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エピソード1-31

 ドラゴンとの戦闘を初めて1時間近くが経過した。しかし、こちらはまだドラゴンに大きなダメージを上級魔技の数発しか与えられていなかった。


 ドラゴンが飛びながら尻尾で攻撃してくるのを盾でガードする。


「くっ!」


 ジャストガードを失敗しノックバックする。


「はあ、ちっ」


 疲れが出始めていた。ゲームでは2時間くらいボス戦をやっていても平気だったが、実際に身体を動かして戦うと疲れが尋常じゃなかった。


 ドラゴンのサマーソルトをバックステップでかわそうとするが掠ってしまう。


 すかさずケアラで回復する。意味がないかもしれないが常にHPが満タンの状態でいたかった。


(そろそろ決定打を与えたいが、大技使う隙がないな)


 大ダメージを与えられる大技は大体が大ぶりな攻撃か連撃数が多いのがほとんどだ。そんな隙を見せたら即やられるだろう。


 俺は片手剣武技「リニアプリック」を起動し、一直線に突っ込み、強烈な突きを前足に入れる。


 少し深く入った片手剣をバーチカルシュニットで前足を切り裂いて取り出す。


「gugyaaaaaaaaaa!」


 ドラゴンが叫び声をあげながら首を大きく持ち上げた。鮮血が流れるが、やはりすぐに止まる。


「よし!」


 足にだがいいダメージが入った。


「レイハルト殿、早く片付けてもらえないだろうか」


 オグゾルに焦りが見えた。だが、返事はしない。


「我々を早くこの危険なところから帰して欲しいのだが」


 やはり返事はしない。


「貴様、私を無視するのか!」


 俺はドラゴンに切りかかるだけで返事はしない。


「クラーキス伯爵、うるさいですよ」


 フィルリリア姫にそういわれては黙るしかない。


 俺にはオグゾルの言葉は聞こえていなかった。強敵と戦えることの楽しさからドラゴンが放つ音以外は全て雑音として処理させていた。


 オグゾルの声は風が草木を揺らす音と同じようにレイハルトは感じていた。




 さらに1時間が経過した。集中力も限界が来ているのか、ジャストガードをミスする頻度が増加してきた。


(まずいな)


 俺も焦りを感じていた。このままではこちらの体力が持たない。


 横なぎのブレスが放たれる。それステップ回避する。次に来た尻尾の薙ぎ払いをジャストガードしようとして少し遅れた。


(しまった!)


 俺は尻尾に横に飛ばされてしまい、樹に激突する。


※           ※


「レイハルト!」


「よし!」


 私は叫び声を、オグゾルが歓喜の声を上げる。


(よし?)


「クラーキス伯爵!あなた」


「gyuaaaaaaaaaaaaaaa!」


 ドラゴンの声に全員の視線がそちらに集まる。ドラゴンが尻尾を振り上げ、レイハルトを叩き潰そうとしている。


「レイハルト!」


 私は目を背ける。彼が死ぬところを見たくなかった。


 ドラゴンが尻尾を振り下ろす。あるものは絶望し、あるものは喜びに口をゆがめていた。


「gagyuaaaaaaaaa!」


  ドラゴンの声に顔を上げた。その声は敵を倒した喜びの声ではなく、苦痛によるものだったからだ。


 その場の全員が目を疑った。


 ドラゴンの尻尾は途中から切断され、その先と思われるものがレイハルトの後ろに転がっていた。


 そして、レイハルトは先ほどまでの片手剣ではなく双剣、ダガー2本ではなく直剣2本を頭の上で交差されていた。


「ば、馬鹿な」


 レイザスが恐怖するような声を上げる。


※           ※


 ドラゴンは警戒するように距離を取る。俺はゆっくり双剣を下ろす。


「あはっ」


 短く笑うと一気に突っ込む。その速さは先ほどよりずっと早く、リリアとオルガ、ユリス、近衛兵の1名以外は目で追うことができなかった。


 ドラゴンの翼にジャンプしながら切り込む。ジャンプ力も先ほどの比ではなかった。


俺の速さに対応できなかったドラゴンは翼に1撃もらう。翼に大きな切れ込みが入る。


「レイハルト!貴様、その妙な術を解け!」


 オルガが珍しく声を荒げて叫ぶ。


「妙な術?」


「あやつ、普段身を守るのに使っていた魔力と生命力のほとんどを身体強化に回しやがった」


「な!」


 オルガの説明に絶句するリリア。


 ベルセルク、アクションスキルで5分間自分の防御力と最大HPを10分の1にする代わりにその分を攻撃力、素早さ、MPに振るというもの。


 この時の防御力とは防具の補正も含むものなので、今の俺の防御力は防具無しとほとんど変わらない。


(なるほど、そういう風に見えるのか)


