだろうが、着いてすぐすまないな」
2人と1匹が入ると国王がそう切り出した。
「すでに話は聞いている。ドラゴンを単独撃破したそうだな。まずは感謝を。」
国王の隣にいた初老の男が革袋を持って俺に差し出した。
「ドラゴン討伐の報奨だ。金貨10万枚だ」
俺は驚いて革袋を見た。
「成り行きとはいえ、討伐してくれたからな」
リリアを見ると受け取れ、と目で合図された。渡された革袋を受け取る。
このためだけに呼んだのだろうか?
「実はもう一つ、私からも褒美を用意した」
俺は驚いた。そして少し慌てた。
(まさか国王自ら褒美を用意するなんて。まさか爵位や領地じゃないだろな)
そんなものを下賜されたら旅ができなくなる。
「其方をフィルリリアの婚約者候補に入れようと思う」
「「え!?」」
2人の声が被った。
(俺が、リリアの婚約者候補?)
「私が、姫の婚約者候補、ですか?」
「そうだ」
「私はただの旅人ですよ!」
俺はつい声を荒げてしまった。
「私とでは身分が釣り合いません」
「問題ない」
「え?」
王の言葉に耳を疑う。
「其方はフィルリリアの専属騎士としての身分を持っている」
「しかし、私は貴族ではありません」
「力のあるものが貴族と結婚するのはよくあることだ」
政略結婚か。リリアはどう思っているのか横を見てみると、うつむいていた。表情が見えないのでどう思っているのかは分からなかった。
「リリアでは不満か?」
「そのようなことは!」
「では良いな」
俺は観念した。
「謹んで、お受け、いたします」
※ ※
「良いのですか?」
「何がだ」
レイハルトたちがいなくなると王の隣にいた初老の男、宰相が王に問いかける。
「身元も分からぬものを姫の婚約者にしてしまって」
候補をあえて抜かした。彼らの中ではすでに決定事項だった。
「リリアが自分で騎士にしたものだ、問題はなかろう」
「しかし、他の貴族が何かしら言ってこないでしょうか」
宰相はスレンディット公爵を思い浮かべていた。
「スレンディット公爵か」
王も同じことを考えていたようだ。
「言ってくるだろうな、次男がリリアに執心しているからな」
「でしたら」
「だが、このままあの者をそのままにしている方が危険だ」
「危険、ですか?」
宰相は分からないと言った顔をした。
「そうだ、今はリリアと共にいるからよいが、あの者はもともと旅人だ。おそらくはリリアと手を組むこと、で今の目的を達成しやすいと考えたのだろう」
「リリア様に惚れた、または王家の力が欲しいだけという可能性は?」
「それはない」
宰相の予想を即否定する。
「もしそうなら、先ほどの婚約者候補の件をすぐに受け入れただろう」
宰相も確かにと思った。
「つまりだ。今はリリアと手を組んでいるがいつ、それが切れるか分からない。今の目的が達成した後この国を出ていく可能性もある」
「そうですね」
「そして、別の国でその国の貴族令嬢、または王女と結婚した場合、あの者がこの国に牙をむく可能性がある」
宰相は驚いた顔をした。その可能性は考えていなかった。
「だから、この国にとどめておくためにもこの国で誰かと結婚して腰を落ち着けてもらう必要がある」
「しかし、姫である必要は」
「あれがあの者を手放すと思うか?」
レイハルトがいるからと護衛を彼一人にした王女のことを考える。
「あり得ないですね」
「そういうことだ」
宰相は納得した顔をした。
「では彼を筆頭に軍の強化ですか」
「まあ、強化は出来るだろうが、あの者を戦場に出すことは出来ない」
また宰相が首を傾げる。
「リリアは彼以外の護衛を今つけていないだろう」
「そうですね」
「それはおそらく彼を軍事利用させないためだ」
「え?あ!」
「分かったようだな」
「はい、彼が戦場に行くとなれば、姫の護衛は彼一人ですから姫も戦場に行くことになる。しかし、それを認めるわけにはいかない。結果、彼は戦場には出せない」
「そう言うことだ」
実際、リリアはそこまで考えていたわけではないが、レイハルトと離されないようにという考えはあった。
「彼を戦場には出せないが、我が国に攻め込まれるよりはましだ」




