エピソード1-30
一行が頂上にたどり着くと緑色の巨大なドラゴンが座っていた。レイハルト俺たちを見ると立ち上がり大きく吠えた。
「gyaaaaaaaaaaaaaaaaa!」
その声に近衛兵の一人が尻餅をついてしまった。
それも仕方のないことだろう。自分よりも強大な敵に威圧を飛ばされたのだから。
俺の記憶に緑色のドラゴンの記憶はなかった。ドラゴンは基本赤か青のはずだ。
(まあ、フォレスレオンみたいな前例も見てるし、何かしら変化したんだろう)
ドラゴンの力を図る。
(これは、俺より強いな)
自分より格上の相手と対峙しているが恐れを感じていなかった。感じているのは高揚感のみ。
もし「俺」がこの状況になったらおそらくビビってしまっていただろう。逆にゲームストーリーのレイハルトならば冷静に対処するだろう。
今こういう状況になっているということは「俺」とレイハルトが混ざっているのだろう。
「俺」は縛りプレイなどが好きな戦闘狂だった。自分よりレベルが上のエネミーと一人で戦うなんて日常茶飯事だった。
「どう、レイハルト」
リリアが心配そうに声をかけてくる。
「多分こいつは俺より強いな」
俺の言葉に喜色を示したのは貴族連中だ。
「そうか、別に今から逃げかえってもよいぞ」
オルキスがそんなことを言うが残念ながら怯えてはいない。
「まさか。でも倒せなくはなさそうです」
「な、何を言っているんだ。貴様より強いんだろ?勝てないのだろう?」
「格上を倒せないと強くなれないでしょ?」
その言葉にリリアとユリス以外は口をパクパクさせた。
「さて、と」
俺は全員が1ヶ所に固まっているのを確認するとアイテムストレージを操作し、てとあるアイテムをその真ん中に投げ、起動する。
すると、半円状の半透明な壁が出来る。
斥力バリア。クラフトに成功した新アイテムだ。
実験では俺の最大チャージの中級魔技を耐えている。上級は部屋で実験したため使えなかった。部屋が壊れる。
「なにこれ?」
「反射の結界だ。触れたら怪我するぞ」
触ろうとしていた近衛兵が慌てて手を引っ込める。
準備完了とドラゴンの方に歩いていく。
「レイハルト、作戦とかはあるの」
「ない」
「は?」
リリアが殺意が含まれた視線を向ける。死ぬ気か、と。
「作戦は戦いながら考える」
それを聞いた貴族連中は笑い出した。
ドラゴンの前までやってくる。先制で何か仕掛けてはこなかった。
倒すだけならそこまで難しくない。魔導砲を最大チャージで打ち込めばいい。
魔導砲とはMPを消費して強力な一撃を行う武器だ。通常攻撃でMPを消費する代わりかなり威力は高い。そして武技がない。
ただチャージには数十秒かかり、さらにチャージの間は歩くことしかできない。緊急回避をした瞬間にチャージが切れる。
最大チャージが出来れば1部のボスならワンパン出来るが隙がデカすぎる。基本パーティプレイで輝く武器だ。
ほとんどチャージせずに撃ってもそれなりの火力が出るからソロでもいないわけではないが。
俺ならスキル等を使って動きを止めてその間に魔導砲をチャージし、最大火力を叩き込めばおそらく倒せる。
しかし、それをする気は毛頭なかった。
(こんな楽しそうなことをすぐ終わらせてはつまらない)
俺がさらに近づくとドラゴンが火球を放ってくる。レイハルトはステップを踏んで回避する。
(それと、一応)
「なあ、少し話を」
俺は話しかけるが聞く耳もたず攻撃してくる。PICTの翻訳機能でドラゴンとも会話できるはずだから声は聞こえているはず。ということは話す気はないということ。
武器スロットを操作してロットを構える。
楽しみたいが加減もできそうにない。火球を回避しながら上級魔技のヴォルク・イーズをレベル20最大チャージで起動する。
ドラゴンの足元にいくつかの亀裂が走り、そこから高密度の冷気が噴出した。それをまともに受けたドラゴンは足元から凍っていく。
「な、なんだ、と」