 オルガの解説に納得しながらアクションスキルのマジックブレイドを起動する。


 双剣専用のスキルで、3分間8本の魔力でできた剣が剣の通ったところをなぞって追撃をする。


 ドラゴンが火球で攻撃してくるが遅い。一気に距離を詰めて翼に攻撃する。


 先ほどの切り込みに沿う様に攻撃し、切れ込みが翼の半分くらいまで行く。ドラゴンは飛ぼうとするが、翼をうまく使えずバランスを崩し落ちる。


「はは」


 この隙を逃すまいと反対側の翼に双剣武技「ツインシュニット」を起動する。


 右手の剣を切り下ろし、次いで左手の剣で切り上げる。翼の3分の1まで切り込みが入る。


「gugyaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」


 ドラゴンは叫びながら起き上がる。


 俺は跳躍し首を狙う。しかし、首は他よりも丈夫なのかあまり深く入らなかった。


※           ※


 私は鳥肌が立つのを感じた。その対象はドラゴンではなくレイハルトだ。


(なに、これ?)


 レイハルトが怖い。彼を見ているとそう感じた。今まで彼の強さを何度か見てきたがこんなことは初めてだった。


※           ※


 俺の剣がはドラゴンのわき腹をえぐる。


(ああ、楽しい、楽しい、楽しい、楽しい!)


 俺はこの上ない高揚感に包まれていた。


 しかし、この楽しさをずっと味わっていられないことも分かっていた。この5分で何とかして倒す。


 ベルセルクは効果が切れると3秒間の硬直時間がある。それだけあればドラゴンは俺を殺せる。


 ドラゴンがブレスを放とうと口を開く。


(口、そうか!)


 横なぎのブレスをステップで回避、さらに切り付ける。


 マジックブレイドが切れると最終段階に移行する。


 ドラゴンの脇腹辺りに足をかけて剣を杖のようにして背中によじ登る。さらに強化した脚力を使ってドラゴンの頭からさらに上に跳ぶ。


 俺が上に跳んだことでドラゴンも上を向く。


 武器を弓に持ち替える。ドラゴンがブレスを吐くために口を開ける瞬間に「ボマーシェイプ」をレベル20で3発打ち込み、矢が上顎に突き刺さる。


 どんなに外が丈夫でも身体の内側は柔らかいのだ。


 ドラゴンが痛みに口を閉じた瞬間爆発が起こる。


 頭から煙を上げながら倒れてくる。


 煙が晴れると下顎だけが残ったドラゴンの死体があった。血がとめどなく流れているがそれが止まる気配はない。


 地面に着地するとほぼ同時にベルセルクが切れる。


「な、な、な」


 貴族連中が信じられないと言った表情でこちらを見ている。


 そして、ドラゴンの死体を確認するとオグゾルとオルキスは泡を吹いて倒れ、レイザスも吐き気をもよおしたような顔をしている。後ろで近衛兵の何人かも泡を吹いて倒れていた。


 レイハルトは斥力バリアを解除する。


「さ、終わりましたし、帰りましょう」



 気を失っている奴らをそのままにしておくわけにもいかないので、ユリスを報告のために先に王都に向かわせて、彼らが起きるのを待った。


 その間に俺は魔技で回復しておく。


 イリナさんが何かを探し始めた。


「ああ!」


 何かを見つけ、駆け足でそれに近寄る。彼女が手に取ったのは折れた剣だった。剣の柄には宝石がはめ込まれており、その宝石は彼女の瞳と同じ色だった。


 イリナさんはそれを抱きしめながら涙を流していた。


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