エピソード1-29
馬を限界まで走らせ、ドラゴンのいる山を目指す。山についたのは日が暮れたころだった。オルガも馬について走っていた。
「ここです」
ユリスが山の入口で馬から降りる。周りを見て見るがイリナが乗ってきたであろう馬が見つからない。
「馬がいないってことは帰ったんじゃないか?」
俺はそういうが、リリアは地面を見て、険しい顔になる。
「リリア?」
「まずいわね」
リリアが顔をあげてこちらを見る。顔が青くなっている。
「あの子、死ぬ気よ」
「死ぬ気ってどういうことだよ」
走り出したリリアを追って俺とユリスが山を駆ける。
「馬が王都の方に戻っていたわ。でも別の足跡がこの山の方に向かってた」
「馬を帰巣本能で帰し、一人で山を登ってると」
「死ぬ気、帰る気がないのよ。だから帰りの足である馬を帰したの」
「まさか、一人でドラゴンに挑むつもりか!?」
国の軍を壊滅させた奴相手に貴族のお嬢様が一人で、多少魔法ができたとしても無理がある。
「せめて、一矢報いたいんでしょうね。婚約者の仇に」
山を駆けあがっていると前方に人影が見えた。
「いたわ!」
先頭を走っていたリリアが人影の方に手を置いた。人影はびくりとして振り返る。
「ふぃ、フィルリリア様!?」
イリナさんは驚きの声を上げる。まあ、当然だろう。こんなところにお姫様が来るなんて思うはずがない。
「ど、どうしてフィルリリア様がここに」
「それはこちらのセリフです、イリナ様。なぜこんなところに」
「そ、それはジルクス様を弔いに」
「では、なぜ帰りの馬を帰したのですか?」
イリナさんは俯く。こぶしを握り締めて震えている。
「あなた、ここで死ぬつもりですよね」
イリナさんの肩がびくっと震える。
「なぜ、そのようなことを」
突然顔を上げたイリナさんは涙目でリリアの服につかみかかった。止めに入ろうとする俺をユリスが制止する。
「あの方は、ジルクス様は私のすべてでした!あの方がいないのに生きている意味なんて!」
リリアが頬を叩く。パンという音が響いた。
「フィルリリア様?」
頬を叩かれ、狼狽えるイリナさんにリリアはまっすぐ視線を向ける。
「婚約者をなくされて、お辛い気持ちはわかります。ですが、あなたには先にするべきことがあるんじゃないですか?」
「するべきこと?ですか」
リリアは頷く。
「あなたのお兄様には、もう謝ったのですか?」
イリナさんがハッとした表情になる。
「やはり、まだなのですね」
「確かに、お兄様にひどいこと言いました。お兄様は私のことなんて、もう」
「あなたを連れ戻すよう依頼してきたのは貴女の兄、ゼスト様です」
再び驚いた顔をする。しかし、視線はちらちらと山の頂上を見ている。
「では、ドラゴン討伐の報を手土産に持ち帰りましょう」
「ど、ドラゴン討伐!?軍でも討伐できなかったんですよ!いったいどうやって」
リリアがこちらを向く。
「我が騎士レイハルトが討伐してくれます」
唐突に話を振られ、困惑した表情になる。
「え?俺?」
「貴方ならドラゴンも倒せるでしょ?」
「まあ、(ゲームでなら)ドラゴンを倒したことはあるが」
イリナさんの目が丸くなる。
「倒したって、お一人で、ですか?」
「ええまあ、一人でも倒したことはあります」
イリナさんが信じられないものを見るような視線を向ける。
「まあ、グランツ将軍を圧倒できる実力者ですし、嘘ではないでしょう」
ユリスの発言に口をあんぐりと開ける。
「な、なぜそのような方が今まで無名だったんですか?」
「ここから遠く離れた国の出身だそうよ。だからじゃないかしら」
イリナさんが俺の前に来て、頭を下げる。
「レイハルトさん、どうかお願いします」
俺は頷く。
その後、日が完全に落ちてしまった状態で山を登るのは危険と判断し、野宿をすることにした。驚いたのはイリナさんが野宿に抵抗がないことだった。
「私たちが特別なだけよ」
この国のお嬢様はこんな感じなのかと見ていた俺に、リリアが訂正を入れる。
「貴族の令嬢で馬に乗れる人も少数派ですよ」
つまり俺は、少数派にしか会っていないと。
「夜の見張りは私がします」
「ユリス一人で?」
「明日ドラゴンと戦う貴方を見張りにさせるわけにも」
「オルガもお願いできるかしら」
オルガが頷き、ユリスとオルガの二人(一人と一匹?)で見張りをすることになった。
翌朝になり、再び山を登りだす。山頂に近づいた辺りで後ろから足音が聞こえてきた。振り向くと、近衛兵を従えたオルキス、オグゾル、マルファス、レイザスが駆け足でこちらに向かっていた。
「やっと追いついたぞ」
「お兄様方、なぜこちらに?」
息を切らした貴族連中の呼吸が整うのを待つ。
「お前が、私を置いていくからだろう」
オルキスがリリアに近づいてくる。イリナさんの方を見る。
「クロフィード子爵令嬢は見つかったのだろう。さっさと帰るぞ」
リリアは首を振る。
「いえ、今日ここで、ドラゴンを討伐します」
貴族連中の動きが止まる。
「ドラゴンを討伐、だと?」
「ええ、レイハルトに討伐してもらいます」
オルキスはこちらを見る。そしてにやりと笑う。
「いいだろう。なら俺たちもそれを見届けよう」
急遽貴族連中と近衛兵が加わり、山頂を目指す。