マルファスが驚愕の声を上げる。彼は気付いてしまったのだろう。自分との戦いでものすごく手加減されていたことを。
ドラゴンの足が半分ほど凍ったところでドラゴンが大きく吠えた。そして上空に向かってブレスを吐く。
するとドラゴンの体が少し赤みがかる。そして凍っていたところが溶けだした。
(体温を高めて氷を溶かしたか)
魔技を切り、後ろに下がりつつ武器を片手剣に変える。
ドラゴンはこちらに向き直り横に首を振りながら薙ぎ払いブレスを放つ。これは躱せない。誰もがそう思った。しかし、俺の躱し方は普通と違っていた。
迫りくる炎に向かってステップを踏む。俺は炎に飛び込み、そして無傷で出てきた。
「は?」
全員が何が起きたか分からいといった表情を浮かべる。
無敵時間。ステップ回避をしてから0.3秒間だけ無敵状態になれるパッシブスキル。
これはレベルが1の一番最初からあるスキルだ。ゲームだけの仕様ではないことはすでに確認していた。
「奴がステップを踏んだ瞬間、奴の周りに魔力の壁のようなものが出ていた。それで防いだのだろう」
「だからって、わざわざ突っ込まなくても」
なるほど、そういう仕組みだったのか。ステップの無敵時間については公式設定がなかったからな。
俺は走ってさらに近づく。すると今度はドラゴンが横なぎに尻尾を振ってきた。
俺はそれをジャストガードし、反撃を叩き込む。しかし、反撃は鱗に弾かれてしまう。
「うお、硬え」
バックステップで一旦距離を取り、バーチカルシュニットを起動して前足に切り込む。
今度は弾かれることはなかったが、あまり深くも入らなかった。
「これはこれは」
どんどん楽しくなってくる。通常攻撃は弾かれ武技を使ってもほとんどダメージが入らない。
一見絶望的な状況に見えるがそんな状況で燃えるのが「俺」だ。
ドラゴンは前足で踏みつけようとするがそれを躱して距離を取る。
「こりゃ、時間かかりそうだな」
ゲームではソロ討伐で1時間以上かかるボスはざらにいた。こいつもその類だ。時間かけてもいいが、そうすると、貴族連中がうるさそうだな。
(まあ、しゃーないか)
バーチカルシュニットやモーメンシュニットのような連撃数の少ない武技を使い、攻撃をする。
あまり連撃が多いと隙が大きくなると考えたからだ。
一応武技を打っている途中で回避をすることもできるが、その時のジャスト回避、無敵時間で回避するのは難しい。
近づいているせいかドラゴンはブレスよりも尻尾や足の攻撃が多い。
それらを全てジャストガードで防ぎ、攻撃を続ける。時々深く入って少し血が出るが、ドラゴンの回復力たるや、すぐに傷がふさがってしまう。
ドラゴンが少し飛び上がる。翼を羽ばたかせると風圧で飛ばされそうになる。そして、少し後ろに下がるとブレス攻撃をしてくる。
まっすぐなものはよけて、横に広がるものはステップ回避の無敵時間で回避する。そしてまた近づくと攻撃を繰り返す。
またしてもドラゴンが飛び上がる。また距離を取るつもりかと近づこうとして気が付いた。ドラゴンが尻尾を振り上げている。
(サマーソルトか!)
俺は相手のサマーソルトをジャストガードで受けとめる。反撃は尻尾には当たらず空振りになる。
ドラゴンはそのまま上空へと飛ぶ。上空で大きく吠えた。
その声に感じたことのある禍禍しいものを感じ取った。
(この感じは!?)
「俺」は知らない。現代日本でこんな禍禍しいものはない。知っているのはレイハルトの方。ということは…
(ダークネスの因子!)
もう消えたと思っていたがまだ残っていたか。ダークネス・ラグナレクは滅んだはず、だとしたらこれは残党か。
(これがPICTとしての最後の仕事かな)
俺は雷の上級魔技のメティア・ザンドをレベル20起動する。
ドラゴンが飛んでいるよりさらに上空から特大の稲妻が5本、隕石のように落ちてくる。
「落ちろ!」
稲妻は3本がドラゴンに直撃する。そのうちの1つが翼に当たり、ドラゴンは体勢を崩す。しかし、地面に激突する前に体勢を立て直し着地する。




